第55話:静寂に響く連打のドラム(と、大地の水分を瞬時に蒸発させる超高温ガス熱風照射キャノン)
「……アリス、聞こえる? 私の鼻腔粘膜が、この至高の蕎麦殻風枕(第4話)とフフカフカシーツ(第47話)に付着した、目に見えない極小のアサシン――『ハウスダストとダニ』の存在を検知して、激しいくしゃみの防衛反応を連発しているわ……!」
「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の大脳皮質も、ここ数日の天候不良でお布団が干せず、ダニどもが繊維の奥でQOL(生活の質)の略奪行為を働いている気配に、かつてない怒りのパルスを送信しているわ。せっかくのお布団がハウスダストだらけだなんて、睡眠の帝国に対する深刻なテロ行為よ! 完璧な『布団乾燥&全自動布団たたきシステム』を作るわよ!」
シルバーストーン家の寝室。
お揃いのツルツルお肌(第40話)を揺らしながら、ベッドの上で鼻をムズムズさせていた銀髪の双子は、脳内の専用回線で「お布団の完全無菌化」をスローガンに掲げ、限界突破の創作意欲で同期していた。
前世は三十代の理科教師、成瀬健一。
睡眠を何よりも愛する俺たちにとって、ダニの繁殖やホコリの残留など、一秒たりとも容認できるものではない。
「いい、エレン。布団のホコリを完全に引き剥がすにはね、静電気力による『吸着』、物理的な衝撃による『剥離』、そして熱による『死滅』の3段構えが必要よ。まずはライデン瓶(第35話)の静電気をハックして、クーロンの法則に基づきチリを一網打尽にする『静電吸着パタパタはたき』を作るわよ!」
アリス(理論・設計・分子計算担当)が脳内の黒板に、電荷の引き合う静電気力の公式を書き殴る。
F = k q₁ q₂/r²
(エレン、はたきのブラシ先端に帯電させるマイナス電荷q₁と、ホコリのプラス電荷 q₂の吸引力Fを最大化するため、ライデン瓶から極微弱な静電界を安全に誘導する『導電スリット』を設計して。さらに、布団たたきのコアは『振動工学』よ! 布団の繊維の固有振動数に合わせて、等幅かつ毎秒10回(10Hz)の等速往復運動で布団を叩き出す、クランク機構を組み込むわ!)
(最高ねアリス! 設計図ロックしたわ! 私はお掃除ロボ(第36話)で培ったからくりギヤを応用して、毎秒10回の超高速アタックをくり出すチタン製アームを削り出すよ!)
エレン(実技・精密加工担当)が、作業台の前にチタンの端材とアイアンウッドを並べ、両手をかざした。
「『超精密魔力クラフト・クランクギヤ高速切削モード(120,000 rpm)』!」
キィィィィィィィン!!!!!
エレンの指先から放たれる、鼓膜を激しく引き裂く超高周波の魔力刃。
アリスが共有視界に透過投影した「偏心カムとスライダクランク」の3次元設計等高線に沿って、エレンは髪の毛1本以下のクリアランス(バックラッシュ)で、超高速往復運動に耐えうるチタン製布団たたきアームと多段変速ギヤを削り出していった。
一人が「静電シミュレーター&振動応力解析」、一人が「ナノ精度放電カッター&組み上げ(ハード)」。
二人の神がかり的な調和により、わずか数時間で、庭の別棟へと設置される、巨大な木製の「布団乾燥チェンバー(箱)」と、それに連結された不気味な「多関節往復打撃チタンアーム」が爆誕した。
さらに、アリスは熱による滅殺を完璧にするため、庭のパラボラ温水タワー(第46話)から伸びるダクトをハック。
「エレン、温水タワーの受熱パネル背部から発生する、摂氏80℃以上の超高温の廃熱(空気)を、このアルミ製耐熱ダクトで布団チェンバーに直接引き込みなさい! 強制対流によってダニを熱死滅(摂氏60℃以上で10分)させ、水分を強制的に蒸発(飽和水蒸気量の操作)させて、お布団をフカフカに膨らませるのよ!」
「オッケー! 高温ダクトの敷設はフィジカルの出番ね! 温泉山頂ロープウェイ(第48話)のワイヤー張りに比べたら、こんな配管、お庭のパズルみたいなものよ!」
エレンが驚異的な肉体制御とフットワークで、直径30cmの巨大なアルミ蛇腹ダクトを高台のタワーから別棟のチェンバーへと、パパパパン!と一瞬で敷設し、接続した。
◇
「よし、エレン。布団滅菌乾燥シーケンス、起動よ! 温風ダクト、バルブ全開! からくりクランク、ロック解除!」
「スイッチ、オォォォン!!!」
ガチャン、とエレンが起動レバーを倒す。
次の瞬間、シルバーストーン家の庭の別棟から、世界の理を完全に無視した「大音響と熱気」が爆発した。
ズババババババババババババッ!!!
バリバリバリバリバチバチバチッ!!!
「「――ひょおおお! 凄い連打力ね!!」」
毎秒10回という、からくりクランクが駆動する凄まじい機関銃のような打撃音が、静寂の庭に鳴り響いた。チタン製のアームが目にも留まらぬ速さで布団を等幅で往復連打し、繊維の奥に潜んでいたホコリを物理的に弾き出す。
さらに、ライデン瓶から誘導された青白い静電気の火花が「パチパチパチ!」と不気味に弾け、弾き飛ばされたホコリを一分子の漏れもなく「静電パタパタはたき」がシュルルルと物理的に100%回収していく。
そして、パラボラ温水タワーからダクトを通じて引き込まれた摂氏80℃の激熱温風が、チェンバーの排気口から「モウモウ」と真っ白な水蒸気の熱気となって、室外へと勢いよく噴き出した。
「やったわエレン! ダニの生存率0%、ホコリ回収率100%! 完璧なフカフカお布団の完成よ!」
「きゃっはー! 気持ちいい! お庭がちょっとうるさいけど、これでお布団が年中無休でおひさまの匂いね!」
双子は、ゴワゴワだった布団が、一瞬にしてホカホカ、フカフカ、フワフワの「天使のハルシオン(寝具)」へと生まれ変わっていく様子を前に、お互いの髪を揺らしながら、「ふふふふ……」と手を叩いて高笑いしていた。
◇
その頃。
夏の日の午後、シルバーストーン家の別棟の裏、シダの生い茂る茂みの中に、前回の「超音波潜水母艦クラーケン召喚(第52話)」の恐怖で完全に精神を病みかけながらも、涙を流して這い戻ってきた隣領の超一流隠密は、
その窓から覗く、この世の終わりとしか思えない「不気味な大音響と光景」に、恐怖でその場に失禁し、泥水の中にへたり込んでいた。
「お、おい……嘘だろ……。あ、あいつら……ついに、屋敷全体を、近づく者すべてを粉砕する『無人要塞』に改造しおった……!」
しんと静まり返った夏の庭。
そこに、突如として鳴り響く、
「ズババババババババババババッ!!!」という、鼓膜を一瞬で引きちぎり、敵の肉体を物理的に粉砕して圧殺するような、凄まじい機関銃のような超高速打撃音。
そして、その打撃アームの隙間で、パチパチ、バリバリと妖しく青白く弾け、近づく者を感電死させる「電磁の火花(※ただの静電気吸着です)」。
極めつけは、高台の巨大タワー(第46話)から伸びる巨大な不気味なパイプから、
「ゴォォォォォォォッ!!!」という地獄の咆哮とともに、
吐き出され、浴びた者の身体の水分を一瞬で蒸発させて即死ミイラにする、凄まじい「超高温ガス(※ただの布団の湿気交じりの温風です)」の白い熱風。
「ひ、ひぃぃぃっっっ!!! 身体の水分が、熱気だけで干からびるぅぅぅぅぅ!!!」
隠密は、あまりの「地獄の要塞」の光景に、全身の毛穴から冷や汗を噴き出させ、失禁したまま泥水を四つん這いで這いずり回った。
「あ、あれは……超高速で近づく敵陣を物理的に圧殺・粉砕する、連打式連射打撃兵器『ギガ・メガ・パウンダー』と、浴びた者の水分を一瞬で強制蒸発させて即死ミイラにする、超高温ガス熱風照射キャノン『サーマル・デストロイヤー』を完全に融合させた、難攻不落の無人防御要塞だ……!!!!! あの白い熱風を浴びたら最後、我々の身体は一瞬で干し肉にされるぞォォォ!!!」
天候を支配し(第35話)、太陽の光線で都市を溶かし(第46話)、重力をバグらせ(第48話)、
今度は、自分の屋敷に一歩近づく敵を、自動的に、一瞬で消し炭とミイラにする超高速連打キャノンの結界。
あまりの圧倒的な防衛技術と世界の終焉のビジョンに、隠密は脳のキャパシティが完全に崩壊した。
「に、逃げろ……! ここにいたら、あのキィィンという音に脳を溶かされ、パウンダーで肉を叩き潰され、熱風キャノンで干し肉にされるぞォォォ!!」
隠密は、あまりの「無人防御要塞」への恐怖と脳髄を揺さぶる超高速打撃振動に、頭を抱えて草むらの中を四つん過ちで這いずり回り、白目を剥いて泡を吹き、夏の日の夕暮れの闇の中へと必死に逃げ去っていくのだった。
◇
その夜。
コタツ(地熱床暖房・送風モード)の中で、ダニもホコリも1%も残っていない、おひさまの匂い(太陽光タワーの廃熱効果)とハチミツの上品な香りがするフカフカの白い布団に包まれながら、
ぐっすりと暖まる双子。
「ぷはぁー、やっぱり完全に滅菌・乾燥されてホカホカになったお布団で飲む、温かいハチミツミルクは脳髄のQOLを極限突破させるわね、アリス」
「ええ、エレン。お布団の悪魔を物理・静電気・熱力学の力で完全駆逐したわ。これで私たちの睡眠QOLは、年中無休で完璧な『安眠のフカフカ帝国』として維持されるわね」
「「ふふふふ……」」
窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに庭に落ちたわずかなホコリを綺麗に掃き清めていた。
領内には、目に見えない「極限の静電気学・振動工学」と、隣領の貴族たちを国家崩壊レベルの絶望に陥れる「近づいた人間を一瞬で叩き潰し、熱風でミイラにする、恐るべき無人打撃要塞の噂」が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。




