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第53話:砂海を滑る銀のそり(と、大陸を不毛の砂嵐で埋め尽くす広域気象破壊システム)

「……エレン、聞こえる? 私の脳内五感センサー(スパイス部門)が、お肉(第43話)とお米(第24話)を目の前にして、かつてない強烈な『物足りなさ』を訴えてデモを起こしているわ。そう、足りないのよ……日本人の国民食、あのスパイシーで脳を芯から揺さぶる『本格スパイスカレー』の魂が!」

「聞こえるわアリス! コーラ(第42話)のDIYでスパイスの配合に目覚めた私たちの胃袋は、もうただの塩コショウ焼きには戻れないわ! でも、最高のカレーを完成させるには、隣国の『クバール砂漠』の最深部にしか自生しない、あの伝説の激レア香辛料『砂漠の黄金クミン』が絶対に必要よ! 今すぐ砂の海へ大冒険に出発だべ!」


シルバーストーン家のリビング。地熱床暖房コタツ(第46話仕様)でぬくぬくと温まりながらも、銀髪の双子は脳内の専用回線テレパシーをかつてない「カレー熱」で同期させていた。


クバール砂漠は、一滴の水もなく、常に牙をむく激しい砂嵐が吹き荒れる乾燥の地獄。しかし、スパイスカレーを渇望する双子にとっては、ただの「ちょっと遠いスパイスの特設売り場」に過ぎない。


今回のミッションは、愛車『シルバーストーン・スプリンター(第8話)』を過酷な砂漠仕様へと超絶アップデートし、水分ゼロの地獄を最高に快適に爆走することである。


まず、車輪では砂に埋もれて進めない。

「アリス、砂の摩擦をハックするわよ! タイヤを外して、極薄の『チタン製サンド・ソリ(砂そり)』に換装するの。流体力学ハイドロフォイルヨット(第44話)のウイングセイル(帆)を搭載して、砂の斜面を滑走する『砂上ヨット(サンド・セーラー)』に大改造よ!」

アリス(理論・設計担当)が、砂の粒子とチタンプレート間の境界摩擦係数μを極限まで低減するための等高線設計図を脳内に展開する。


 μ = Ff/Ne


(エレン、砂の流動性を考慮して、ソリの底面に微細なディンプル(くぼみ)を配置して! 砂との接触面積を物理的に減らすことで、摩擦減衰率を極限まで抑え込み、時速80kmオーバーの滑走を可能にするわ。私が最適軌道ジオメトリをAR投影するから!)

(ラジャー! 私の『超精密魔力クラフト(120,000 rpm)』で、チタンプレートの厚さを0.8mmの極薄に延ばしつつ、分子配列を整えて強度を極限まで高めてあげる! ディンプルの直径も0.05mmの真球で完璧に並べるよ!)


エレン(実技・精密加工担当)の指先から、バチバチと凄まじい物理圧を伴う魔力が放たれる。

チタンプレートがエレンの神速クラフトによって滑らかな「ソリ板」へと成形され、自転車のフォーク部分へとガチャンと結合された。


さらに、アリスは乾燥地帯での熱中症を防ぎ、水分を無限に補給するための「ポータブル大気集水(AWD)ポンチョ」の熱化学回路を設計。


「エレン、砂漠の大気は乾燥しているけれど、絶対湿度(空気中に含まれる水蒸気量)はゼロじゃないわ。ポンチョの襟元に第7話の過冷却冷却素子を仕込み、取り込んだ熱い空気を『露点温度(結露が始まる温度)』以下に瞬間冷却するの。空気中のわずかな湿気が一瞬で過冷却凝縮を起こし、1日に10リットルの冷たくて美味しい軟水が自動生成されるわ!」

「最高よアリス! 灼熱の砂漠で、私たちだけキンキンに冷えた水を飲み放題ね! ポンチョの裏地に極細の冷却銅線を網の目のように配置して、熱電ファンを駆動させるよ!」


一人が「摩擦力学&過冷却凝縮の数理シミュレーション(ソフト)」、一人が「ナノ精度チタンソリ成形&熱電ポンチョの超精密ミシン(ハード)」。

二人の超絶連携により、夕暮れ前には、銀色に輝くソリを足元に生やし、背中に黒い魔導カーボンのセイルを掲げた『シルバーストーン・サンド・スプリンター』が爆誕した。



数日後。ギラギラと太陽が大地を焼き、ゴォォォと激しい砂嵐が吹き荒れるクバール砂漠。


シュババババババババババッ!!!


「「きゃっはー! 砂が! 砂が雪のように滑るわ!!」」


銀色に輝くソリを履いた『サンド・スプリンター』は、砂煙をパァァンと両脇に美しく弾き飛ばしながら、風速の3倍、時速80kmという驚異的な速度で砂の海を爆走していた。

アリスが開発した「流体力学シールド」が、ベルヌーイ効果によって周囲の激しい砂嵐を「フッ」と物理法則で完全にそらし、双子の周囲だけは常に無風でクリアな視界が保たれている。


「ぷはぁー! 砂漠で飲む、自作ポンチョから湧き出た冷たい軟水(第40話仕様)は最高に美味いべ、アリス!」

「ええ、エレン。過冷却凝縮の効率は98.5%よ。汗一つかかずに極上の乾燥地帯ドライブね!」


不気味に赤く(※ただの冷却温度インジケーターです)光るポンチョを着た小さな双子が、汗一つかかずに水をがぶがぶとがぶ飲みし、砂嵐を物理法則でねじ曲げながら時速80kmで爆走していく、あまりにもお気楽極楽なバカンス光景。



その頃。

砂漠のオアシスの物陰、激しい砂嵐を避けるようにして防砂頭巾を何重にも巻き、喉の渇きと暑さで今にも死にそうになりながら待ち伏せしていた「砂漠の凶悪な盗賊団20名」。

そして、彼らを裏で雇い、双子の「魔王級兵器(※ただのお寿司調達ヨット、第52話)」の進行をここで阻止しようと息を潜めていた、心労で今にも胃に穴が空きそうな超一流隠密スパイは、

望遠鏡から見えるその光景に、全員が白目を剥いて砂の上にひれ伏していた。


「お、おい……嘘だろ……。奴ら、ついに大自然の砂嵐と……世界の『水(天候)』の理まで完全に消滅させおった……!」

盗賊団の首領が、喉の渇きでカサカサになった声を震わせて絶叫する。


隣のスパイは、恐怖のあまり全身の毛穴が開き、ボロボロになった報告書を握りしめたまま、ガタガタと歯を鳴らしていた。

「ま、間違いない……! 奴ら、一滴の水もない灼熱の地獄で、何もない空間から無限に『生命の水』を創り出している……! しかも、大気中の風と砂の物理ベクトルを完全にハックし、凄まじい砂嵐を意のままにねじ曲げて爆走しているぞ……!!」


「な、なんだと……!? 砂と風を、自在に支配しているというのか……!?」

盗賊たち全員が、生きて戻れるはずのない砂嵐の中を、銀色のそりで優雅に笑いながら爆進してくる幼女の姿に絶望する。


「そうです! あれは砂と風を操作し、敵国のすべてのオアシスを一瞬にして砂の下に埋め尽くして砂漠化させ、一国を丸ごと不毛の死の大地へ叩き落とす、禁忌の広域気象破壊システム――『サンド・デス・ストーム』の起動実験です……!!! あのポンチョが放つ不気味な赤い光(※インジケーターです)……! あれに目を付けられたら、我々の水分は一瞬で大気中に強制吸引され、ミイラにされて消滅するのだァァァ!!!」


ただの「美味しいカレー用スパイスの採取」なのだが、隠密たちにとっては、大陸中のオアシスを消滅させる「死神の気象兵器」にしか見えなかった。

あのヨット(そり)が一航行すれば、どんな豊かな緑の国も、一日で生命の存在しない赤い砂の下へと沈められるのだ。


「ひ、ひぃぃぃっっっ!!! お赦しください、双子の砂漠の魔王様……! おらの村を……おらのオアシスを砂の下に埋めないでくださいぃぃぃ!!!」


盗賊団20名と、限界を突破したスパイは、戦う意志を1ミリも残さず、

全員が持っていた武器を投げ捨て、ただのカレー用スパイスを探している双子に向かって、涙を流して砂に頭を何度も何度も擦り付け、ひれ伏し、這いつくばって命乞いをするのだった。



そんな、砂漠の生存競争の頂点が「オアシス消滅兵器」と大誤解されているとは夢にも思わない双子は、

オアシスの中心に自生していた、黄金に輝く「砂漠の黄金クミン」をちゃっかり大量回収し、ホクホクのツヤツヤ顔で『サンド・スプリンター』を反転させていた。


「アリス、無事に極上クミンが手に入ったわね! これで今夜は……!」

「ええ、エレン。没落領地に帰って、第24話のふっくらご飯の上に、スパイスの芳醇な香りが脳を焼き尽くす『特製シルバーストーン・ビーフカレー』をぶっかけるわよ! 喉越し最高、QOLの完全勝利ね!」


「「ふふふふ……」」


夕日に染まる砂漠の地平線を、一筋の銀色のそりが、後ろでひれ伏す盗賊たちを置き去りにして爆走していく。

双子の「食への飽くなき執念」は、過酷な砂漠のルールすらもお気楽にハックし、異世界を最高にスパイシーに、そして美味しく開拓していくのだった。

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