第63話:大空を滑る風の羽(と、王都の防衛レーダー網を無効化して強襲するステルス爆撃グライダー)
「……エレン、聞こえる? 私の脳内五感センサー(甘味部門)が、お好み焼き(第60話たこ焼きのソース応用)や、ふかふかのパンケーキ(前世のホットケーキ)を目の前にして、かつてない深刻な『糖分不足によるQOL(生活の質)低下』を訴えてデモを起こしているわ」
「聞こえるわアリス。というか、共有されている私の大腿四頭筋も、あの黄金に輝く、とろりとした極上の甘み――『メープルシロップ』を今すぐ細胞に摂取しろと激しい暴動を起こしているわ。でも、領地内のカエデの木からは、私たちの厳しい審美眼(胃袋)を満足させるほどの濃厚な樹液は採れないのよね……」
シルバーストーン家のリビング。
地熱床暖房コタツ(第30話仕様)に寝そべりながら、銀髪の双子は脳内の専用回線をかつてない「極上甘味渇望熱」で同期させていた。
前世は三十代の理科教師、成瀬健一。
その知識とチート能力を、ひたすら「だらだらと快適に美味いものを食う」ことに注ぎ込む双子にとって、最高峰のメープルシロップの確保は、いかなる国家インフラ開発よりも優先される絶対正義だった。
アリスの魔力スキャンと古文書のデータ解析によると、領地のはるか北、雲を突き抜けた先にある前人未踏の「天空の浮遊島」に、一年に一度だけ極上の甘い樹液を出すという伝説の巨木「サトウカエデの君主」が存在するという。
「天空の島……重力g = 9.8m/s²を無視して浮かぶ、物理法則への挑戦的な島ね。いいわ、エレン。ないなら、お空を飛んでピクニックがてら回収しに行けばいいじゃない」
「異議なし! だったら、お空の風を完全にハックして、指先一つで操作できる『究極のハンググライダー(シルバーストーン・スカイ・ウイング)』をDIYしちゃいましょう!」
二人の『二心同体』が、空気力学と材料工学の極致へと完全同期した。
同じ魂を分かつ双子だが、その特殊能力のアプローチは完全に対称的だ。
姉のアリスは【理論・設計・分子計算】の支配者。彼女の脳内は、物理化学の複雑な分子構造や、流体力学の3次元ナビエ・ストークス方程式をミリ秒単位でレンダリングする超高性能スパコン。
妹のエレンは【実技・精密加工・物理演算】の体現者。アリスが脳内で導き出した設計図や極限数値を、コンマ数ナノメートル単位の狂いもなく、肉体のジャイロセンサーと魔力で物理干渉・具現化する人間型マルチアクチュエーター。
「エレン、設計図を共有するわ。翼長8メートルの超軽量トラスフレームよ。空気力学において、翼が発生させる揚力FLの公式はこうよ」
FL = 1/2ρv² CLS
(ここで空気密度をρ、速度をv、翼面積をS、揚力係数をCLとするわ。翼の上面と下面の湾曲に最適な差をつけ、ベルヌーイの定理による気圧差を最大化する『NACAプロファイル(極限空力翼断面形状)』を採用するの。さらに、流体の乱れを示すレイノルズ数Reを臨界値にコントロールして、低速時でも絶対に失速しないように圧力勾配を最適化して!)
(最高よアリス! 設計図ロックしたわ。私の『超精密魔力クラフト・一体延伸成形(120,000 rpm)』、出力開始よ!)
エレンの指先から、パチパチと精密な魔力火花が散る。
エレンは、アイアンスパイダーの魔導カーボン(第28話)を、アリスが投影したAR(拡張現実)の等高線ガイドに沿って、中空の極薄トラスパイプへと成形。
さらに、第29話で開発した耐熱高分子シートを、魔力熱による熱圧着で翼面にピタッとシワ一つなく定着させていく。
一人が「極限流体力学・空力解析」、一人が「ナノ精度放電カッター&3D分子積層」。
双子の超絶連携により、二人乗りでありながら、重さわずか15kgという、自重を忘れた綿毛のような超軽量「タンデム・ハンググライダー」が完成した。
「仕上げは、異世界のルール……王都の防衛結界(魔導波レーダー)を欺くための『ステルス空力ハック』よ!」
アリスが不敵に笑い、第26話のスライムジェルを取り出した。
「船底と翼の前面に、スライムジェルの『静電遮蔽皮膜(ファラデーケージ効果)』を極薄コーティングするの。これで空気摩擦による熱と静電気を物理的に100%カット。電磁的・魔力的な反射(レーダー反応)を完全にゼロにし、空と同化する完全ステルスを実現するわ!」
「さすがアリス、お気楽ピクニックの邪魔は誰にもさせないね! スライムジェル、厚さ10μmで均一スプレーコーティング、完了!」
◇
数時間後。
お揃いのパイロット風サロペット(母様デザイン・第25話の極薄スライム防水加工製)を身にまとった銀髪の双子は、ハンググライダーを軽々と小脇に抱え、領地の崖の上に立っていた。
「アリス、風速5m/s、向かい風。いつでも飛べるよ!」
「ピクニック・シーケンス、起動! 目標、天空のサトウカエデの君主! テイクオフよ、エレン!」
「っっっっっりゃあああああああ!!」
エレンが驚異的な大腿四頭筋の跳躍力で、崖から空へと飛び出した。
その瞬間、翼が風を「グッ」と完璧に捉えた。
フワッ……。
「「――きゃっはー! お空を飛んでるわ!!」」
アリスが計算したNACAプロファイルが完璧に作動。
重さわずか15kgのグライダーは、一切の魔力爆発音も、羽ばたき音もなく、完全な「無音」で青空に溶け込んだ。
スライムジェルのステルス効果により、太陽の光をキラリと美しく反射して滑空しているにもかかわらず、周囲の魔導波には一切感知されない。
時速80キロという弾丸スピードで、滑るように、優雅に、そして最高にお気楽に、双子は空のピクニックを満喫し始めた。
「アリス! 雲が、雲が下を流れていくよ! 喉が渇いたから、冷たいコーラ(第42話仕様)を飲もうよ!」
「ええ、エレン。このグライダーの操作は、体重移動(重心ハック)だけで指一本で曲がれるように設計してあるから、コーラを飲みながらでも余裕よ」
◇
その頃。
王都の遥か上空を監視する、最高防衛結界の管制塔。
そこには、前回の「温泉サウナ(第61話)」でQOL降伏し、現在は双子の「お庭番兼デバッガー」となった元・超一流隠密アルドが、出張任務として王都の天術魔導士たちと共に、不審な魔力反応がないかを監視していた。
その瞬間、魔導士たちの持っていた水晶(レーダー受信機)には、何の反応も示されなかった。
だが、アルドの「元・超一流の視覚(野生の勘)」は、雲一つない青空の遥か高空に、キラリと一瞬、太陽の光を反射して怪しく輝く「何か」を捉えた。
「ん……? なんだあの輝きは。……鳥にしては、羽ばたいていない。滑るように、あまりにも不自然な超高速で移動している……」
アルドが望遠鏡を覗き込んだその瞬間、彼の全身の毛穴が恐怖で開き、顔面が土気色に染まった。
「お、おい……嘘だろ……。あ、あいつら、ついに……王都の頭上(絶対領空)まで支配しおった……!」
アルドの視界には、
防衛結界レーダー(水晶)には1ミクロンの魔力反応すら表示されない(完全ステルス)にもかかわらず、
地上数百メートルの上空を、一切のエンジン音も魔力音もなく、ただ「無音」で、時速80キロという弾丸スピードで優雅に滑空していく、あの銀髪の双子の姿。
しかも、彼女たちはお揃いの不気味な(※ただの可愛い)服を着て、
片手で不気味な黒い液体(※ただのハチミツコーラです)をがぶがぶと飲みながら、にやにやと邪悪に笑い、
王都の全景を完全に「上空からロックオン(見下ろして)」している。
「あ、あれは……! 我が国の誇る最新の防衛魔導結界に一切感知されない完全なステルス性を持ち、王都の頭上を無音で完全支配し、上空から一国を一瞬で更地にする超高圧の熱風爆弾(※ただの温かいパンケーキを焼く妄想です)を投下するための、空中ステルス強襲要塞――『デス・グライダー』だ……!!!」
天術魔導士たちも、アルドの言葉と、望遠鏡に映る「重力を無視して無音で飛ぶ怪鳥」の姿に、恐怖で腰を抜かしてその場にひれ伏した。
「な、なんだあの、世界の理を無視した無音の殺戮兵器は……!?」
「結界レーダーに一切映らない! あれに目を付けられたら、我が国は一瞬で灰にされるぞォォォ!!」
「お赦しください、空の魔王様……! 我が王都を……どうか爆撃しないでくださいぃぃぃ!!!」
管制塔の全員が、戦う意志を1ミリも残さず、涙を流して天に向かって土下座を始め、王都に「超ステルス爆撃グライダー襲来!」の極秘警報(大誤解)が駆け巡るのだった。
◇
そんな、王都を更地にする「終末のステルス爆撃機」と大誤解されているとは夢にも思わない双子は、
悠々と天空の浮遊島へと着陸。
年に一度だけ流れる、サトウカエデの君主の「極上樹液」を、からくり吸引ポンプ(第36話仕様)でちゃっかりと大量にボトルへと回収していた。
「アリス、無事にメープルシロップがカンストしたよ! 重さもぴったり10kg、積載許容の範囲内ね!」
「完璧よエレン。没落領地に帰って、ふかふかのパンケーキの上に、この黄金の極上甘味をぶっかけるわよ! 科学と、私たちの食への執念の完全勝利ね!」
「「ふふふふ……」」
お互いのツルツルキューティクル(第40話)の髪を揺らしながら、大はしゃぎでハイタッチを交わす小さな双子。
新章を迎えたシルバーストーン領には、目に見えない「極限の空気力学・材料工学技術」と、隣領の貴族たちを国家崩壊レベルの絶望に陥れる「王都のレーダーを完全無効化し、上空から一瞬で全てを消し去る、恐るべきステルス爆撃グライダーの噂」が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。




