第45話:神聖な洞窟の輝く石(と、死者の軍勢を呼び覚ます光の魔導サーチライト)
「……エレン、聞こえる? 私の『シルバーストーン・コズミック・スプリンター』の極小ハブベアリングが、未舗装路の微細な塵と摩耗のせいで、回転の摩擦抵抗係数 μを0.05も上昇させてしまい、私の大脳皮質が『滑らかさのQOL不足』によってデッドロックを起こしているわ……」
「聞こえるわアリス。というか、共有されている私の大腿四頭筋も、ベアリングボールの真球度が足りないせいでペダルに返ってくるわずかな『ゴリゴリ感』に、今すぐ超高硬度の新ベアリングを調達しろと激しい暴動を起こしているわ!」
シルバーストーン家の地下工房。
極限の趣味チャリ(第28話)をさらに魔改造するため、銀髪の双子は、ハブベアリングの内部に仕込む「天然の極高硬度水晶(ベアリングボールの材料)」の調達を画策していた。
目指すは、領地と隣領の境界に位置する、何百年もの間誰も生きて戻れなかったとされる不帰の魔境――伝説の「暗黒の神聖洞窟」である。
「いい、エレン。光の届かない地下洞窟を完全攻略するには、まず物理の力で『視覚』をハックする必要があるわ。幾何光学に基づき、魔石の放つ光を1点に超収束させ、直進させる『非球面水晶レンズ搭載・高輝度LEDヘッドランプ(サーチライト)』をDIYするわよ!」
「最高ねアリス! 暗闇を一瞬で昼間に変える最強のサードアイね! 身体能力担当として、両手フリーで絶壁を爆走するためのアタッチメント(ヘッドバンド)も縫い上げちゃうわよ!」
二人の『二心同体』が、光学と力学の極致へと完全同期した。
アリス(理論・光学設計担当)が、非球面水晶レンズの3次元曲面方程式を脳内で高速シミュレートする。
z(r) = c r²/1 + √1 - (1 + k) c² r²
(cは曲率、kは円錐定数よ! エレン、この設計図通りに水晶を磨けば、光の色収差と球面収差を完全にゼロに抑え、500m 先まで一筋の乱れもなく届く『神のビーム』が生まれるわ!)
(ラジャー! 私の指先、今から周波数120kHzの超音波を放つ『極小ナノ研磨ヘッド』と同調したわ! 水晶の分子を撫でるように滑らかに削り落としていくよ!)
エレン(実技・精密加工担当)の指先から、大気を細かく切り裂くキィィィィンという高周波の魔力振動が放たれる。
アリスが共有視界に投影したAR(拡張現実)の青いガイドラインに重ねるようにして、エレンが魔の森の水晶をナノメートル単位の精度で「非球面レンズ」へと削り出していく。
仕上げに、第35話でライデン瓶に充填した「大自然の雷(静電気)」から、微小な電圧を一定に放電させて水晶を励起する『魔導LEDユニット』を組み込み、頭部に固定する特製アタッチメントが瞬時に物質化された。
さらに、アリスは垂直の岩壁を高速昇降するための「魔導アセンダー(昇降機)」の設計図を脳内に展開。
「エレン、重力F = mgに対抗するため、動滑車の原理を応用した『3倍力リンク機構』を組み込むわ。仕事の原理W = F・sにより、引く力は3分の1になるけれど、引く距離は3倍になる。この物理法則をアイアンスパイダーの超高張力糸とチタンの多段ギヤでハックするのよ!」
「オッケー、アリス! 動滑車のトルク変換ギヤ、私の指先超精密エンドミルで0.01mmの隙間も作らずに削り出すわね!」
一人が「3次元幾何光学と力学応力解析」、一人が「高精度分子結合削り出し(ハード)」。
二人の超絶連携により、夕暮れ前には、太陽の明るさを凝縮したヘッドランプと、壁面をスパイダーマンのごとく滑走する、重力無視の「魔導アセンダー」が完成した。
◇
その夜。
伝説の「暗黒の神聖洞窟」の内部。
ヒョオォォォォ……。
気圧差による「洞窟の風穴流体力学」をアリスが脳内で算出し、内部の酸素濃度と可燃性ガスの有無をリアルタイムスキャンする。
「酸素濃度20.9%、有毒ガスゼロ。エレン、サーチライト、オン!」
「スイッチ、オン!!」
カチャ。
二人が頭部のスイッチを入れた瞬間――。
ピガァァァァァァァァァン!!!!!
「「――っ、ま、眩しっ!!!」」
幾何光学によって収束されたおよそ30,000ルーメンの凄まじい閃光が、数百年間の暗黒を暴力的に引き裂いた。一筋の光の矢が洞窟の奥深くを昼間のように照らし出し、きらきらと光る極小の天然水晶脈(鉱床)を浮かび上がらせる。
「アリス、絶壁の上に最高の水晶脈を発見! 登るわよ!」
「ええ、エレン! 『魔導アセンダー』、射出!」
シュバッ! とエレンがアンカーを天井に突き刺し、多段動滑車の昇降機を起動する。
エレンは驚異的な体幹ジャイロと大腿四頭筋の跳躍力で、重力を完全にバグらせたかのように、垂直の壁面を「スサササササササッ!」と爆走して駆け上がり始めた。
「あったわ! この極小の水晶、真球度を極限まで高めれば最高のベアリングボールになるわ!」
「エレン、ピッケルで採取して! 右斜め15度、厚さ2cmの層が最も結晶構造が安定しているわ!」
「ラジャー! 『魔力振動・超高速カンカン削り取り』!」
カンカンカンカンカンカンカン!!!
暗闇の洞窟の中、頭に「太陽のような第3の目」を輝かせ、重力を無視して垂直の壁に張り付き、残像を残しながら超高速でピッケルを振るう双子。
その様子は、ただのお気楽極楽な「自転車の部品調達」なのだが、周囲の光景は完全に阿鼻叫喚の地獄と化していた。
◇
その頃。
前回の「局所的津波兵器(※ただのヨットのターンです、第44話)」の恐怖から、命からがら生還し、意地と執念だけで双子を追跡して洞窟に潜入していた隣領の超一流隠密は、
洞窟の物陰で、全身の骨が砕けるような恐怖に直面していた。
「お、おい……嘘だろ……。奴ら、ついに……死の世界(冥界)の扉を開きおった……!」
隠密の視界には、
何百年もの間、誰も生きて戻れなかった「光の届かぬ暗黒の洞窟」。その深部を、暴力的な神罰の閃光(※サーチライトです)で切り裂き、
重力を完全に無視して、壁面をクモのように這いずり回り、不気味な関節音(※滑車アセンダーの音です)を「カチャカチャ、スサササッ!」と響かせている双子の姿。
そして、不気味に白く輝く壁を、奇怪な儀式用の杖(※ピッケルです)で「カンカンカンカン!」と超高速で叩き、大地の魔力源(※ただの極小水晶です)を強奪していく悪魔の双子。
「あ、あれは……! 古代の禁忌の書に記されている、光の届かぬ死の世界の闇を暴き、大地の魂を引き剥がして死者の軍勢を呼び覚ます、禁忌の暗黒探査儀式『ダーク・マイン・レイダー』だ……!!! あの頭に装着した『太陽の如き第3の目』から放たれる閃光……! あれに一瞬でも照らされたら、魂の配列を狂わされてその場で灰にされるのだ……!!!」
スパイの背筋に、冷たい氷水をダイレクトに注がれたような凄まじい恐怖が走る。
ただのベアリング素材の採掘なのだが、彼にとっては世界を滅ぼす「終末の死者使役」にしか見えなかった。
「に、逃げろ……! ここにいたら、あの『太陽の目』に脳を撃ち抜かれて灰にされ、あの子たちの無人のゾンビ兵(※ただのからくり人形です)にされるぞォォォ!!」
隠密は、恐怖で全身の毛穴を開かせ、泥水の上にひれ伏そうとした。
その時。
スサッ。
壁から華麗に着地したエレンが、ふと隠密のいる闇の方へと頭を向けた。
ヘッドランプの30,000ルーメンの「超収束ビーム」が、隠密の隠れている茂みを「ピカァァァァァン!!」と、サーチライトの如く一点に照らし出した。
「ひ、ひぃぃぃっっっ!!! 魂が、魂の配列が、光の暴力で焼き尽くされるぅぅぅぅぅ!!!」
隠密は、あまりの「魂ハッキング光線」への恐怖と、凄まじい逆光による網膜のフラッシュオーバーに脳のキャパシティが完全に崩壊。
白目を剥いて泡を吹き、四つん這いで泥を這いずり回りながら、大雨に打たれた犬のように森の奥へと必死に這い逃げていくのだった。
◇
その深夜。
屋敷に戻り、地熱温泉(第30話)で汗を流した後の暖かいリビング。
暖房の効いたコタツの中で、キンキンに冷えた「ハチミツレモネード」を片手に、のんきに笑う双子。
「ぷはぁー! やっぱり、お仕事の後の冷たいレモネードは、五臓六腑のQOLを限界突破させるわね、アリス」
「ええ、エレン。それに、この手に入れた極小水晶を私の『真球度超精密選別器』に通せば、摩擦抵抗ゼロの『アルティメット・ハブベアリング』が完成するわ。QOLの進歩は止まらないわね」
「「ふふふふ……」」
窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに庭の落ち葉を掃き清めていた。
領外の広大な世界には、目に見えない「極限の幾何光学・力学」と、隣領を世界の終焉レベルの恐怖に陥れる「闇の洞窟を切り裂き魂を強奪する巨大な第3の眼の噂」が、優しく、そしてお気楽に広がり続けるのだった。




