第48話:水晶ベアリングが紡ぐ未来(と、重力を超越する空中急襲揚陸機スカイ・リバイアサン)
「……アリス、聞こえる? 私の大臀筋が、あの山頂の源泉掛け流し露天風呂(第30話)に行くたびに、標高差300mの険しい登山道を往復させられる重力負荷にブチギレて、完全ストライキの構えを見せているわ。温泉でどれだけお肌(第40話)を潤しても、帰りの山道で汗をかいたらプラマイゼロ……いえ、QOL(生活の質)的には大赤字よ!」
「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の大脳新皮質も、せっかく開発した水晶ベアリング(第45話)という『摩擦抵抗μ≈ 0のオーパーツ』を、ただの自転車ハブだけに眠らせておく損失に身悶えしているわ。平地はチャリ、空中は……これよ! 物理の法則をハックした、異世界初の『空中魔導ロープウェイ(シルバー・ゴンドラ)』を敷設するわよ!」
シルバーストーン領の穏やかな朝。
コタツ(地熱床暖房仕様)で温かいハチミツミルクを啜りながら、双子は脳内の専用回線で「移動の完全自動化」に向けて限界突破のシンクロを見せていた。
今回のプロジェクトは、領内のコンビナート(第24話)から屋敷、そして山頂の温泉地までを、無音かつ摩擦ゼロでスササッと結ぶ「空中索道」のDIYである。
「いい、エレン。索道の命は、ワイヤーの引張強度と、滑車の回転摩擦の極限的な低減よ。アイアンスパイダーの極細糸(第28話)を三つ編みにしたワイヤーの許容応力σaはこうよ」
σa = P/ASf
(Pは破断荷重、Aは断面積、Sfは安全率よ! 安全率を余裕で 『10』 に設定しても、自重を無視できるほど軽いクモの糸ワイヤーなら、カテナリー曲線(懸垂線)のたるみ量を最小限に抑えて、屋敷から山頂まで一気に1kmを無支柱で渡せるわ!)
(最高ねアリス! 設計図ロックしたわ! 私はプーリーの心臓部……水晶ベアリングを内蔵した『超低摩擦チタンキャリア』をミリ単位の狂いもなく削り出すよ!)
エレン(実技・精密工作・フィジカル担当)が、作業台の上にチタンの塊と、第45話で採取した極小水晶を並べ、両手をかざした。
「『超精密魔力彫刻・分子ベアリングレース加工モード(120,000 rpm)』!」
キィィィィィィィン……!
エレンの指先から、鼓膜を激しく引き裂く超高周波の魔力刃が放たれる。
アリス(理論・設計・数理担当)は共有視界に、水晶ボールの直径(真球度誤差 0.0001mm以下)に完璧に適合するチタン製ベアリングレース(内輪・外輪)の 3D ガイドラインを投影。
一人が「接触面圧とヘルツの接触応力シミュレーター(ソフト)」、一人が「ナノ精度放電彫刻機」。
アリスが「エレン、そこ、ベアリング内壁の右から3マイクロメートルの溝、あと 50nmだけ深く削って! 転がり摩擦係数を0.0005以下に抑え込むのよ!」と指示を送ると、エレンが瞬時に魔力の振幅を微調整してチタンを撫で、鏡面のように滑らかなボールレースを完成させた。
その中に水晶ボールをパチンと嵌め込み、チタン製の頑丈な「3輪式滑車キャリア」が瞬時に物質化された。
さらに、エレンは『魔導アセンダー(第45話)』をベルトに装着し、アイアンスパイダーの極太ワイヤーを抱えて外へと飛び出した。
「ワイヤー敷設はフィジカルの出番ね! 温泉山頂へ、ローンチ!」
シュバッ! とエレンがアンカーを山頂の岩壁に撃ち込み、自重を無視した超高速の身のこなしで木から木へ、崖から崖へと飛び移りながら、空中に光り輝く蜘蛛の糸のラインをピンと張り巡らせていく。
アリスはその間に、水車(第36話)の余剰エネルギーでゼンマイ(第36話)を巻き取る「定速ケーブル駆動ユニット」を駅舎に組み上げた。
夕暮れ時。
シルバーストーン家の庭から山頂の露天風呂に向けて、空中に架けられた1本の美しい「銀の糸」。
そこに、ドアが自動開閉するからくり機構を搭載した、ヒノキ造りの美しい空中客車『シルバー・ゴンドラ』が静かにセットされた。
「よし、エレン。試運転よ! ゼンマイクラッチ、オン!」
「スイッチ、オン!!」
ガチャン。
ゼンマイの動力がキャリアに伝わった瞬間。
スササササササササササッ……!
「「――はやっ!!!」」
水晶ベアリングの摩擦抵抗が極限までゼロに近いため、ゴンドラは自重による位置エネルギーの損失をほぼ受けることなく、重力をバグらせたかのような凄まじい等速直線運動で、空中のワイヤーを音もなく滑るように走り始めた。
水晶がチタンレースの中で超高速回転する、耳には聞こえないほどの微細な超高周波音「キィィィィン……」という魔導音が、静かな森の空気に波紋のように広がっていく。
「アリス! 凄い! 窓の外の景色が下へ飛んでいくわ! 揺れが1ミリもない、絹の上を滑っているみたい!」
「完璧よエレン! 転がり摩擦係数が限りなくゼロに近いから、わずかなゼンマイ出力だけで、山頂までノンストップで加速・等速スライドできるわ。これぞ空中QOLの極致ね!」
双子は、ゴンドラのふかふかのシートに深々と腰掛け、窓から領地をのんきに見下ろしながら、お互いのキューティクルツヤツヤの髪(第40話)を揺らして「ふふふふ……」と高笑いしていた。
◇
その頃。
山頂の温泉地へ向かう崖の物陰、シダの葉を頭に乗せてドロドロの状態で身を潜めていた隣領の超一流隠密は、
その頭上を、重力を完全にバグらせて、一切のエンジン音も魔力爆発音もなく、ただ「無音」でスライドしていく異形の巨大な木箱を見上げて、全身の毛穴から冷や汗を噴き出させていた。
「お、おい……嘘だろ……。あ、あいつら、ついに……重力(大地の理)まで完全に消滅させおった……!」
しんと静まり返った嵐の後のような森。
そこに、空中にピンと張られた見えない「光の死線(※蜘蛛の糸ワイヤーです)」。
その死線にぶら下がったまま、何もない虚空を、まるで大地の引力など存在しないかのように等速でスライドし、敵陣(※温泉です)へ向かって兵士を運搬していく不気味な空中要塞。
その瞬間。
ゴンドラの水晶ベアリングが超高速回転したことによる、人間の可聴領域の限界値を超えた超高周波の摩擦音「キィィィィィィィィン……」という鋭い不気味な高音が、隠密の鼓膜をダイレクトに貫いた。
「ぐ、ふっ……!? あ、頭が……、あたまの脳髄(三半規管)が、奴らの放つ死の超音波で直接破壊されるぅぅぅ!!」
隠密は、あまりの精神汚染(※ただの高周波のキィィンという金属音です)に、耳を塞いで「ひ、ひぃぃぃ! 耳から血が出るぅぅぅ!(※強く塞ぎすぎてちょっと耳の裏を擦りむいただけです)」と絶叫し、崖の上でのたうち回った。
「ま、間違いない……! あれは、大地の重力を完全に無効化し、いかなる山岳・絶壁・城壁をも無視して兵士を敵の頭上へと音もなく急襲・揚陸させる、古代の禁忌の空中要塞『スカイ・リバイアサン』だ……!!! しかも、周囲にいる防衛兵の三半規管を特殊な魔導超音波で完全に破壊し、一歩も動けなくして上空から一方的に蹂躙する、恐るべき無音殲滅兵器だ……!!!」
ただの快適な「温泉行きロープウェイ」なのだが、隠密にとっては、重力を無視して兵士を無音で降下させる「終末の急襲揚陸機」にしか見えなかった。
あの木箱が王都の上空に現れた瞬間、全騎士団は耳鳴りで昏倒し、国は一日で滅びるに違いない。
「に、逃げろ……! ここにいたら、あの見えない死の超音波に脳を溶かされ、空飛ぶ木箱の中に生贄として回収されるぞォォォ!!」
隠密は、あまりの「重力無視兵器」への恐怖と、頭を揺さぶる超高周波の金属音に脳のキャパシティが完全に崩壊。
白目を剥いて泡を吹き、転がるようにして崖の上から新雪(または草むら)の中へと真っ逆さまに卒倒、泡を吹きながら森の闇の中へと必死に這い逃げていくのだった。
◇
その夜。
山頂の極上露天風呂に浸かり、お肌ツルツル(第40話)になりながら、
空中をスササッと滑るゴンドラを眺めつつ、のんきに温泉マーク(第30話)の付いたコップでホットミルクを飲む双子。
「ぷはぁー、やっぱりロープウェイで登って、一歩も歩かずにすぐ入る温泉は五臓六腑のQOLを限界突破させるわね、アリス」
「ええ、エレン。摩擦抵抗の低減は、エネルギー効率の向上だけでなく、私たちの『だらだらライフ』の機動性を何倍にも引き上げてくれたわ。科学の完全勝利ね」
「「ふふふふ……」」
窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに別棟から排出された温水を掃き清めていた。
領内には、目に見えない「極限の材料工学・摩擦減衰技術」と、隣領の貴族たちを国家崩壊レベルの絶望に陥れる「空を無音で飛び、脳を焼き切る音波を放つ、恐るべき空中急襲揚陸要塞の噂」が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。




