第77話:お肌に降り注ぐ極上のミスト(と、生体の防壁を物理的に融解して即死させる広域生物化学兵器)
「……エレン、聞こえる? 私たちのキューティクル(第40話)が、そして全身の表皮という名の大地が、温泉(第30話)やサウナ(第51話)上がりの『乾燥』という名のアサシンによって、1秒ごとに深刻な水分喪失(脱水)の危機に晒されているわ……!」
「聞こえるわアリス。というか、共有されている私の大脳皮質も、せっかくツルツルに整えたお肌(第40話)に、いちいち手作業でボトルから化粧水をパシャパシャと塗りたくるタイムロスと、摩擦による物理的ダメージに、激しい怒りのパルスを送信しているわ。全身に均一に、一瞬で潤いを充填できないなんて、QOL(生活の質)に対する深刻なテロ行為よ!」
シルバーストーンQOL巨大観光特区の夕暮れ。
地熱温泉床暖房とデシカント除湿(第65話)が完璧に効いた常夏サラサラ空間のリビングで、銀髪の双子はコタツに下半身を突っ込みながら、お互いのお肌をペタペタと触り合って深刻な顔をしていた。
どれだけ極上のサウナと温泉を開発しようとも、入浴後にお肌から水分が蒸発する「過乾燥」を防げなければ、美少女としての肌年齢QOLは完成しない。だが、頭から足の先まで、手作業で化粧水を塗るのは面倒極まりない。
「いい、エレン。お肌の角質層を保護するバリア機能を完璧に維持するにはね、弱酸性のローションをナノメートルサイズの微細な液滴にして、体表面に『過飽和』の状態で一瞬にして吸着させる必要があるの。ピエゾ素子(第62話)の超音波と、ベンチュリ効果による流速差圧をハックして、お風呂上がりの火照った全身に極上のローションを均一に噴霧する『全自動保湿ナノスチームドーム』をDIYするわよ!」
「最高ねアリス! 面倒なスキンケアは全て科学で自動化よ! 私の指先、今から超精密ノズル切削機と同調したわ!」
双子の瞳に、のんきにして邪悪な「徹底的なだらだらライフへの執念」が灯り、台所の地下工房へと滑り込んだ。
1.「モイスチャー・ナノローション」の分子設計
アリス(理論・分子設計担当)は、前世の理科教師としての膨大な知識から、角質層の水分保持機能と、界面化学における「吸着平衡」のデータを引き出し、共有視界に分子結合モデルをAR投影した。
「ベースとなる『モイスチャー・ナノローション』を化学合成するわ。第40話の弱酸性石鹸の技術を応用し、魔の森のカミツレ(カモミール)から抽出した消炎作用のあるアズレン誘導体、そして天然ハチミツの多糖類を黄金比でブレンドするの。水分子(H₂O)の水素結合ネットワークをハックして、お肌への浸透圧を最適化するわよ!」
「化学プラントの温度管理は任せて! カモミールの有効成分を壊さないよう、正確に摂氏45℃のマセレーション(浸出)温度をキープするね!」
エレン(実技・精密加工・物理演算担当)が、大鍋の周囲を両手で包み、魔力サーモスタットを起動して温度を0.1℃単位で一定に保つ。
一人が「分子配向と水素結合の確率計算」、一人が「高精度分子熱対流キープ(ハード)」。
二人の神がかり的な連携により、不純物が完全にろ過され、ハチミツの甘い香りとカモミールの爽やかなハーブの香りが漂う、黄金色の「極上モイスチャー・ナノローション」がバケツ一杯に精製された。
2.「超音波ナノミスト噴霧ノズル」の流体力学
次に挑むのは、この極上液体を「煙よりも細かい霧」にするための物理ハックだ。
アリスが脳内の黒板に、液滴の表面張力と空気力学の数式を書き殴る。
「液体を極小の液滴に粉砕するには、オリフィス(狭い開口部)を通過させるときの急激な圧力ドロップP₁ - P₂と、ピエゾ水晶の『超音波微細振動』による引き裂きエネルギーを衝突させる必要があるわ。Young-Laplaceの式に基づく、微細液滴の表面張力γと必要圧力差ΔPの関係はこうよ」
ΔP = 2γ/r
(ここでrは液滴の半径よ!r ≈ 500nmの極上のシルキーミストを作るには、電磁バルブの開口径を正確に10μmにし、結晶化した極小水晶に1.65MHzの高周波電圧を印加して、毛管凝縮を誘発させるのよ!)
「計算ガイド、完全にロックオンしたわ! チタン製の極細ノズルと、ピエゾ水晶の薄板成形、私の指先超高速旋盤(120,000 rpm)で削り出してあげる!」
キィィィィィィィン……!
エレンの指先から、大気を激しく引き裂く超高周波の魔力刃が放たれる。
アリスが共有視界に投影した、複雑なベンチュリ流路とピエゾ水晶プレートの3D設計図に重ねるようにして、エレンはチタンの塊を分子レベルで平滑に削り出し、真鍮のバルブと組み合わせた。
一人が「流体の圧縮率と超音波波動シミュレーター(ソフト)」、一人が「ナノ精度放電カッター&組み上げ(ハード)」。
双子の異次元の共同作業により、地下工房には、中に入って全身で霧を浴びるための、高分子シート(第29話仕様)で密閉された一人用の「全自動保湿ナノスチームドーム(不気味な半透明の円蓋)」と、そこに這い回るチタン製の配管、そして青く妖しく光る魔石LEDインジケーター(第39話仕様)が爆誕した。
◇
3.別棟の暗がりに蠢く、白い超微細ミスト
その日の夜。
温泉とサウナでホカホカに火照った双子は、リビングの別棟に設置された「ナノスチームドーム」へと移動した。
「アリス、ドームの密閉完了よ! ローション注入、超音波ピエゾ素子、クラッチ接続!」
「スイッチ、オォォォン!!!」
ガチャン、とエレンが起動レバーを倒す。
次の瞬間――。
シューーーーーーーーーッ!!!!!
不気味なほど無音に近い、だが確かに大気を激しく引き裂くような高音の噴霧音が、別棟の暗がりに響き渡った。
ドームの内部に設置されたチタン製ノズルから、幾何光学で磨かれた青い魔石LEDの光に照らされながら、
目に見えないほど超微細な、真っ白な「モイスチャー・ナノミスト」が、大気中にゴォォッと勢いよく噴き出し、ドーム内を瞬時に真っ白な虚無の霧で満たしていった。
「あああああ……とろける……! ナノサイズのハチミツカモミールミストが、お肌の角質層を物理的に通り抜けて、ダイレクトに細胞の最深部まで潤していくわ……」
ドームの丸い窓から、泡まみれ(第40話)ならぬ、全身ベタベタの潤い液体を浴びながら、頭からつま先まで極上の脱力笑顔を浮かべているアリスの姿。
「最高ね、アリス……! 脳みそまでハチミツの甘い匂いで満たされて、QOLが……QOLのメーターが臨界点を突破して消滅しそうだべぇ……」
エレンも並んで目をトロンとさせ、心地よい熱気と霧の中で、ふにゃふにゃに溶けたように脱力していた。
◇
4.特務監察官イゾルデの、最悪のバイオハザード大誤解
その頃。
前回の「重力無視空中急襲揚陸ゴンドラ(第48話)」や、直視した瞬間魂を抜き取る「遠隔呪殺FAX(第41話)」の恐怖から、王都の威信をかけて双子を監視し続けていた、堅物エリート監察官イゾルデ。
そして、今やコタツとビールとおでん(第72話仕様)の虜となり、昼間は庭師として穏やかに暮らす元超一流スパイ・アルドは、
暗い夜の庭から、不気味に青白く光る別棟の窓を覗き込み、全身の骨がガタガタと恐怖で砕け散るのを感じていた。
「お、おい……アルド……。あ、あの方々は、今度は誰もいない別棟の暗がりで、一体どんな禁忌の儀式を執り行っているのだ……!?」
イゾルデが、重い白銀の甲冑をガタガタと鳴らし、恐怖で胃を痙攣させながら囁いた。
二人の視界には、
不気味な青い魔石の光(第39話仕様)に照らされた、密閉された不気味な「高分子の繭」。
そのドームの真鍮のバルブから、
「シューーーーーッ!!!」という、大気そのものを物理的に融解させているかのような、恐ろしい高周波の排気音が響き渡っている。
さらに、そのドームの隙間から、
窓の向こうの暗闇へ、生き物のようにドロドロと這い出し、部屋全体を覆い尽くしていく「真っ白な、不気味なほど超微細な死の霧」。
極めつけは、その霧の中で、
全身を謎のベタベタした液体で濡らし、
「ああ……溶ける……バリア(防壁)が、完全に融解して、細胞の最深部までダイレクトに浸透していくわ……」
と、虚空を見つめ、脳を洗脳されたかのようなトロンとした脱力笑顔を浮かべて、ピクリとも動かずに佇んでいる双子の姿だった。
部屋全体に漂う、脳の呼吸中枢をダイレクトにハッキングしてくるような、暴力的で甘い「ハチミツと不気味なハーブの匂い」。
「ひ、ひぃぃぃっっっ!!!???」
イゾルデは、あまりの「世界の終焉」の光景に、顔面を土気色に染めて叫んだ。
「ま、間違いありません、アルド……!!! あれは、浴びた者の皮膚バリア(生体防壁)を一瞬にして物理的に強制融解させ、一分子の抵抗も許さずに体内に即死毒を強制浸透させて骨まで溶かす、最悪の広域生物化学ミスト兵器――『デス・アシッド・ベール』の起動実験です……!!!!!」
アルドも、そのハチミツの甘い匂いを鼻に浴びた瞬間、よだれをダラダラと垂らしながら、恐怖で白目を剥いた。
「い、イゾルデ様! あの甘酸っぱい、脳を直接ハッキングしてくる匂いは、嗅いだ者をドームの中に引きずり込んで『熱分解(第43話仕様)』するための悪魔の罠です! あの白い霧の一滴でも甲冑の隙間に触れたら最後、私たちの肉体は内側から強制融解させられて、ただの黄色い泥水(※ハチミツローションです)にされるのだァァァ!!!」
「に、逃げろ……! 太陽(第46話)と重力(第48話)を支配した悪魔の双子め、ついに吸うだけで人間をミイラと泥水に変える毒霧を完成させたぞ! ここにいたら、あの白い霧の波に飲み込まれて、骨まで溶かされるぞォォォ!!!」
二人の不審者は、あまりの「バイオハザード超兵器」への恐怖と、美味しそうなハチミツの香りの二重螺旋に脳のキャパシティが完全にメルトダウン。
窓から慌てて飛び退き、白目を剥いて泡を吹きながら、庭のドロドロの泥水(※ただの雨上がりの水たまりです)の上を芋虫のように転がり回り、お互いの甲冑を掴み合いながら、夜の闇の中へと全力で這い逃げていくのだった。
◇
その深夜。
ドームから上がり、一滴の水分も逃がさずに、全身が赤ちゃんのように「もっちもち、ぷるっぷる、ツヤッツヤ」に潤い、
ポカポカの地熱コタツ(除湿ドライモード・第65話仕様)に入りながら、のんきに冷たいハチミツレモネードを飲む双子。
「ぷはぁー! やっぱり、全自動ナノミストでお肌の水分保持を完璧にした後の、このサラサラ空間コタツと冷たいレモネードは、脳髄のQOLを極限突破させるわね、アリス」
「ええ、エレン。カモミールとハチミツの親水性バリアが完璧に角質層に定着したわ。これで私たちの毎日の美肌QOLは、365日完璧な『ぷるぷるの帝国』として維持されるわね。科学の完全勝利よ」
「「ふふふふ……」」
お互いのツルツルキューティクル(第40話)の髪と、もちもちのお肌を優しく撫で合いながら、大はしゃぎで高笑いする小さな双子。
窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに庭の水たまり(イゾルデたちの這い跡)を綺麗に掃き清めていた。
領内には、目に見えない「極限の界面化学・流体力学技術」と、隣領の貴族たちを国家崩壊レベルの絶望に陥れる「触れた人間を骨まで溶かして黄色い泥水にする、恐るべき広域生物化学毒霧の噂」が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。




