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第37話:極寒を笑う極薄の鎧(と、恐怖の極地適応・生体改造兵士)

「……アリス、聞こえる? 私の大腿四頭筋だいたいしとうきん大臀筋だいでんきんが、この『重ね着モコモコ地獄』のせいで締め付けられ、スクワット時の股関節の最大屈曲角が平時の70%にまで低下しているという、筋トレ界における最悪の緊急事態に直面しているわ……」

「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の大脳皮質も、寒さでかじかんだ手先で深夜の漫画執筆とプロット推敲を行う非効率さに、限界値(しきい値)を超えた怒りのパルスを送信しているわ。冬だからって着膨れて機動性を失うなんて、QOLを極めた俺たちの美学に反するわよ!」


シベリアを彷彿とさせる、シルバーストーン領の極寒の冬。

コタツ(地熱温泉床暖房仕様)に入りながらも、あまりの寒さにセーターを4枚重ね着して雪だるまのようになっている双子は、脳内の専用回線テレパシーで不満を爆発させていた。


「いい、エレン。人類が冬でもスタイリッシュに、かつアクティブに活動するために生み出した究極の繊維工学。それは『吸湿発熱繊維(レーヨンやアクリルの熱変換技術)』よ! そして、それでも足りない極寒の地を克服するための、禁断の『モバイルバッテリー式・電熱インナーベスト』のDIYを敢行するわ!」

「最高ねアリス! 薄くて、軽くて、極限まで暖かいインナー……これぞ冬のワークアウト(筋トレ)の完全なる救世主よ!」


二人の『二心同体デュアル・コア』が、繊維化学と電気工学の極致へと同期した。


アリス(理論・設計担当)が、まず脳内の理科室で「凝縮熱ぎょうしゅくねつ」の物理現象をシミュレートする。


「水分子はね、気体(汗などの水蒸気)から液体(水滴)に変化するときに、周囲に莫大な凝縮熱を放出するの。親水性基しんすいせいきの分子間力を極限まで高めた繊維を設計すれば、私たちの可愛い肌が発する微小な湿気を吸着し、勝手に発熱する『異世界版ヒートテック』が作れるわ!」


アリスが「高分子の親水性官能基の配置比率」を算出し、共有視界に分子結合モデルをAR投影する。


エレン(実技・精密工作担当)が、魔の森でハンスたちに採取させておいた「アイアンスパイダーの超極細糸」と、コンビナート(第24話)で精製した植物性高分子を並べた。

「アリス、分子重合の配列ガイドはロックしたわ! 私の『超微細魔力プレス(延伸)』で、繊維の表面に親水性基のミクロン単位の凹凸を刻み込んでいくよ!」

エレンの手が残像となってシリンダーと織機を動かし、空気のように軽い「極薄の発熱インナー布」がみるみるうちに織り上がっていく。


「素晴らしいわ、エレン! だけどこれだけじゃ、氷点下の屋外でスクワットをするには熱量が不足する。ここで、第35話でライデン瓶に蓄電した大自然の電気(雷)を応用するわ!」


アリスが電熱インナーの回路図を脳内に展開した。

火傷を防ぎつつ持続的な暖かさを生み出すため、電流I、抵抗R、時間tにおけるジュール熱Qの公式をフル活用する。


Q = I² R t


「エレン、電気抵抗値が正確に4.5Ωになるよう、極細の銅繊維をインナーの背中と腹部の位置に、ヘアピンカーブ状に織り込んで! オームの法則I = V / R に従い、微弱なライデンバッテリーの電圧を完全に調教コントロールするのよ!」

「任せなさい! 私の指先、今、髪の毛より細い電熱線ヒーターを1ミリの隙間もなく格子状に縫い付ける『精密刺繍ミシン』モードと同調したわ!」


一人が「デジタル回路と熱量シミュレーター(ソフト)」、一人が「ナノ単位の電熱線刺繍機ハード」。

二人の超絶連携により、地下工房には、触れるだけで体温と同等の優しくも力強いぬくもりを放つ、超薄型電熱インナーベスト『シルバーストーン・サーモアーマー』が完成した。


「よし……起動よ、エレン! 電源(ライデン瓶改・ポータブルバッテリー)オン!」

「スイッチ、オン!!」


フワッ……。

電熱線を通じて、安全に制御された微弱な電流がオームの法則通りに熱へと変換され、インナー全体が瞬時に優しく温まった。


「ああっ……暖かい……! まるで背中に小型の温泉を背負っているかのような、極上のぬくもりよ……!」

「最高ねアリス! これなら重ね着は一切不要! 厚さわずか1mmの『究極の軽装』で、冬の領土を支配できるわ!」



翌日の朝。

外は猛烈な吹雪。気温は氷点下。

雪が激しく吹き荒れる中、シルバーストーン家の庭に、1枚の薄手のインナー(とベスト)だけを身にまとったエレンが、颯爽と仁王立ちしていた。


「いくわよ……大腿四頭筋の、フル・可動域運動フルスクワット!」


シュババババババッ!!!


エレンは、氷点下の吹雪など微塵も感じさせない涼しい顔で、衣服の可動域の制限から完全に解放され、目にも留まらぬ超高速でスクワットを繰り返していた。

その姿を、窓を開けたぽかぽかの室内(地熱床暖房+コタツ)から、温かいハチミツミルクを片手に生温かく見守るアリス。


「いいフォームよ、エレン! 重心移動のブレは0.5%以下! サーモアーマーのジュール熱も、私の計算通り摂氏38.5℃で完全に均一化されているわ!」

「最高よアリス! 寒さをまったく感じないのに、身体が信じられないくらい軽い! 股関節の動きが水の上を滑るようだよ!」



その頃。

大雪の積もったシルバーストーン家の庭の物陰。

吹雪の中、極厚の毛皮と防寒具を何重にも着込んで、寒さで歯をガタガタと鳴らしながら望遠鏡を覗いていた隣領の超一流隠密スパイは、その信じられない光景を前に、凍りついた望遠鏡を落としそうになっていた。


「お、おい……嘘だろ……。あ、あいつ……気が狂ったのか……!?」


隠密の視界には、吹雪が吹き荒れ、普通の人間なら数分で凍死する極寒の雪原の中、

薄手のぴったりとした薄いインナー1枚という、ほぼ裸に近い驚異の軽装で、涼しい顔をして人間離れした超高速の上下運動スクワットを繰り返している銀髪の少女の姿があった。


さらに、望遠鏡の倍率を上げると、少女の薄いインナーの背中と腹部に、不気味に赤く(※ただの電熱線です)光る謎の網目状の紋様が透けて見えている。


「あ、あの背中の紋様……赤く発光している……! ま、まさか……!」


隠密は、恐怖で全身の血が凍りつくのを感じた。


「あ、あの双子……吹雪の中でも体温を奪われない、禁忌の『耐寒魔紋』を肌に直接刻み込んでいるぞ……! いかなる極寒の地でも、防寒具を一切必要とせず、涼しい顔をして高速戦闘を維持できる、恐怖の『氷獄適応・生体改造兵士』の完成だ……!!!」


天候をハック(第35話)し、自走する死神の軍勢(第36話)を作り、今度は自らの身体すらも「物理の限界」を超えて改造し、兵器化した。

あの双子が本気で軍を動かせば、冬の時期の進軍という軍事的な不可能を完璧に克服し、大陸中を電撃的に征服できる。


「に、逃げろ……! ここにいたら、あの生体改造された化け物たちに、雪だるまのように踏み潰されるぞォォォ!!」


隠密は、あまりの圧倒的な技術力の暴走と世界の終焉のビジョンに、震える手で防寒具を握りしめ、白目を剥いて泡を吹き、転がるようにして冬の闇の中へと真っ逆さまに卒倒、そのまま気絶して新雪の中に沈んでいくのだった。



その夜。

コタツの中で、ハチミツミルクを飲みながらぬくぬくと暖まる双子。


『――ハガキ職人の皆さん、こんばんは。深夜2時、サーモアーマーのおかげで完全にモコモコから解放されたアリスとエレンがお送りする「シルバーストーン・ミッドナイト・グルーヴ」の時間です』

『エレンでーす! いやー、薄型インナーの可動域が凄すぎて、今日のスクワットは自己ベスト更新! QOL限界突破だよ!』


窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと木製のお掃除ロボ(第36話)が優しく雪かきをしていた。

領内には、目に見えない「極限の繊維技術」と、隣領を国家崩壊レベルの絶望に陥れる「冷酷なる生体改造兵士の噂」が、優しく、そしてお気楽に広がり続けるのだった。

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