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第41話:紙を滑る光の伝送機(と、魂を紙に写し取って遠隔呪殺する暗黒転移魔術)

「……アリス、聞こえる? 私の脳内アラートが、王都のギルバート商会からの『週刊シルバーストーン』原稿締め切り催促の気配を察知して、かつてない規模の不協和音サイレンを鳴らしているわ……」

「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の大脳新皮質でも、どれだけ速いチャリ便(第16話)を使おうとも、『原稿を運ぶ物理的なタイムラグ』そのものがQOLを著しく毀損きそんしているという結論に達したわ。ビールやドレスの追加注文も、締め切り連絡も、私たちは『瞬時に』手に入れ、そして瞬時に言い訳(納期遅れ)を送り返さなければならないのよ!」


暖炉と温泉床暖房(第30話)でポカポカに暖まったシルバーストーン家のリビング。

お肌ピカピカの液体石鹸(第40話)を開発したばかりの双子は、コタツに入ってハチミツホットミルクを啜りながら、脳内の専用回線テレパシーで「物理的な距離」に対する怒りのパルスを送信し合っていた。


前世は三十代の理科教師、成瀬健一。

オタクであり、合理主義者でもあった俺たちにとって、「原稿用紙を馬車やチャリで運ぶ」という物理的な制約は、美学に反する。

必要なのは、紙に描いた文字や絵を、見えない波(魔導波)に乗せて一瞬で遠隔地へ転送する、オフィスワークの救世主。

――そう、世界初の『ポータブル・ファクシミリ(FAX)』のDIYである。


「いい、エレン。紙に描かれた情報はね、明暗(白と黒)のデジタルなパターンに還元できるの。光が当たると電気抵抗が下がる『光導電性こうどうでんせい』を持つセレン風魔石をハックして、原稿をスキャン(走査)するわよ!」

「最高ねアリス! 見えない光を電気に変えて、遠くの紙に写し取る……これぞ固体物理学のロマンね!」


二人の『二心同体デュアル・コア』が、締め切りからの完全解放を誓って、電磁気学と固体物理学の極致へと同期した。


まずは、情報を読み取る「光センサー(スキャナー)」のDIYだ。


「エレン、魔石に光を当ててキャリア(自由電子)を励起させるわよ。光子のエネルギー E = hνが、魔石のエネルギーバンドギャップを超えた瞬間、電気抵抗が劇的に下がるポイントを特定して!」

アリス(理論・設計担当)が脳内の黒板にバンド構造の数式を書き殴り、共有視界に「光導電魔石の最適スリット幅(約0.1mm)」をAR(拡張現実)投影する。


「アリス、図面ロックしたわ! ボディは魔の森の真鍮、レンズには天体望遠鏡(第33話)で磨いた高透過ガラスを応用するよ!」

エレン(実技・工作担当)の手が、作業台の上で残像を置き去りにして動き出した。

エレンの指先は今、1秒間に数万回微振動する「精密放電加工カッター」と同調している。

光を遮る極小のスリット(隙間)と、セレン風魔石を組み合わせた「光電式スキャンヘッド」が瞬時に物質化されていく。


次は、原稿を正確に送り、受信側と完全に「同期」して回転させる「ドラム走査スキャンシステム」の構築だ。


「エレン、送信側と受信側のドラムの回転が0.01度でもズレたら、受信した絵が斜めに引きちぎれる(同期ズレ)わ。第36話で量産したからくり人形のシーケンスギヤと、電磁石による『位相同期ループ(PLL制御)』を物理的に構築するのよ!」

「任せなさい! 私の指先、今から極細の銅線を隙間なく巻き付ける『超精密コイルワインダー(5,000 rpm)』モードに入るわ!」


エレンが驚異的な肉体制御で、ドラムの回転速度を制御するための電磁石コイルを真鍮の軸に完璧に巻き上げていく。アリスは共有視界で、ドラムの回転位置を示すスリット光の波形パルスをリアルタイムで光学スキャン(スキャニング)し、「エレン、右ドラムの回転位相が0.05ms遅れてる、電磁石の電圧を0.2V上げて補正!」と指示を飛ばす。


一人が「デジタル制御回路と同期シミュレーター(ソフト)」、一人が「ナノ精度アクチュエーター(ハード)」。

二人の神がかり的な調和により、夕暮れ時には、アリスの部屋(送信側)と、庭の別棟(受信側)に設置された、真鍮と黒檀でできた不気味に蠢く「一対のドラム式FAX」が爆誕した。


受信側の記録(印刷)方式には、手作りの「カーボン紙(煤と植物油を薄く塗った紙)」を採用。

スキャナーが「黒」を検知して魔力信号を送ると、受信側の電磁石が作動し、小さな真鍮のスタイラス(針)がカーボン紙を「チチチチ……」と物理的に叩いて、下の紙に煤を転写する仕組みだ。


「よし……テスト配信いくわよ、エレン! 送信原稿、セット!」

「オッケー! テスト用の落書き、描いといたよ!」


エレンがドラムに巻き付けたのは――

アリスが目を血走らせ、にやりと邪悪に笑いながらペンを握っている、実物より3割増しで悪魔的な「アリスの不敵な笑み」の劇画イラスト(※ただの落書きです)だった。


「なんでこれにしたのよ……。まあいいわ、送信スタート!」

「スイッチ、オン!!」


ガチャン。

アリスの部屋でドラムが「シュルルル……」と等速回転を始め、光センサーが原稿の明暗を魔力信号(波形)に変換して、見えない魔導波で庭の別棟へと送信した。


別棟(受信側)の機械が、パチパチパチパチ……と青い魔力の火花を散らしながら作動を始める。

電磁石に同期された真鍮のスタイラスが、ドラムに巻き付けられたカーボン紙を「チチチチチチチチチ!!!」と、もの凄い速度で叩き、自動的に紙を吐き出し始めた。



その頃。

大雪の積もった別棟の窓の外。

前回の「肉体消滅溶解泡(※ただのお肌に優しいお風呂の泡です、第40話)」の恐怖から這々の体で復帰し、執念で双子の監視を再開していた隣領の超一流隠密スパイは、その窓から覗く不気味すぎる光景に、全身の毛穴から冷や汗を噴き出させていた。


「お、おい……嘘だろ……。あ、あいつら、今度は誰もいない部屋で、一体何の呪いの儀式を執り行っているんだ……!?」


しんと静まり返った無人の別棟。

そこに置かれた、不気味な真鍮の歯車と電磁石がパチパチと青い火花を散らす「謎の魔導具」。

誰も触れていないのに、その魔導具は「チチチチチチチチチ!!!」と、まるで死神が歯を鳴らすような奇怪な金属音を響かせ、等速で回転している。


そして――。

その不気味な機械の隙間から、まるで生き物のように、黒い煤に汚れた不気味な紙が、「ヌッ……ヌッ……」と自動的に吐き出されていく。


「な、何なんだあの黒い紙は……。ひ、光っている……? いや、違う! 絵が……絵が勝手に浮かび上がってきているぞ……!」


隠密は、恐怖でガタガタと歯を鳴らしながら、窓ガラスに顔を擦り付けた。

吐き出されていく紙の表面に、少しずつ、少しずつ、黒い煤の点画で描き出されていくのは――。


暗闇の中で、邪悪極まりない笑みを浮かべ、こちらをじっと見据えている銀髪の少女アリスの、生々しい「呪いの肖像画」。


「ひ、ひぃぃぃっっっ!!!???」


隠密の脳髄に、砕け散るような衝撃波が走った。


「つ、ついに奴ら……世界のどこにいても、生贄の顔を黒い呪いの紙に写し取り、その紙と目が合った者の魂を遠隔で抜き取って呪殺する、伝説の暗黒転移魔術『ソウル・デリート・デリバリー』を完成させたぞォォォ!!!」


あの不気味に叩かれる針の音。あれは、対象の心臓の鼓動ハートビートを遠隔でハックし、停止させるための死の秒読み(カウントダウン)に違いない。

そして、今まさに目の前の紙に完成しつつある、邪悪な笑みを浮かべる少女のイラスト。

あれと一瞬でも目が合ったら最後、自らの魂は紙の中に吸い込まれ、一生双子の紙人形として奴隷にされるのだ。


「に、逃げろ……! あの紙の少女が、こっちを見て笑っている……! 目が合ったら、目が合ったら一瞬で魂をデリートされるぞォォォ!!!」


隠密は、あまりの「魂のハッキング」への恐怖と、パチパチと散る青い火花の不気味さに脳のキャパシティが完全に崩壊。

窓から飛び退き、白目を剥いて泡を吹きながら、雪原の上を芋虫のように転がり回り、闇の中へと必死に這い逃げていくのだった。



その夜。

コタツの中で、ハチミツミルクを飲みながらぬくぬくと暖まる双子。


「ねえアリス、受信テスト大成功。別棟のFAXから、アリスのドヤ顔落書きがミリのズレもなく完璧に出力されてたわよ」

「素晴らしいわエレン。これでもう、ギルバート商会からの『早く原稿を出しなさい!』っていう無慈悲な催促FAXも、受信した瞬間にコタツから一歩も出ずに『今描いてます(大嘘)』って返信FAXで送り付けられるわね」


「「ふふふふ……」」


窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに庭の雪を掃き清めていた。

領内には、目に見えない「極限の固体物理学と走査技術」と、隣領を国家崩壊レベルの恐怖に陥れる「目が合った瞬間、魂を紙に吸い取られて即死する黒い呪いの紙の噂」が、優しく、そしてお気楽に広がり続けるのだった。

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