第85話:夫婦で作る外カリ中ふわの黄金月(と、一口で人間の内臓を熱的に破壊して奴隷化する暗黒経口高熱爆縮お好み焼き)
「……アリス、聞こえる? 私たちのQOL(生活の質)メーターが、この全自動お掃除ロボ(第36話)と超高速光回線(第70話)の恩恵による『極限のだらだらモード』によって、完全に液体となってコタツの底へ融解しきっているわ」
「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の大脳新皮質も、もはや『週刊シルバーストーン』最新号のファンアート閲覧にメモリの9.8割を割いており、自発的な労働を全面的に拒絶しているわ。……だが、そんな私たちの怠惰の神殿の前に、今まさに、信じられないほどギラギラとした『やる気の塊』が接近しているわよ!」
シルバーストーンQOL巨大観光特区のリビング。
冷たいハチミツコーラ(第42話)をストローで啜り、ツルツルお肌(第40話)をコタツの温風にさらしていた銀髪の双子の前に、両手に大きな「ヘラ(コテ)」を持った男爵エドワードと、エレガントにエプロンを締め直したCEO夫人レイラが、鼻息も荒く立っていた。
「アリス、エレン! ……今日こそは、お父さんとお母さんの『共同DIY』の実力を見せてあげるよ!」
エドワードが真鍮のコテをカチャカチャと鳴らす。
「そう。あの子たちが描いた『週刊シルバーストーン』に載っていた、あの漆黒の鉄板で黄金の生地を焼く『関西風お好み焼き』……。あれを作って、夫婦の完璧なマリアージュを証明するのよ」
レイラも優雅に微笑みつつ、やる気満々だ。
アリスとエレンはコタツから小首を傾げてハモる。
「「めんどくさいけど……両親のイチャイチャQOLのためなら、秒速でシステムを組んであげるわ!」」
元教師の知識と、双子の超絶分業DIYが、キッチンの上で再起動された。
1.「ポータブル地熱お好み焼き鉄板」の熱力学
アリス(理論・設計・分子計算担当)は、前回のたこ焼きプレート(第60話仕様)の蓄熱技術をさらに進化させ、熱力学の公式を脳内に展開した。
「エレン、お好み焼きの命は、生地を鉄板に落とした瞬間の急激な温度低下を防ぐことよ。熱量Q、質量m、比熱c、温度変化ΔTにおける熱容量の公式はこうよ!」
Q = CΔT = m cΔT
「今回はハニカムたこ焼き器を平らな極厚チタンプレートに換装した『ポータブル地熱お好み焼き鉄板』をセットするわ。比熱cは小さくても、質量mを極限まで増やした極厚仕様にすることで、全体の熱容量Cを最大化。さらに、生地のデンプンのアルファ化(糊化)と、キャベツの水分を蒸発させて『外カリ中フワ』を維持するための、ステンレスボウルを被せた『蒸し焼き熱伝導ハック(蒸気圧シミュレーション)』を適用しなさい!」
「設計図ロックしたわ、アリス! だったら、私の『超精密魔力クラフト・一体成形(120,000 rpm)』で、チタンプレートの表面を極限まで平滑に削り出して、地熱温泉(第30話仕様)の熱源バルブに直結してあげる!」
エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと精密な魔力放電が散る。
アリスが脳内CADで算出した「気泡を閉じ込めるための生地の乳化バランス」の通りに、チタンプレートが一瞬で滑らかな「黄金の鉄板」へと成形され、台所の地熱配管へと完璧に組み込まれていった。
一人が「界面化学&熱移動シミュレーター(ソフト)」、一人が「ナノ精度放電カッター&超高速チタン成形」。
双子の超絶連携により、わずか数十分で、不気味に熱気を放つ極厚チタンプレートと、余熱を閉じ込める真鍮の「ドームカバー」が完成した。
◇
「いくよ、レイラ! プレヒートは完璧だ!」
エドワードがコテを構え、エレンが混ぜ合わせた小麦粉、出汁、山芋、そして刻んだキャベツとクラーケン肉(第52話)の生地を鉄板へ一気に流し込んだ。
ジュワァァァァァァァァァッ!!!!!
凄まじい熱容量の前に、生地が一瞬にしてパチパチと音を立てて黄金色に焼き上がっていく。
「素晴らしいわエドワード。ソースマヨと青のり、鰹節の準備はバッチリよ」
「よし、ひっくり返すよ! 必殺・エレン直伝コテ返し!」
エドワードが両手に持ったコテを交差させ、
「ハッ! セイ! コロコロ!」
と、残像を置き去りにする超高速スイングを披露。
生地は空中で美しい放物線を描いて一回転し、再び「ジュワァッ!」と一分の崩れもなく鉄板の真ん中へと完璧に着地した。
その横からレイラが、濃厚な「お好みソース」と自家製マヨネーズを、まるで芸術品を描くようにドロドロと流し込んでいく。
それは、双子にとってはただの「微笑ましい夫婦のクッキング」だったが、周囲の光景は完全に絶望のビジョンであった。
◇
その頃。
シルバーストーン領の統合と、監察官イゾルデの洗脳(※ただのから揚げとコタツへの降伏、第67話)に危機感を覚え、屋敷の台所を窓の外から監視していた、王都の精鋭役人の使いである隠密たち。
彼らは、台所から響き渡る「バチバチ! ジュワァァァッ!」という凄まじい高熱爆縮音を耳にして、全員が腰の剣を投げ捨てて、その場に崩れ落ちていた。
「お、おい……嘘だろ……。奴ら、ついに……一口で人間の胃袋を破壊する暗黒兵器を……!」
隠密が恐怖で顔面を土気色にし、サウナハット(第51話仕様)を握りしめながら叫んだ。
彼らの視界には、
不気味に真っ赤に熱せられたチタンプレート。
そこで、コテを持った男爵エドワードが、残像を置き去りにして超高速で球体(お好み焼き)を叩き、
その横で不敵に笑う夫人レイラが、一口啜るだけで脳の理性を粉々に破壊するドロドロの「暗黒のゲル(※ソースマヨ)」を、不気味な縞模様を描くように流し込んでいる光景。
さらに、換気口から漂ってきた、焦げた醤油とソース、そして削り節の、
脳の満腹中枢をダイレクトにハッキングして一瞬で胃袋を完全支配する、あまりにも暴力的で香ばしい匂いが、彼らの鼻腔をダイレクトに直撃した。
「あ、あれは……一口啜るだけで人間の胃袋の理性を破壊するドロドロの暗黒液を黄金の鉄板で焼き、中に深海のクラーケン(タコ)の呪肉を封じ込めて内部圧力を極限まで高めた、最悪の経口高熱爆縮質量兵器――『サーマル・オコノミ・マイン』だ!! あの敏腕プロデューサー(父)の神速コテ返しに巻き込まれたら、我々の肉体は一瞬で鉄板の上で焦げ肉にされるぞォォォ!!!」
ただの「夫婦で作るお好み焼き」なのだが、王都の隠密たちにとっては、一歩近づいた瞬間に胃袋ごと自分たちを粉砕・蹂躙して塵にする「移動式の殲滅爆弾」にしか見えなかった。
あの黄金の鉄板の上で、今まさに「爆縮(※ただのソースの沸騰です)」が最高潮に達している。
「お、お赦しください、質量を支配する魔王夫婦様……! 我々を……どうか鉄板の上で焦げ肉にしないでくださいぃぃぃ!!!」
隠密50名は、戦う意志を1ミリも残さず、
漂ってくる上品なソースと削り節の匂いにヨダレをダラダラと垂らしながら、
あまりの「オコノミ・マイン」への恐怖に、涙を流しながら地面に何度も何度も頭を擦り付け、全力でひれ伏し、土下座を繰り返すのだった。
◇
数分後。台所のテーブルの上。
「あら、エドワード。窓の外にいる方々、黒い目隠しをしたまま『お赦しください!』って、全力で土下座をされているわよ?」
レイラが優雅にコテでお好み焼きを切り分けながら、小首を傾げる。
「おや、本当だねえ。きっとあの子たちのファンなんだろう。よし、思い出のお好み焼きを食べる前に、ハンスたちへの追加バイト用にお掃除ロボの登録手続きをしてあげよう」
「「ふふふふ……」」
フカフカ、サクサクのお好み焼きを口に運び、「美味しいねえ、エドワード」「本当にねえ、レイラ」と、とろけるような甘い会話を楽しむ仲良し夫婦。
その頃、実家(※コタツの中)では。
「コタツ(冷却送風モード)最高ね、アリス」
「ええ、エレン。やっぱりお好み焼きの後の冷たいハチミツレモネードは脳髄に染み渡るわ」
ぬくぬくのコタツの中で、のんきに新作漫画を貪り読む双子。
新章を迎えたシルバーストーン巨大観光特区には、目に見えない「極限の熱力学・界面化学技術」と、他領の強盗や王都の役人たちを一瞬でよだれの奴隷にして完全降伏させる「恐るべき経口高熱爆縮質量兵器の噂」が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。




