第56話:氷原を滑る銀のエッジ(と、極寒の領土を一瞬で融解崩壊させる熱地殻突撃戦車)
「……アリス、聞こえる? 私たちのQOL帝国において、炭酸コーラ(第42話)の爽快な刺激と、お肌ツルツル石鹸(第40話)による極上の泡立ちライフが、まさか『アルカリと重曹(炭酸水素ナトリウム)の深刻な原料枯渇』という未曾有のインフラ崩壊危機に直面しているわ……!」
「聞こえるわエレン。というか、コンビナート(第24話)での限られた化学合成プロセスじゃ、全領民に配給するだけの原料供給スピードに限界があるのは明白よ。ならば……天然の超高純度ソーダ鉱石(トロナ鉱石)が無限に眠るという、北部凍土の『乾いた塩湖』へバカンスを兼ねてピクニックに行くしかないわね!」
シルバーストーン家のリビング。
地熱床暖房コタツ(第46話)でぬくぬくと温まりながら、銀髪の双子は脳内の専用回線をかつてない「ピクニック(※という名の資源強奪)熱」で同期させていた。
北部凍土。それは一年中分厚い氷原に覆われ、いかなる馬車も車輪が滑って進むことのできない不毛の極寒地帯。だが、前世は三十代の理科教師、成瀬健一。
物理法則を玩具にする双子にとって、氷の上など「究極に摩擦係数を減らせるボーナスステージ」に過ぎない。
「いい、エレン。ソリを滑らせるとき、最大の敵は氷と金属の間の『境界摩擦』よ。ならば、エッジの先端を電熱インナー(第37話)の技術でほんの『 0.1℃』だけ局所加熱し、氷の融解熱(ΔH fus ≈ 6.01kJ/mol)をハックして、表面をわずかに溶かすの。その溶けた水膜を潤滑油にする『水膜境界潤滑システム』を作るわよ!」
アリス(理論・設計・数理担当)が脳内の黒板に、相転移の熱力学公式と粘性抵抗の計算式を書き殴る。
エレン(実技・精密加工・フィジカル担当)の指先が、ガラクタ置き場から引きずり出してきた愛車『シルバーストーン・スプリンター(第28話仕様)』のフレームを前に、パチパチと頼もしい魔力火花を散らした。
「任せなさいアリス! スプリンターの足回りをスノーエッジ仕様に大改造ね! ついでに、氷を強力に噛んで時速100キロで爆走するための、極薄『チタン製氷上スパイクホイール』も削り出すわ!」
「『超精密魔力クラフト・スノーアーム切削モード(120,000 rpm)』!」
キィィィィィィィン!!!!!
エレンの指先から、大気を引き裂く凄まじい超高周波の魔力刃。
アリスが共有視界に透過投影した「エッジ表面の10nmの微細な溝(水流を逃がすための排熱スリット)」の等高線図に沿って、エレンはチタンの塊を髪の毛1本以下の精度で削り出していく。
一人が「極限流体・瞬間相転移シミュレーター(ソフト)」、一人が「ナノ精度放電カッター&組み上げ(ハード)」。
双子の超絶連携により、スプリンターのタイヤはチタン製の極薄エッジと、極小の氷上スパイクが針のように並んだ不気味なホイールへと換装された。
さらに、二人は第51話で大活躍した「黒いステルス耐熱・耐酸スーツ(黒タイツ)」を着用。
「これ、防寒性も遮熱性も最高だし、空気抵抗Cd値が極限まで減るからスノーモービル・ドライブに最適ね、アリス!」
「ええ、エレン。全身のラインが不気味にフィットしてるけど、QOLのためよ!」
夕暮れ前、漆黒の全身タイツを纏った不気味な幼女二人を乗せ、銀色に輝くソリを履いた『魔導スノーモービル・スプリンター』が氷原の入り口に佇んでいた。
◇
極寒の風が吹き荒れ、見渡す限りの銀世界が広がる北部凍土。
「スロットル、全開! 水膜ヒーター、オン!」
「スイッチ、オォォォン!!!」
ガチャン、とエレンがギヤを叩き込む。
次の瞬間、世界の理を無視した「快音」が氷原を引き裂いた。
キィィィィィィィィン!!!!!
「「――きゃっはー! 摩擦が! 摩擦が本当にゼロよ!!」」
アリスが計算した「電熱インナー式・0.1℃瞬間融解システム」が完璧に作動。
エッジが氷に触れる刹那、先端の熱が氷をドロドロに溶かして「極薄の水膜」を作り出し、摩擦係数を極限までゼロに近づけていた。
スプリンターは、不気味にパチパチと電熱の青い火花を散らし、エッジの通った跡の氷を「真っ二つに割り(ただのスノーエッジ)」、表面の氷を妖しくドロドロに溶かしながら、時速100キロという驚異的な速度で氷原を爆走し始めた。
「エレン、前方から氷の段差が迫っているわ! 相対速度v = 100km/h! 抜重の準備!」
「私の体幹ジャイロと、このチタンスパイクホイールをなめないで! ハッ!!」
エレンが驚異的な肉体制御でハンドルをねじ伏せると、チタンのスパイクが氷を「ガガガガッ!」と力強く噛み、スプリンターは空中へ大きく跳躍。
不気味な黒タイツをピチピチに輝かせた双子が、空中で華麗にポーズを決めながら、再び無音で氷原へと着地し、爆進していった。
◇
その頃。
極寒の吹雪の中、何重もの毛皮に包まれて凍えながら、双子の「魔王級インフラ(※ただのお風呂とラジオ)」を監視し続けていた隣領の超一流隠密は、
望遠鏡から見えるその光景に、涙を流して雪の中にひれ伏していた。
「お、おい……嘘だろ……。奴ら、ついに大自然の『氷河期』すらも、自らの手下に置きおった……!」
しんと静まり返った極寒の氷原。
そこを、キィィィィンという、脳髄を直接揺さぶる不気味な高周波の金属音を響かせ、
大地に張られた絶対の凍土結界を「真っ二つに切り裂き」、
エッジから放たれる不気味な熱光線で、近づくものすべての足元を一瞬で「ドロドロに融解」させながら、時速100キロという恐るべき速度で爆走してくる、全身黒タイツ(※ただの耐熱インナーです)の死神の双子の姿。
「あ、あれは……! 大地の防衛結界である氷原を強制融解させ、大雪原をただの泥の海に変えて敵国の防衛網を一日で崩壊させる、極地蹂躙用・熱地殻突撃戦車『ブリザード・メルト・デストロイヤー』だ……!!!!!」
隠密は、あまりの圧倒的な破壊技術の暴走に、冷たい雪の中に這いつくばった。
「あのエッジから放たれる不気味な熱気……! あれを我が領の防壁に浴びせられたら最後、自慢の鉄壁の結界は一瞬で溶かされて水にされ、領内は泥水の海に沈められるぞォォォ!!!」
ただの「お風呂とコーラのためのソーダ鉱石拾いピニック」なのだが、隠密にとっては、冬の間に隣国を一方的に溶かして壊滅させる「終末の気象蹂躙兵器」にしか見えなかった。
あの不気味に黒い死神たちが一航行すれば、どんな堅牢な極寒の城塞も、一日でただの水溜まりにされるのだ。
「お赦しください、氷原の魔王様……! 我が領の氷の結界を……どうか溶かさないでくださいぃぃぃ!!!」
隠密は、あまりの「熱地殻兵器」への恐怖に、涙を流してボロボロになりながら、
白目を剥いて泡を吹き、冷たい新雪の中に真っ逆さまに卒倒し、そのまま気絶して夜の闇の中へと必死に逃げ去っていくのだった。
◇
その夜。
無事に目的の北部塩湖に到着し、カチカチに凍りついた地表から、超高純度のトロナ鉱石(ソーダ鉱石)をからくりスコップで大量に強奪(採取)した双子。
帰り道、スプリンターの荷台を鉱石でパンパンに膨らませ、お肌ツルツル(第40話)の姿で、冷たいハチミツコーラ(第42話)を片手にコタツでぬくぬくと暖まっていた。
「ぷはぁー、やっぱり極寒の氷原を時速100キロで爆走した後に、この暖かいコタツで飲む冷たいコーラは、大脳新皮質のQOLを極限突破させるわね、アリス」
「ええ、エレン。お布団の乾燥(第55話)に続き、今度はスノーモービルの水膜潤滑技術を完璧に確立したわ。これでコンビナートの重曹とアルカリ(石鹸・コーラの原料)は年中無休で無限供給体制よ!」
「「ふふふふ……」」
窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに庭に落ちたわずかなトロナ鉱石の粉を掃き清めていた。
領内には、目に見えない「極限の摩擦力学・相転移技術」と、隣領の貴族たちを国家崩壊レベルの絶望に陥れる「近づいた人間を一瞬で溶かして水にする、恐るべき地殻融解戦車の噂」が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。




