表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
54/69

第54話:黄金のスパイスと脳を焼く秘伝カレー(と、家族全員QOL完全降伏)

「……アリス、聞こえる? 私の脳内五感センサーが、この『砂漠の黄金クミン』の鮮烈な香りを嗅いだ瞬間、前世の食卓で輝いていた、あのトロトロに煮込まれた『サシ入りビーフカレー』のビジョンを12Kの超高画質で映し出しているわ……!」

「聞こえるわエレン! 異世界の肉とお米(第24話)はすでにコンビナートで最高品質にアップデートされている。なら、今夜こそ私たちの『カレー欲』を限界突破のQOL(生活の質)へと導く、家庭の秘伝レシピを完全再現するわよ!」


シルバーストーン家の台所。

隣領の騎士団や盗賊たちを「気象破壊兵器(第53話仕様)」の誤解で完全降伏させ、大事そうにクミンを抱えて帰還した銀髪の双子は、すでにエプロンを着用してやる気満々だった。


そこへ、久しぶりに姿を現した父親のエドワードと母親のレイラが、不思議そうな顔で覗き込んできた。

「おや、アリス、エレン。また庭で不穏な光線を放つ(第46話)のではなく、今日は台所で大人しくしていると思ったら……その不気味なほど香ばしい、大地の香りがする黄色いスパミンは一体何だい?」

「あら、エドワード。あの子たちが作るものは、いつだって私たちの胃袋を虜にするのだから、大人しく見守りましょう。それより、あの子たち、また何やら不気味な機械を並べているわよ……?」


両親が温かい目で見守る中、双子の『二心同体デュアル・コア』による、異世界初の「化学的カレー調理ライン」が爆発的な速度で稼働を開始した。


まずは、カレーの具材の物理的な下処理だ。

アリス(理論・化学担当)が、前世の家庭のレシピを脳内の黒板に展開する。


「エレン、じゃがいもはね、そのまま煮込むと煮崩れてスープがザラザラになるの。だから、まずはデンプンを加熱して事前にアルファ化(糊化)させて、細胞壁を安定させる必要があるわ。水の共振周波数である『2.45GHzのマイクロ波(電磁波)』を魔法で局所設計したから、じゃがいもに向けて5分間正確に照射して!」

「ラジャー! 私の魔力、今、正確に『家庭用電子レンジ(500W)』と同調したわ! じゃがいもを水分で包み込み、内部から一気に過熱してホクホクにするよ!」


エレン(実技・精密加工・フィジカル担当)が、水洗いしたじゃがいも2個を魔法の過熱障壁(ラップ代わり)で包み、指先からジジジ……と高周波の魔力を送り込む。

わずか5分後、皮をむかれたじゃがいもは、まるで電子レンジから取り出したかのように完璧にホクホクとした極上のプレ加熱状態へと仕上がった。


続いて、野菜の精密カットと、アクの物理的除去である。


「エレン、にんじんは味が染み込みやすいよう『乱切り(表面積を最大化)』。たまねぎ2個は、甘みを引き出すために極小のみじん切りよ! にんにくと生姜もみじん切りでお願い!」

「任せなさい! 私の右手指先は、今や『120,000 rpmの超高速カッター』と同調しているわ!」


トトトトトトトトトトトトト!!!


エレンの手が残像となって動き、まな板の上で、たまねぎが秒速で極小の「あめ色炒め用みじん切り」へと粉砕されていく。

さらに、エレンはフライパンにオリーブ油を大さじ2入れ、からくり火力を中火にして、たまねぎをじっくりと、甘みが凝縮された完璧なあめ色になるまで炒め上げた。


「次は、肉の旨味を凝縮する『アク取りプロセス』よ!」

水を入れた鍋に、酒大さじ3、サシが綺麗に入った極上のカレーシチュー用牛肉、そしてローリエ2枚を投入。


「エレン、強火で煮ると肉のタンパク質が凝固して、アクが一気に出るわ。吹きこぼれないように火力を監視しながら、一分子の漏れもなく丁寧に取り除いて!」

「了解! 私の『筋肉ジャイロアク取りスプーン(残像仕様)』をなめないで!」


鍋が沸騰した瞬間、あふれ出たアクに向かって、エレンの手が神速でスプーンを滑らせる。

「ハッ! セイ! ホー!」

シュババババババッ! と、目にも留まらぬ速さでアクが取り除かれ、鍋の中の水は、驚くほど澄み切った極上の牛だしスープへと変わっていった。


そこに、にんじん、炒めたたまねぎ、鶏ガラスープ大さじ2、みりん大さじ1、薄切りにしたにんにく、そしてナツメグ、シナモン、ターメリックをアリスの黄金比率で投入。

「エレン、第43話のキャンピングで使ったあの極薄高分子シートを円形にカットして、落としクッキングシートとして載せて! 弱火で20分、対流熱をコントロールしながら煮込むのよ!」

「オッケー! 熱対流を均一にして、にんじんにスープの旨味をじっくり吸い込ませるよ!」



20分後。

別棟のコンビナート(第24話)で、双子が前世の味の記憶を元にDIYしていた「特製カレールー(3種)」のブレンド段階に移る。


「アリス、いよいよ本命のルーね!」

「ええ。これぞ日本の食卓が生み出した奇跡のブレア(調合)よ。スパイスのキレが際立つ『ジャワ中辛(2)』、コクとまろやかさを担保する『こくまろ中辛(2)』、そして優しい甘みとフルーティーな酸味をプラスする『バーモント甘口(1)』! この『2:2:1』の比率が、お互いの長所を引き立て合う『カレールーの黄金比トリプル・マリアージュ』よ!」


火を止め、3種のルーを味ととろみを見ながら投入。

さらにアリスは、引き出しからこれまでのDIY技術の結晶である調味料たちを取り出した。


「マヨネーズ大さじ1、ケチャップ大さじ1、ウスターソース大さじ1、しょう油大さじ1で下味を補強! そして、仕上げに今回の冒険で手に入れた『黄金クミン(ガラムマサラ)』、一味唐辛子、みじん切りにした生姜、すりおろしたリンゴ半分、深みを与えるインスタントコーヒー大さじ1、そして万能調味料の異世界版『魔覇(マッハ=味覇)』を大さじ1投入して、味の深みを宇宙の果てまで拡張するわよ!」

「最高よアリス! 最後にホクホクのじゃがいもを入れて……仕上げは『熱力学冷却プロセス』ね!」


アリスが不敵に笑う。

「ええ、エレン。料理はね、温度が下がるときに最も具材の細胞壁が収縮し、浸透圧(ブラウン運動の減衰)によってスープの旨味が内部に『グッ』と引き込まれる(味が染みる)のよ! 鍋を急冷するわよ!」

「ラジャー! 『魔力水冷ヒートシンク(摂氏10℃の急速熱吸い取り)』!」


エレンが鍋の周囲を両手で包み、熱量を強制的に吸い上げて、お湯の中で一気にカレーを常温まで冷却する。

これにより、じゃがいもとにんじん、そして牛肉の深部まで、濃厚なカレーの旨味がミリ単位の隙間もなく完璧に浸透(相転移)した。


食べる直前、再び弱火でじっくりと加熱し、とろみがつくまで煮込む。

シルバーストーン家のダイニングには、スパイシーで、甘酸っぱく、そして脳の理性をお気軽にとろけさせるような、あまりにも罪深くて暴力的な香りが満ち満ちていた。



「さあ……父様、母様。没落領地のQOL、ついに頂点へ。特製シルバーストーン・ビーフカレーです!」


ふっくらとツヤツヤに炊き上がったご飯(第24話仕様)の上に、

エレンが黄金の比率で煮込まれた、ゴロゴロのじゃがいもとトロトロの牛肉、そしてあめ色のルーをたっぷりとぶっかけた。


「お、おい……。なんだこの、スパイスの芳醇な香りと、肉の甘い匂いは……。脳が……匂いを嗅いだだけで、私の騎士としてのプライドが降伏を訴えているぞ……」

エドワードがじゅるりと生唾を飲み込む。


「まあ……! なんて美しく輝く褐色のお料理かしら……。スプーンが、スプーンを持つ手が止まらないわ……!」

レイラが目を輝かせ、家族全員でスプーンを握りしめ、一気に口へと放り込んだ。


「「「…………っっっっっっっふ、ふおおおおおおおおおおお!!!!」」」


口に入れた瞬間、ドォン!と、脳内の大脳新皮質にカラフルなスパイスの超新星爆発スーパーノヴァが吹き荒れた。

サシの入った牛肉の脂が口の中でさらりととろけ、たまねぎとリンゴの濃厚な甘みの後に、

ジャワカレーのキレのある辛さと、エレンが炒めた黄金クミンの鮮烈な香りが、

マヨネーズや「魔覇ウェイパァー」の暴力的な旨味とマリアージュして、五臓六腑を完璧に支配していく。


「なんという……なんという美味さだ……! 辛い、だが、リンゴの甘みとコーヒーのコクが重なり、無限に食べ続けられる! 温泉(第30話)に入ったとき以上の多幸感が、体中を駆け巡っているぞ!」

エドワードが目を血走らせ、ご飯を大盛りでおかわりしながら叫ぶ。


「ええ……! このホクホクしたじゃがいもにも、お肉の旨味が中まで完璧に染み込んでいて(※アリスの冷却相転移の効果です)……、お肌もツヤツヤになりそうだわ! 没落貴族シルバーストーン家、本日をもって、カレーの虜として完全降伏いたします!」

レイラも優雅さを完全に投げ捨て、スプーンを猛烈な勢いで往復させていた。


「「ふふふふ……」」


ツヤツヤのお米に極上のルーを絡め、お互いのツルツルキューティクルの髪を揺らしながら、

「QOLの完全勝利ね、アリス!」

「ええ、エレン。喉越し最高、胃袋の完全支配よ!」

と、大はしゃぎでハイタッチを交わす小さな双子。


窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに庭の落ち葉を掃いていた。

領内には、目に見えない「極限の電磁波ハック・熱力学的浸透調理技術」と、隣領の貴族たちを「一口食べるだけで魂がとろけてQOLの奴隷にされる、恐るべき悪魔の褐色のスープの噂」が、優しく、そして最高にスパイシーでお気楽に広がり続けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ