第43話:魔の森の快適キャンピング(と、魔境に築かれた難攻不落の超科学要塞)
「いい? エレン。人間が真の意味でQOL(生活の質)の極致に達する瞬間、それは『あえて過酷な自然環境に身を置き、自作の最新超軽量ギアで衣食住をハックする』という矛盾に満ちた道楽……そう、ソロキャンプ(グランピング)を完遂した瞬間よ!」
「アリス、言ってることはただの道具にこだわりすぎるアウトドアオタクのそれだけど、この背中のバックパックの軽さ……これ本当にテントと薪ストーブが入ってるの!? 綿毛を背負ってるみたいに軽いわ!」
夏の終わりの爽やかな風が吹き抜ける、不帰の魔境――「魔の森」の深部。
一般の冒険者なら命を懸けて這い進むような危険地帯に、お揃いの特製ハット(母様デザイン・第25話の蜘蛛糸極薄繊維製)を被った銀髪の双子の姿があった。
これまでの領地近代化とコンビナート(第24話)の自動化により、完全に「不労所得お気楽ライフ」を確立した双子たち。久しぶりの完全なオフを手に入れた彼女たちが挑んだのは、前世で成瀬健一だった頃に焦がれていた大自然の中での「ゆるい大冒険」だった。
「当たり前よ、エレン。すべてのギアを『材料工学』と『流体力学』で極限まで軽量化したわ。エレン、準備はいい?」
「いつでもいけるよ、アリス! 異世界初の超快適ソロキャン、設営開始!」
二人の特殊能力『二心同体』が、この魔境のキャンプサイトで驚異的な設営スピードを叩き出す。
アリス(理論・設計担当)が、風向きと地盤の硬度をリアルタイムで3Dスキャンし、最も「熱対流と風の抵抗」を抑えられる最適なテント設置座標を計算。エレンの視界へAR(拡張現実)の青いグリッドラインとして投影する。
エレン(実技・フィジカル担当)は、その光のガイドラインに重ねるようにして、背中のパックから極薄の高分子シート(第29話の温室ビニール応用)を取り出した。
(エレン、そのドームテントのフレームは、王都チタン(第28話)を厚さ0.5mmの中空パイプに加工した超軽量ショックコード仕様よ! インナーに仕込んだ魔石LEDの配線を傷つけないように、一気に立ち上げて!)
(了解! 私の『超精密魔力クラフト』で、ジョイント部分を一瞬でパチンと結合させるよ!)
エレンが驚異的な肉体制御で、チタンフレームをしならせ、自立式のドームテントをわずか数秒で立ち上げる。アリスが設計した「ジオデシック・ドーム構造」により、極薄のシートでありながら強風を逃がす完璧な流線型を描いている。
さらにアリスは、インナーシートに仕込まれた微弱な魔石の波長を調整。
「スイッチ、オン!」
フワッ……と、漆黒の魔の森の闇の中に、優しく、そして驚くほど明るく輝く「自立発光式の白い半球ドーム」が爆誕した。
「次はキッチンよ、エレン。折りたたみ式チタン製ウッドストーブの展開と、中空糸膜フィルター(中空糸膜)式浄水器の設置をお願い!」
「オッケー! 近くの濁った沢水を、このろ過ポンプで一気にクリアウォーターにするよ!」
アリスの理科教師(ろ過工学)の知識が火を噴く。
魔の森の蜘蛛の糸をナノメートル単位の隙間を空けてストロー状に束ねた「中空糸膜フィルター」をポンプに内蔵。エレンがポンプをシュコシュコと軽く踏み込むだけで、濁った沢水の中に含まれる細菌や不純物が、物理的な「膜分離」によって100%除去され、コップの中にクリスタルのように透き通った極上の「軟水(飲料水)」が注がれていく。
「熱源のチタンストーブも二重壁の二次燃焼構造だから、少ない薪でも煙を出さずに500℃の高温に達するわ。……よし、真空パックしておいた特製ハンバーグ(第42話)のパテを、チタン製の極薄網で焼くわよ!」
「ジューーーーーッ!!!」
香ばしい肉汁と、スパイスの暴力的な匂いが、魔の森の不気味な夜風に乗って広がっていく。
双子は光り輝くテントの前で、組み立て式のチタンチェアに深々と腰掛け、ハーブティーを片手に、のんきに笑いながら肉を貪り食っていた。
その頃。
大雨の落雷(第35話)や、木製お掃除ロボ(第36話)、さらには「魂の遠隔呪殺FAX(第41話)」の恐怖から、命からがら生還し、双子の「国家転覆級イベント」を這々の体で追跡していた隣領の超一流隠密は、
漆黒の魔の森の深部で、全身の毛穴から冷や汗を噴き出させて、ガタガタと震えていた。
「お、おい……嘘だろ……。あ、あいつら、ついに……魔の森の深部を『占領』し、不落の要塞を築きおった……!」
隠密の視界には、凶悪なSランク魔物(ジャイアントベア等)がうごめく漆黒の魔境の中に、
突如として、眩しく神々しい光を放ち、あらゆる物理的侵入を拒むように屹立する「光る半球状の謎のシェルター(ドームテント)」の姿。
「あ、あれは……古代の文献に記されている、あらゆる物理・魔法攻撃を100%遮断し、内部の者を絶対安全に保護する、古代の可搬式超結界要塞『ドーム・オブ・アブソリュート』だ……!!!」
大自然のルールを捻じ曲げるような完璧な球体の光。
その前で、双子は、魔の森の凶暴な魔物の肉(※ただのイノシシ肉です)を、不気味にギラギラ輝く金属プレート(※チタン網です)の上で、
パチパチと音を立てて『熱分解(※ただの焼肉です)』し、にやにやと邪悪に笑いながら貪り食っている。
「間違いない……。あの『熱分解』の儀式によって、魔物の体内の毒素や魔力を物理的に分解して無毒化し、自らの『生体改造(第37話)』の栄養素として取り込んでいるのだ……! あの悪魔の双子、魔の森の魔物を喰らい、自らを神の領域のバケモノへとアップデートしている……!!!」
これまでの「インドラ・ランチャー(第35話)」や「オートマトン・アーミー(第36話)」に続き、
ついに魔境の最深部に、一瞬で超結界要塞を建築し、魔物を喰らって生体改造を進める双子の絶対的な暴力。
あまりの恐怖と世界の終焉のビジョンに、隠密は頭を抱え、泥水の中にひれ伏した。
「に、逃げろ……! ここにいたら、あの古代の結界要塞の中に引きずり込まれ、怪しげな板の上で『熱分解』されて双子の肉にされるぞォォォ!!!」
隠密は、あまりの圧倒的な「ドーム要塞」への恐怖と、美味しそうな焼肉の匂いに脳のキャパシティが完全に崩壊。
白目を剥いて泡を吹き、転がるようにして夜の魔の森の闇の中へと、真っ逆さまに卒倒し、這い逃げていくのだった。
その深夜。
高原の爽やかな涼風が吹き抜ける、ぽかぽかと温かいドームテントの内部。
コタツ(地熱床暖房仕様・モバイルバッテリー駆動)の中に足を突っ込みながら、アリスとエレンは、のんきに温かいレモネード(第26話)をすすっていた。
「ぷはぁー、やっぱり大自然の中で自作のチタンストーブを愛でながら食べる焼肉は、五臓六腑のQOLを極限突破させるわね、アリス」
「ええ、エレン。それに、この中空糸膜フィルターのろ過技術を応用すれば、次は領内の『簡易水道インフラ』も完全に構築できるわ。QOLの進歩は止まらないわね」
「「ふふふふ……」」
窓(透明高分子シート)の外では、満天の星空の下、不気味に輝くドームテントの周りで、野生の魔物たちが「な、なんかヤバそうな光る建物と悪魔がいる……」とビビって近づけずに遠巻きに見つめていた。
魔の森の静寂の夜、シルバーストーン領を越えた先には、目に見えない「知のロマン」と、隣領を世界の終焉レベルの恐怖に陥れる「絶対安全超結界要塞と魔物食いの噂」が、優しく、そしてお気楽に広がり続けるのだった。




