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第3話:洗濯革命は足元から(と、銀髪少女のクランク地獄)

「アリス、私決めたわ。この世界から『洗濯板』を駆逐する」

「穏やかじゃないわねエレン。でも、あなたの言いたいことは痛いほどよく分かるわ。物理的に。私の指も、もうボロボロよ」


シルバーストーン家の裏庭。そこには、赤く腫れた小さな手を突き合わせ、悲壮な決意を固める二人の美少女がいた。

原因は、山のような洗濯物だ。

没落貴族とはいえ、屋敷の布製品は多い。冷たい川の水で、ゴシゴシと力を込めて洗う作業は、元教師(文化系趣味人)の精神と、美少女(か弱い児童)の肉体にはあまりに酷だった。


「見てなさい。私の前世の愛車……フルカーボンのロードバイクのスピリットを、この洗濯桶に注ぎ込んでやるわ!」

「それ、ただの洗濯機をチャリにしたいだけじゃない? ……まあいいわ、設計図はもう脳内のCAD(コンピュータ支援設計)で描き終わってるから。エレン、ガラクタ置き場から『円筒形の樽』と『馬車の車輪軸』をサルベージしてきて」


二人の『二心同体デュアル・コア』が火を噴く。

アリスが脳内で「ギア比」と「トルク」を計算し、エレンがその思考をダイレクトに受信して、ガラクタの中から最適なパーツを瞬時に見分け、力任せに引きずり出す。


「アリス、この車輪軸、少し曲がってるわ。直していい?」

「ええ。エレンの右目、ちょっとフォーカスを借りるわね。……そこ、左から15度の角度で魔力を叩いて」

「了解! 『ポイント・インパクト』!」


エレンが魔力を一点に集中させ、鉄の軸を叩く。

アリスの「精密な視覚補正」と、エレンの「野性的な出力制御」。一人が調整し、一人が実行する。このタイムラグ・ゼロの連携こそが、彼女たちの最強の武器だ。


今回のDIYの目玉は、自転車の「クランク機構」の再現である。

足でペダルを漕ぐ力を、回転運動に変えて樽の中の羽根を回す。

言葉で言えば簡単だが、溶接機もボール盤もないこの世界では、すべてが「現物合わせ」の超絶技能を要求される。


「アリス、この木製のギア、噛み合わせがキツすぎるわ。削りすぎてスカスカになるのが怖くて攻めきれない!」

「弱気ねエレン。大丈夫、私の『空間投影(AR投影)』をそのギアに重ねるわ。青く光っている部分だけを、0.5ミリ削り取って」

「……見えた! これならいける!」


エレンの視界に、アリスがシミュレーションした「理想の形状」が青い光となって重なる。

エレンはその光をなぞるように、のみを振るう。

一人が「答え」を知り、もう一人が「神の手」でそれを形にする。

もはやDIYというより、一人でCADとNC旋盤を兼ねているような異常事態だ。


「よし! クランク、連結! チェーンの代わりに、この丈夫な革ベルトを……えい!」

「……回った! 回ったわアリス!」


完成したのは、奇妙な形の装置だった。

大きな樽の横に、木製のフレームが組まれ、そこには不格好ながらも「サドル」と「ペダル」が備え付けられている。


「名付けて『シルバーストーン式・超高速遠心攪拌こうそくえんしんかくはん洗濯機一号』よ!」

「ネーミングセンスが理科教師のそれなのよ。もっと『スピン・ウォッシャーちゃん』とか可愛くできない?」

「却下よ。さあ、テスト走行(?)いくわよ!」


二人は同時に跳ね上がり、アリスが洗濯物の投入と水の管理、エレンが「エンジン(足)」を担当した。

エレンがサドルに飛び乗り、ペダルに足をかける。


「エレン、最初はケイデンス(回転数)60で安定させて。内部の水の抵抗を計算に入れた加速を……って、早いわよ!」

「だって、この感覚! 足に伝わるこの抵抗感! ああああ、ロードバイクに乗ってるみたいで最高おおお!」

「落ち着きなさい! 樽が、樽が空中分解するわ!」


ガタガタガタッ! と猛烈な振動が屋敷を揺らす。

アリスが必死にフレームを押さえ、エレンの「加速したい欲求」を思考共有を通じて強引に抑え込む。


「エレン! 運動エネルギーを考えなさい! このままじゃ屋敷の壁が突き抜けるわよ!」

「……はっ! ごめん、つい峠を攻めてる気分になっちゃって」


エレンがスピードを緩めると、樽の中では「バシャバシャ!」と小気味よい音が響いていた。

前世の理科教師としての知恵「遠心力による汚れの分離」と、自転車オタクの情熱「ペダリング効率」が、異世界の洗濯桶の中で奇跡の融合を果たしている。


「……そろそろいいかしら」

アリスがペダルを止めさせ、樽の蓋を開ける。

そこには、手洗いでは到底たどり着けないほど真っ白に洗い上がったシーツが、少し目を回したように丸まっていた。


「「勝った……!」」


二人は泥と汗にまみれた顔で、ガッツポーズを決めた。

その日の夕方。

川で洗濯をしていた母親が、戻ってくるなり「あら? 屋敷の洗濯物が全部終わってる……? しかも、なんだかいつもより白いわ」と首を傾げた。

裏庭では、銀髪の双子がサドルに跨り、「次は変速ギアをつけて、脱水機能も強化したいわね」「いや、それよりディスクブレーキが必要よ」などと、およそ七歳児とは思えない不穏な会話を交わしていたという。


カブのピザ窯に続き、洗濯機。

シルバーストーン家のQOL(生活の質)は、着実に、しかし確実におかしな方向へと進化し始めていた。

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