表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
36/69

第36話:自動で働く木製の忠僕(と、他領を蹂躙する魔導自走歩兵オートマトン)

「アリス、聞こえる? 私の三角筋と僧帽筋が、深夜ラジオ宛てに届いた『大腿四頭筋の鍛え方』ハガキ300枚を仕分けるという不毛な単純作業によって、深刻なオーバートレーニング状態(ただの肩凝り)に陥っているわ……」

「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の大脳皮質も、ビールのボトリングやピザ生地の成形、さらにはドレス生地の運搬といった雑用のマルチタスクで、CPU使用率が100%に達してフリーズ寸前よ。……QOLを極めた私たちが、なぜこんな雑用に追われなきゃいけないの? これじゃ『忙しい貧乏貴族』じゃないの!」


シルバーストーン家のリビング。コタツ(地熱床暖房仕様)に入りながら、温かいハチミツミルクを片手に双子は怒りのテレパシー(脳内専用回線)を交わしていた。


領地がコンビナート化し、大人気ブランドとして大金が舞い込むようになったのはいいが、その裏で発生する「ハガキの仕分け」「畑の雑草抜き」「コンビナート内のゴミ拾い」といった単純作業が、双子たちの自由なダラダラ時間(趣味の時間)を容赦なく蝕んでいたのだ。

ハンスたち宅配便の子供たちは、配送という最重要物流ラインで手一杯である。


「いい、エレン。人類が肉体労働から解放され、余暇を100%趣味に捧げるために発明した究極の知恵、それは『自動化オートメーション』よ! 電子回路のないこの世界だけど、水車の動力を蓄える『ゼンマイ』と、複雑な立体クランクによる『シーケンス制御(からくり機構)』があれば、全自動お掃除ロボットを量産することは容易いわ!」

「最高ねアリス! 大自然の力を巻き取って、私たちの代わりに働かせる……これぞ知的なニート生活(QOL)への第一歩よ!」


二人の『二心同体デュアル・コア』が、機構学と制御工学の極致へと完全同期した。


アリス(理論・設計担当)は、前世の理科教師としての知識ベースから、18世紀の産業革命期や日本の江戸時代に活躍した「からくり人形」の構造を検索。

センサーやコンピュータを使わず、物理的な「凹凸を持つ円盤カム」や「連動する金属のリンク」、逆回転を防ぐ「ツメ(ラチェット)」の組み合わせだけで、あらかじめ決められた動作を100%再現する『シーケンス制御(順序制御)』の回路図を脳内に展開した。


アリスが「カムの曲線プロファイル」や「リンクの可動域ベクトル」を計算し、共有視界に鮮やかなAR(拡張現実)の3D設計図として投影する。


「エレン、設計図をロックしたわ! ボディと歯車は、魔の森で拾った一番硬い『アイアンウッド』よ。エレン、私の3Dガイドラインに沿って、髪の毛1本以下の隙間バックラッシュで精密カットして!」

「了解! 『超精密魔力彫刻・旋盤モード(100,000 rpm)』!」


エレン(実技・工作担当)が、作業台の上に丸太を据え置き、両手をかざした。

エレンの指先から、大気を激しく引き裂くキィィィィンという高周波の魔力刃が放たれる。

エレンはその指先を滑らせ、アリスが投影したARガイドラインに重ねるようにして、アイアンウッドの塊を分子レベルで削り出していく。


一人が「幾何学的クランクシミュレーター(ソフト)」、一人が「超高速ナノ切削機ハード」。

アリスが「あ、そこ。ギヤのピッチが0.05mmだけズレそう。回転の減衰を抑えるために、あと100nmだけ深く彫って!」と指示を出すと、エレンが瞬時に魔力の波長を調整して修正する。

一瞬の妥協もない二人の連携により、作業台の上には、真鍮すらも凌駕する驚異的な精度で噛み合う「木製の多層ギヤボックス」がズラリと完成した。


「次は動力源の『ゼンマイ』ね。アリス、どうする? チタンを使う?」

「いいえ、そこはもっと安価に。魔の森の弾力性の高い『ゴムツタ』に、細く引き延ばした鋼線を編み込んだ特製『ハイブリッド・ゼンマイ』よ! これを水車の動力でギリギリまで巻き取るの」


エレンが驚異的な肉体制御で、金属入りの強靭なゴムツタを直径30センチのドラムに超高密度で巻き取っていく。

さらに、アリスが設計した「カム」によって、人形が前進し、左右に手を振り、地面のゴミをホウキで掃き(あるいは畑の雑草を鍬で抜き)、ゴミ箱に回収するという、一連の複雑な物理アクションが完璧なタイミングで連動するようにリンク機構が組まれた。


こうして、全幅1メートル、高さ1.2メートルの、不気味なほど関節の多い木製の人形――自走式木製お掃除・雑草抜きマシーン『シルバーストーン・ウッドサーヴァント(木製の忠僕)』が10台、爆誕した。


「よし……起動よ、エレン! ゼンマイのロックを解除して!」

「スイッチ・オン!!」


ガシャ、ガシャ、ガシャガシャガシャ……!!!


水車から巻き取られた莫大なゼンマイの解放エネルギーが、複雑に噛み合うギヤボックスを通じて四肢へと伝達され、木の人形たちが動き出した。

その姿は、不気味な木製の関節音を響かせながら、右手の「雑草抜き用のくわ」を規則正しく地面に突き立て、左手の「ゴミ拾い用のハサミ(マジックハンド)」をガシャガシャと動かして、領地内のゴミを拾い集めていく。


「やったわエレン! 誤差0.1%以下の完璧なシーケンス制御よ! これで私たちは、一歩もコタツから出ずに領地の美化活動を完遂できるわ!」

「最高ねアリス! カムの円盤を交換すれば、ハガキの仕分けも、ビールの箱詰めも全自動! QOLの極みよ!!」


庭をガシャガシャと不気味に徘徊する、10台の木製人形たち。

それは、双子にとってはただの便利な「お掃除ロボット(木製ルンバ)」だったが、周囲の光景は一変していた。



その頃。

大雨の夜(第35話)から生還し、低体温症からなんとか復活した隣領の超一流隠密スパイは、凍える茂みから、シルバーストーン家の庭を望遠鏡で覗いていた。

その瞬間、彼の背筋に、氷を直接叩き込まれたような凄まじい悪寒が走った。


「お、おい……嘘だろ……。あ、あいつら……ついに、禁忌の領域の、さらにその先へ行ったぞ……!!」


隠密の視界には、ガシャガシャと不気味な関節音を響かせ、感情のない木製の顔をした人形たちが、鋭く尖った「鎌」や「鍬」を手に持ち、不気味なほど一糸乱れぬ等速の隊列を組んで、領地内を徘徊している光景が映っていた。


「あ、あれは……生きているのか? いや、違う! 呼吸をしていない! 心臓の音も聞こえん! ま、まさか……!」


隠密は、人形たちが寸分の狂いもない機械的な動きで、地面の草(雑草)を容赦なく「ザシュッ、ザシュッ」と刈り取り、不気味なハサミで何かを掴み取っていく様子に、恐怖で歯をガタガタと鳴らした。


「一兵の血を流すこともなく、恐怖も、痛みも、一切の感情を持たずに他領を蹂躙・殲滅する、禁忌の『無人魔導自走歩兵部隊オートマトン・アーミー』だ……!!! あの手にした鎌は、敵の首を刈り取るための死神のデス・サイズに違いない……!!!」


隠密には、ただの雑草抜きロボットの鍬が、国家の精鋭兵を紙切れのように切り裂く「処刑用の大鎌」に見えていた。

天候をハック(第35話)した次は、死を恐れない無人の軍隊の組織。

シルバーストーン家による大陸征服へのカウントダウン。あまりの恐怖と、世界の終焉のビジョンに、隠密は脳のキャパシティが完全に崩壊した。


「に、逃げろ……! ここにいたら、あの感情のない木の人形たちに、雑草のように首を刈り取られるぞォォォ!!」


隠密は、持っていた望遠鏡を投げ捨て、白目を剥いて泡を吹き、転がるようにして夜の闇の中へと真っ逆さまに卒倒、そのまま気絶して泥水の中に沈んでいくのだった。



翌日の夜。

コタツの中で、ハチミツミルクを飲みながら、ぬくぬくと暖まる双子。


『――ハガキ職人の皆さん、こんばんは。深夜2時、お掃除ロボのおかげで完全に手の空いたアリスとエレンがお送りする「シルバーストーン・ミッドナイト・グルーヴ」の時間です』

『エレンでーす! いやー、ハガキ自動仕分けマシーン(木製)の精度が凄すぎて、私たちは座って喋るだけ! 喉越し最高! QOL限界突破だよ!』


窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと木製のお掃除ロボが優しく庭の落ち葉を掃いていた。

領内には、目に見えない「究極の省力化技術」と、隣領を国家崩壊レベルの絶望に陥れる「冷酷なる死神の軍勢の噂」が、優しく、そしてお気楽に広がり続けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ