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第46話:太陽の火を盗む凹面鏡(と、城塞を溶かす宇宙兵器ソル・ディザスター)

「……アリス、聞こえる? 私たちのQOLの象徴である源泉掛け流し露天風呂(第30話)は完璧なのに、そこから僅か500m離れた領民たちの家へお湯を運ぶ配管の中で、熱伝導による『熱損失(熱逃げ)』が毎秒数万ジュールも発生して、ただの『ぬるい濁り水』に成り下がっているわ。これでは、お風呂上がりの領民たちが寒さで凍えてしまう!」

「聞こえるわエレン。流体のパイプラインにおける熱損失は、距離に比例して指数関数的に増大するわ。断熱材を敷き詰めるのも予算的に非効率。……ならば発想を逆転させるのよ。配管でお湯を送るのではなく、各エリアの高台で『その場で、一瞬で』太陽の力でお湯を沸かせばいいのよ!」


シルバーストーン領に無事帰還した銀髪の双子は、手に入れたばかりの「非球面レンズ(第45話)」の応用方法について、のどかにコタツでレモネードを啜りながら、とんでもない規模のインフラ開発を企んでいた。


今回のターゲットは、太陽光のエネルギーを一点に超収束させて井戸水を瞬間沸騰させる、エコで最先端の「太陽光集光式・超巨大パラボラ温水タワー(ソーラーエコキュート)」のDIYである。


「いい、エレン。地球――じゃなくて、この異世界の地表面に降り注ぐ『太陽定数』は、大気による減衰を考慮しても約1.37kW/m²よ。これを直径5mの完璧な放物面鏡ほうぶつめんきょうで受け止めれば、それだけで約27,000Wの熱エネルギーが一点に集中するわ。公式y² = 4fxに基づき、完璧な焦点を割り出すわよ!」

「最高ねアリス! 太陽の熱をハックしてお湯を沸かすなんて、最高にエコロジーだし筋肉の疲労回復にも最高だわ! さあ、私の魔力プレスとチタンプレートの出番ね!」


二人の『二心同体デュアル・コア』が、幾何光学と熱力学の理論値に完全同期した。


アリス(理論・設計担当)が、パラボラ(放物面)の反射曲線と、その焦点に設置する「非球面水晶集光レンズ」の3次元設計図を脳内でシミュレートし、共有視界にAR(拡張現実)で投影する。


(エレン、反射鏡の材質には、前回の冒険で余った軽量高強度の『ミネルヴァ・チタンプレート』を使用するわ。表面の粗さが100nm以下になるよう、魔力による『超精密分子プレス』と鏡面研磨を施して!)

(ラジャー! 私の指先、今から圧力200気圧を局所的に発生させる『人間超高圧油圧プレス機』と同調したわ! チタンの板をぐにゃりと一瞬で完璧な放物面に曲げて見せるよ!)


エレン(実技・精密加工担当)の指先から、バチバチと凄まじい物理圧を伴う魔力が放たれる。

アリスが共有視界に投影した「完璧な放物面」の青いグリッドに重ねるようにして、エレンがチタンプレートを瞬時に湾曲させ、さらにその表面を魔力振動で限界まで磨き上げていく。

顔が映るどころか、向こう側の景色が歪みなく完璧に反射するほどの「チタン製巨大凹面鏡」が、わずか数十分で数枚削り出され、パズルのように連結されて直径5mの巨大なレシーバーが完成した。


さらに、アリスは集光効率を99.9%まで高めるための「非球面水晶集光レンズ」の屈折率を精密計算。


「集光された光が分散しないよう、この非球面レンズでさらにビーム状に極小の一点へ収束させるわ。その一点に、耐熱黒化処理(チタンの酸化皮膜)を施した銅製の極細受熱パイプを通すの。中を通る井戸水は、一瞬で飽和水蒸気直前の95℃の温水へと相転移するわよ!」

「オッケー! 水を瞬時に沸騰させる、魔法の心臓部コアね。私の神速クラフトで、銅管のヘリカルコイルを巻いて、中心に水晶レンズをビシッと固定するわ!」


一人が「幾何光学・熱伝導方程式のリアルタイムシミュレーター(ソフト)」、一人が「精密チタンプレス&ナノ研磨ハード」。

双子の異次元の共同作業により、領地の北側、見晴らしの良い高台の上に、怪しげな「インフラ」が爆誕した。


それは、ギラギラと銀色に輝く巨大な金属の皿(直径5m)が天を仰ぎ、その中心部に、太陽の熱気を集めてユラユラと陽炎を放つ透明な水晶の塔がそびえ立つ、異様極まりない巨大建造物だった。



「よし、エレン。集光テスト、開始よ。太陽追尾ギア(第36話のからくり時計応用)をロックオン!」

「ラジャー! 太陽の位置に合わせて、パラボラが自動で動くよ!」


カチャ……ガシャ。

からくり仕掛けの真鍮製ギアが音を立てて回り、巨大なパラボラ鏡が太陽をピタリと正面に捉えた。

その瞬間。


ピガァァァァァァァァン!!!!!


巨大なチタン皿が太陽光を一点に反射し、中心の非球面レンズがその光をさらに凝縮。

レンズの中心に位置する黒い受熱パイプに、目も眩むような「白い光の点」が浮かび上がった。

次の瞬間。


シュゴォォォォォォォ!!!


受熱パイプの中を通り抜けた井戸水が、一瞬にして音を立てて沸騰し、タワーの底部に設置された断熱貯湯タンクへ、もの凄い勢いで95℃のお湯となって流れ込み始めた。


「成功よアリス! 燃料を一切使わずに、毎分50リットルの熱湯がタワーから湧き出ているわ!」

「ええ、エレン。この高台から領民の各家庭へ重力を利用して配湯すれば、熱損失を最小限に抑えて、領民全員が冬でもポカポカのシャワー(第40話)を浴びられるわ。QOLの勝利ね!」


双子は、太陽の光でアツアツになったお湯を使い、その場で贅沢な「足湯」を堪能しながら、のんきにハチミツレモネードを啜って笑い合っていた。



その頃。

領地の境界線にある山林の物陰。

前回の「暗黒洞窟ソウル・デリートサーチライト(第45話)」の恐怖から這いつくばって生還し、領内の「大収穫」を阻止すべく、他領の最高責任者である「農政官」を直々に伴って潜入していた隠密スパイは、

手渡された遮光用の黒いガラス(サングラス)を震える手で顔に当て、望遠鏡を覗いたまま、絶望のあまり泡を吹いてその場に崩れ落ちていた。


「お、おい……嘘だろ……。あの双子、ついに……天の火(太陽)まで兵器として飼い慣らしおった……!」


農政官も、隣で双眼鏡を覗いたまま、顔面を土気色にしてガタガタと歯の根を鳴らしていた。


「あ、あれは……何なのだ……!? 巨大な銀色の魔陣(※パラボラ鏡です)が、意思を持つように天の太陽を追尾し、その中心の魔晶石(※水晶レンズです)から、直視すら不可能なほどの暴虐なる『白い光線』を放っている……!!」


隠密は、恐怖で血の涙を流しながら叫んだ。


「ま、間違いありません……! あれは太陽の熱をすべて地上の一点に集束させ、敵国の城塞都市や大軍勢を一瞬で跡形もなく蒸発させる、宇宙からの超広域神罰誘導兵器『ソル・ディザスター』です……!!! あの中心の塔から放たれる熱気……! あれを任意の座標に向けられたら、我が領など一瞬でガラスの海にされますぞ……!!!」


ただのエコな「集光式温水器」なのだが、彼らにとっては、いつでも国一つを塵にできる「大気圏突入型光線兵器」にしか見えなかった。

あのタワーがゆっくりと回転し、太陽の光をこちらの街に向けられた瞬間、すべてが消滅する。


「天候を支配し(第35話)、ゾンビ兵を動かし(第36話)、魂を遠隔で抜き取り(第41話)、挙句の果てに太陽を兵器化するとは……! シルバーストーン家は、この大陸の覇権を握るどころか、神々に取って代わる気だァァァ!!」


農政官はあまりの「宇宙破壊兵器」の恐ろしさにショック死寸前となり、持っていた黒いサングラスを投げ捨て、腰を抜かして四つん這いになった。


「に、逃げろ……! 太陽に目を付けられたら、我々は影すら残さず焼き尽くされるぞォォォ!!」


二人の不審者は、大雨に打たれたネズミのように、お互いの服を掴み合い、泣き叫びながら、泥にまみれて森の奥へと全速力で這い逃げていくのだった。



その夕方。

高台のタワーから配管された温水で、ツヤツヤのフカフワに潤ったお肌(第40話)を揺らしながら、屋敷の応接間でくつろぐ双子。


「ぷはぁー! やっぱり、おひさまの光で沸かしたお湯は、心なしかエネルギーの波動が違ってQOLが爆上がりするね、アリス」

「ええ、エレン。燃料消費ゼロ、炭素排出ゼロ。これぞ持続可能な開発目標(SDGs)を先取りした、シルバーストーン流エコ・インフラね。これで冬の寒さ対策も万全だわ」


「「ふふふふ……」」


窓の外では、太陽が山の端に沈み、巨大なパラボラタワーが静かに「スリープモード」へと移行して、シルバーに輝く皿を閉じていた。

領外の広大な世界には、目に見えない「極限の幾何光学・熱力学」と、隣領の貴族たちを「太陽の光線で都市を溶かす宇宙要塞」の恐怖でガタガタ震え上がらせる「ソル・ディザスターの噂」が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。

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