第76話:泥濘を征く銀の無限軌道(と、大地の全障害物を平地に踏み潰す超悪路走破型・魔導突撃戦車)
「……アリス、聞こえる? 私たちの胃袋、前回の深海スパイス塩(第75話)によって、お寿司もカレーも完全無欠のQOL(生活の質)へとアップデートされたはずなのに、今度は大脳新皮質の『デザート中枢』が、あの特製プリン(第73話)の頂部に添えるべき、ねっとりと完熟した『黄金のバナナとココナッツ』を求めて最大警戒アラート(レッドゾーン)を鳴らし続けているわ……!」
「聞こえるわエレン。というか、同一の意識を共有している私の前頭葉も、あのプリンの滑らかなカスタードゲルの上に、濃厚な南国フルーツの甘みをマリアージュ(融合)させろと叫んでいるわ。場所は分かっているの。年中不気味な底なし沼が広がり、一度足を踏み入れた者は二度と生きて戻れないという熱帯の秘境――『ミリオン・マングローブ』よ!」
シルバーストーンQOL巨大観光特区のリビング。
完璧に除湿されたドライコタツ(第65話仕様)でキンキンに冷えたラムネ(第59話仕様)を喉に流し込みながら、銀髪の双子は脳内の専用回線をかつてない「南国フルーツ熱」で同期させていた。
「ミリオン・マングローブ」は、人間はおろか、魔獣ですら一瞬で泥濘(泥)に飲み込まれる死の沼地。しかし、お気楽極楽なスイーツライフを愛する双子にとって、そこはただの「ちょっと足場がぬかるんだ、高級フルーツの食べ放題エリア」に過ぎない。
「いい、エレン? 泥沼の攻略はね、力学における『接地圧』との戦いよ。物体の質量をm、重力加速度をg、接触面積をAとした場合、接地圧Pの公式はこうよ」
P = m g/A
「泥に沈まないためには、接触面積Aを極限まで最大化して、接地圧Pを限りなくゼロに近づければいいの。だから、私たちの愛車スプリンター(第28話仕様)の足回りを、チタンフレームと高分子蜘蛛の糸(第28話仕様)を組み合わせた『超軽量クローラー・バギー(キャタピラ仕様)』に魔改造するわよ!」
「最高ねアリス! 大地の泥を物理法則で踏みつぶして爆走するのね! 私の『超精密魔力クラフト(120,000 rpm)』、出力最大でいくよ!」
二人の『二心同体』が、悪路走破工学と界面コロイド化学の極致へと同期した。
アリス(理論・設計担当)が、泥との摩擦抵抗とクローラー(キャタピラ)の接地圧分散の3次元設計図を脳内で高速シミュレートし、共有視界に投影する。
エレン(実技・精密工作担当)は、コンビナート(第24話)から調達したチタンプレートと、魔の森の蜘蛛の糸を前に両手をかざした。
キィィィィィィィン!!!!!
大気を鋭く引き裂く、エレンの魔力放電カッター。
エレンはアリスのガイドに合わせ、チタンの薄板を無限軌道のリンクプレートへと超高速で成形。さらに蜘蛛の糸にゴム樹脂をコーティングした強靭な「キャタピラベルト」をものの数分で織り上げ、自転車フレームの足回りにガチャン!と結合した。
さらに、アリスは熱帯の毒蛇や吸血植物への対策として「ポータブル・デトックス(携帯用毒吸引中和デバイス)」を設計する。
「エレン、熱帯の毒素(タンパク質コロイド)はね、特定のpH下でプラスやマイナスの電荷を帯びる性質(等電点)を持っているの。だから、極小の電極を仕込んだ吸引ノズルに微弱な電圧をかけ、電気を帯びた毒素を反対極へと強制移動させる『電気泳動』の原理を利用して、肌に触れた瞬間に一瞬で毒を体外へ吸引・ろ過する回路を構築して!」
「オッケーお姉ちゃん! コロイド電気泳動の超極細フィルター、私の指先刺繍ミシンモードで0.01mmの隙間もなく織り上げるよ!」
一人が「流体摩擦&コロイド電気化学解析」、一人が「ナノ精度放電チタンプレス&高分子織り上げ(ハード)」。
双子の超絶連携により、わずか数時間で、不気味に黒く光る極薄キャタピラを履き、サドルの横に怪しげなノズル(毒吸引デバイス)を備えた、異形の2人乗りバギー『シルバーストーン・グランド・スプリンター』が爆誕した。
◇
数時間後。
不気味なマングローブのツタが生い茂り、泥水がゴボゴボと泡を吹く「ミリオン・マングローブ」の入り口。
「お揃いの泥除けサロペット(母様デザイン)装着、よし! エレン、スロットル全開!」
「スイッチオン! ケイデンス最大、ローンチよ!」
ガチャン!
エレンがペダルを踏み込んだ瞬間、マングローブの静寂が完全に破壊された。
バシャァァァァァン!!!!!
ドゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
「「――きゃっはー! 泥が! 泥が雪のようにはじけ飛ぶわ!!」」
アリスが計算した接地圧分散(P = mg / A)が完璧に作動。
超軽量なチタンフレームと、蜘蛛の糸の極広キャタピラベルトのおかげで、バギーは泥の中に1ミリも沈むことなく、水の上を滑るように「ツーーーッ」と等速爆走。
エレンがペダルを猛烈に踏み込むと、キャタピラが泥を「パァァン!」と両脇に激しく跳ね飛ばしながら、一切のエンジン音もなく、時速80キロという狂気的な弾丸スピードで底なし沼を爆走し始めた。
「アリス、左から吸血植物のトゲが飛んできた!」
「避ける必要なし! スライドターンで泥の壁を作って物理遮断(泥除け)! 毒針がかすめたら、私の電気泳動ノズルで即座にチャージ吸引よ!」
「ハッ! セイ! コロコロ!」
エレンが重心を傾け、キャタピラで泥濘を激しく横滑り(ドリフト)させ、巨大な泥の防壁を「バッ!」と作り出してトゲを完全にシャットアウト。
飛び散る泥水の中、銀髪の双子がピカピカのバギーに乗って「大漁、大漁! バナナもココナッツも毟り放題だべ!」と大はしゃぎで笑い転げていた。
◇
その頃。
マングローブの鬱蒼とした木の上。
領地合併の恐怖(第61話)からすっかりQOLの虜となり、現在は双子の「お庭番」として定着したアルド、そして同行していた監察官イゾルデ。さらに、密猟のためにマングローブに潜入していた「魔の森の密猟団50名」は、
泥沼の向こうから迫り来る「異形の影」に、恐怖で全身の毛穴を開いていた。
「な、なんだあのバケモノは……! 人間なら一瞬で飲み込まれる泥沼を、泥を爆風のように跳ね上げながら、凄まじい速度で爆進してくるぞ……!」
密猟団の首領が、持っていた弓を泥の中に落としてガタガタと震え出した。
イゾルデは、恐怖のあまり顔面を土気色にし、サウナハット(第51話仕様)を握りしめたまま絶叫した。
「ま、間違いない……! あの泥やあらゆる障害物を、自重を無視した超高圧の無限軌道で一瞬にして平地へと押し潰しながら突き進み、さらに、触れた敵の魔力や毒素を逆流・吸引して一瞬で自滅させる、超悪路走破型・魔導突撃戦車――『グランド・プレス・レヴァイアサン』だ……!!! あの無限軌道に近づいたら最後、我々の肉体は一瞬で肉片にされて、泥の肥やしにされるぞォォォ!!」
ただの「バナナを採るための、沈まないお気楽チャリバギー」なのだが、密猟団やエリート騎士にとっては、大地の防衛線を一方的に蹂躙・殲滅する、最悪の超重装戦車にしか見えなかった。
あの不気味に回転する無限軌道が、今まさにこちらに向かって泥を跳ね上げながら(※ただのドリフトです)突撃してくる。
「ひ、ひぃぃぃっっっ!!! お赦しください、泥沼の魔王様……! 我が密猟団を……どうかキャタピラで轢き殺さないでくださいぃぃぃ!!!」
密猟団50名とイゾルデは、戦う意志を1ミリも残さず、
全員がその場で「黒い目隠し(第70話仕様)」を両目にガチガチに巻き付け、
泥水の上に涙を流しながら地面に頭を擦り付け、ひれ伏し、全力で命乞いをするのだった。
◇
数時間後。
ハッチがプシューッと開き、コタツ(地熱床暖房・第69話仕様)にぬくぬくと下半身を突っ込んだ双子。
テーブルの上に並ぶのは、アリスが78℃の極限湯煎で完璧なゲル構造に仕上げた「特製カスタードプリン(第73話仕様)」。
その頂部には、エレンがマングローブで毟り取ってきた、ねっとりと完熟した「黄金の完熟バナナ」と「濃厚ココナッツミルク」が、美しく、そして暴力的な甘い香りを放ちながらデコレーションされていた。
「アリス、このバナナプリン……お口に入れた瞬間、バナナの重厚な甘みと、コタツのぬくぬくが合わさって、脳のシナプスが全部メルトダウン(QOL完全降伏)しちゃうわ……!」
「ええ、エレン。接地圧P = mg / Aの力学と、電気泳動デトックスの完全勝利ね。これで私たちのスイーツQOLは、電気も魔力も消費しない『天然のエコ・フリーザー(第74話仕様)』によって、いつでも無限供給体制よ!」
「「ふふふふ……」」
窓の外では、月明かりの下、新たに雇用されたアルドが、ガシャガシャと走る木製お掃除ロボ(第36話)と肩を並べ、
「あのおでこに巻く目隠し(第70話仕様)、実にQOLが高い……」
と、幸せそうな笑顔で、泥だらけになったバギーを綺麗に掃き清めていた。
新章を迎えたシルバーストーン巨大観光特区には、目に見えない「極限の接地圧分散・電気泳動技術」と、隣領の貴族や密猟団を国家崩壊レベルの絶望に陥れる「すべてを押し潰して爆進する、恐るべき魔導突撃戦車の噂」が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。




