第47話:雨の日の白いハルシオン(と、細胞を消滅させる超高速回転・青光の処刑装置)
「……アリス、聞こえる? 私の嗅覚神経が、この部屋干しの布から漂う、悪魔の排泄物のごとき『生乾き臭』のテロ攻撃を受けて、脳内QOLメーターが一瞬で測定不能の奈落に叩き落とされているわ……」
「聞こえるわエレン。というか、同一の意識を共有している私の前頭葉も、このゴワゴワした生乾きチュニック(没落仕様)を肌にまとわなければならない苦痛に、完全にストライキを宣言しているわ。……『モラクセラ菌』め、ただの洗濯物の水分をエサに、不快な揮発性有機化合物(4-メチル-3-ヘキセン酸)を排出しやがって。元理科教師として、この不衛生極まりない菌の大量繁殖、絶対に看過できないわ!」
梅雨のようにしとしとと雨が降り続く、シルバーストーン領の午後。
コタツ(地熱床暖房仕様・第30話)に引きこもりながらも、双子は脳内の専用回線で「生乾き臭」に対する怒りのパルスを限界突破のスピードで送信し合っていた。
没落貴族の洗濯は、ただタライでゴシゴシ手洗いし、絞るのも人力、そして雨の日は薄暗い部屋に干すだけ。脱水が不完全で乾燥に時間がかかれば、当然あの雑菌(モラクセラ菌)が爆発的に増殖する。
「いい、エレン。部屋干しの完全滅菌にはね、力学(高速脱水)、熱力学(急速乾燥)、そして微生物学(物理的滅菌)の3つのアプローチを完璧なシーケンスで繋ぐ必要があるの。この別棟の暗がりを、QOLあふれる『現代的完全滅菌ランドリールーム』にハックするわよ!」
「最高ねアリス! 悪魔の生乾き菌に宣戦布告ね! 私のふくらはぎと大腿四頭筋が、あの脱水用のギヤをぶん回したくて猛烈に疼いているわ!」
二人の『二心同体』が、菌の滅殺を誓って、物理と生物の極致へと同期した。
アリス(理論・設計・生物担当)が、まずドラム式脱水・洗濯機の基本設計と、モラクセラ菌を物理的に破滅させる「UV(紫外線)除菌ランプ」のスペクトル設計を脳内で立ち上げる。
「遠心力Fの公式はこうよ」
F = mrω²
「脱水効率を高めるには、ドラムの回転角速度ωを極限まで引き上げる必要があるわ。エレン、ドラムの直径を50cm、足踏みペダルのギヤ比を1:150に設定して。さらに、ドラムの内壁には、直径2mmの水抜き穴を0.5mm間隔で、数千個蜂の巣状に穿つのよ!」
「任せなさい、アリス! 私の指先は今、120,000 rpm並みの超高周波でチタンを削る『ナノパンチカッター』と同調しているわ!」
エレン(実技・精密工作・フィジカル担当)が、ガラクタの真鍮と鉄板を前に、両手をかざした。
キィィィィィィィン……と大気を激しく引き裂く高周波の魔力刃。エレンはアリスが共有視界にAR(拡張現実)投影した「超高密度パンチングパターン」をガイドラインに、一瞬で数千個の極小の穴を、寸分の狂いもなくチタン製のドラムに穿ち、ドラム式脱水機を組み上げた。
さらに、アリスは「UV除菌ランプ」の化学設計をエレンの脳内へ転送する。
「エレン、魔石の放つ光の波長をハックするわよ。お肌に有害な紫外線(UV-AやUV-B)の領域を魔力フィルターで完全にシャットアウトし、細菌のDNA塩基配列に最も吸収され、その結合を物理的に破壊・分解して一瞬で死滅させる、最も冷酷な波長『約254nm (UV-C)』だけを抽出しなさい!」
「オッケー! 菌の遺伝子を直接引きちぎる、邪悪な(菌にとって)青いライトね! 私の魔力結晶制御で、魔石のエネルギーバンドギャップをぴったりその共鳴波長に同調させるよ!」
エレンの指先で青白く励起された魔石ランプ。
一人が「細胞構造・波動力学シミュレーター(ソフト)」、一人が「ナノ精度穴あけ&結晶バンド変調」。
二人の超絶連携により、別棟の薄暗い一角に、凄まじいドラフト効果(煙突効果)で温風を循環させる「温風除菌クローゼット」と、青い光を放つ「UV滅菌チェンバー」、そしてチタン製の「高速ドラム脱水機」が爆誕した。
◇
「よし、エレン。洗濯完了、脱水プロセスに移行よ! ペダルを全力でぶん回しなさい!」
「ラジャー! 私の大腿四頭筋の、フルパワー解放(時速100kmチャリ巡航仕様)!!」
ガチャン、とエレンがギヤを入れて、足踏みペダルに両足をかける。
次の瞬間、エレンの足がピストンの如く目にも留まらぬ速さでペダルを踏み込み始めた。
ズババババババババババババッ!!!
キィィィィィィィィィン!!!!!
凄まじい回転トルクを受け、真鍮製の高速ドラムが、別棟の暗闇の中で、不気味な高周波の金属音を響かせながら超高速回転を始めた。
遠心力F = mrω²の物理的な暴力により、濡れたチュニックの繊維の隙間にしがみついていた水分が一瞬にして引きちぎられ、ドラムのパンチ穴から外へと激しく叩き出されていく。
さらに、クローゼットの扉を開けると――。
ピガァァァァァァァァン!!!!!
魔石から放たれた、美しくも妖しい「青いUV-C光線」が、暗い部屋の中に漏れ出し、急速温風に揺れる真っ白な洗濯物(ハルシオン風シーツ)を不気味に照らし出した。
「やったわエレン! モラクセラ菌の生存率は0.001%以下! 部屋干しの生乾き臭、完全消滅よ!」
「きゃっはー! 気持ちいい! お湯(第40話の軟水温水)がポタポタ滴って、脱水も完璧、あとは温風で乾かすだけね!」
双子は、ゴワゴワだった白いシーツが、一瞬にしてホカホカ、フカフカ、フワフワの「極上のハルシオン(快適寝具)」へと生まれ変わっていく様子を前に、お互いの髪(第40話でツルツル)を揺らしながら、「ふふふふ……」と手を叩いて高笑いしていた。
◇
その頃。
大雨の中、シルバーストーン家の別棟の窓の下に、ドロドロの泥にまみれて身を潜めていた隣領の超一流隠密は、
その窓から覗く不気味すぎる光景に、全身の骨がガタガタと恐怖で砕け散るのを感じていた。
「お、おい……嘘だろ……。あ、あいつら……ついに、禁忌の処刑場を、屋敷の別棟に建ておった……!」
しんと静まり返った嵐の午後。
薄暗い別棟の奥で、「キィィィィィィィィィン!!!」という、鼓膜を直接引きちぎるような凄まじい金属の超高速回転音が鳴り響いている。
その暗闇の奥には、不気味に超高速回転する巨大な「金属の檻」の姿。
そして、その檻の隙間から、地上のいかなる魔法防御障壁をも無視し、
浴びた者の身体の細胞を一瞬で分子レベルで消滅させて破壊する、妖しく不気味な「邪悪な青い光線(UV-C)」が、パァァンと部屋いっぱいに漏れ出している。
極めつけは、その檻の底部に設置された排水口から、
「ポタ……ポタ……ポタ……」と、不気味に滴り落ちていく、大量の「赤黒い液体(※ただの銅ドラムの余熱で温まった土汚れ入りの排水です)」。
「ひ、ひぃぃぃっっっ!!!???」
隠密は、あまりの「処刑装置」の光景に、白目を剥いて泥水の中に倒れそうになった。
「あ、あれは……罪なき民をあの檻の中に閉じ込め、凄まじい遠心力で肉体を引きちぎって血を搾り取り、漏れ出た邪悪な青い光線で標的の骨と細胞を塵にして消滅させる、新型の遠隔超消滅処刑装置『デス・スピナー&アブソリュート・チェンバー』だ……!!!!! あのポタポタ落ちる水は……搾り取られた犠牲者の血(※ただの泥汚れ混じりの温水です)に違いない……!!!」
天候をハックし(第35話)、自走歩兵を並べ(第36話)、太陽光で街を溶かす兵器(第46話)を作った。
今度は、お気に入りの別棟の奥で、無音で捕らえた敵の肉体と魂を一瞬で消去する、恐ろしい「分子消滅器」の起動。
あまりの圧倒的な技術力の暴走と、世界の終焉のビジョンに、隠密は脳のキャパシティが完全に崩壊した。
「に、逃げろ……! ここにいたら、あの不気味に回転する檻の中に叩き込まれて、青い光で魂ごと消し炭にされるぞォォォ!!」
隠密は、あまりの「消滅処刑兵器」への恐怖に、頭を抱えて泥水を四つん這いで這いずり回りながら、泡を吹いて闇の嵐の中へと一目散に逃げ去っていくのだった。
◇
その夜。
コタツ(地熱床暖房仕様)の中で、生乾き臭が1ミリも残っていない、お日様の匂い(UV-Cの効果)とハチミツの上品な香りがするフカフカの白いシーツ(ハルシオン)に包まれながら、
ぬくぬくと暖まる双子。
「ぷはぁー、やっぱり完全に滅菌・乾燥されたシーツに包まれて飲む、温かいハチミツミルクは脳髄のQOLを限界突破させるわね、アリス」
「ええ、エレン。部屋干しの悪魔(モラクセラ菌)を分子レベルで駆逐したわ。これで私たちのQOLは、雨の日だろうが台風だろうが、365日完璧な『フワフワの帝国』として維持されるわね」
「「ふふふふ……」」
窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに別棟から排出された綺麗な温水を掃き清めていた。
領内には、目に見えない「極限の微生物・流体学」と、隣領を国家崩壊レベルの絶望に陥れる「別棟で回り、青い光で人間を一瞬で骨にする、恐ろしい消滅処刑マシーンの噂」が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。




