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第28話:軍事技術の領域へ!?(と、国を滅ぼしかねない重量6キロ台の宇宙決戦仕様チャリ)

「……アリス、聞こえる? 私の指先が、今、神の領域の『ミクロ・レイアップ(積層)』を求めて、細かく超高速で震えているわ」

「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の脳内メモリも、さっきから炭素繊維の織り目の角度を0° 、45° 、90°に最適化する熱可塑性シミュレーションで、メモリ使用率が98%に達しているわ」


シルバーストーン家の地下工房。

そこには、前回の令嬢ヒルクライムレースと特産品販売で稼ぎまくった「金貨のタワー」が、リアルな物理法則を無視してうず高く積まれていた。

元理科教師であり、生粋の自転車オタクでもあった成瀬健一(アリス&エレン)が、その天文学的な資金の使い道を「領地復興」から「極限の趣味」へと 180 度方向転換させるのに、 3 秒も必要なかった。


「いい、エレン。資金は無限にあるわ。ならば、私たちが目指すべきは一つ。異世界の素材と物理の法則を限界までイジめ抜いた……『宇宙決戦仕様のロードバイク』の建造よ!」

「最高ねアリス! ターゲットは……重量6kg台! 指一本で持ち上がり、立ち漕ぎ(ダンシング)した瞬間に時空が歪むような、悪魔のマシーンね!」


今回、アリスが脳内の 3D-CAD で設計したのは、前世のツール・ド・フランスでもお目にかかれない「チタン&魔法カーボン(CFRP)」のハイブリッドバイク。

材料となるのは、父様が「王都の頑丈な建材」としてどこからか持ち帰ってきた、超高純度のミネルヴァ・チタンボルト。そして、魔の森の奥深くに棲む「アイアンスパイダー」が吐き出す、鋼鉄の数十倍の引っ張り強度を持つクモの糸である。


「アリス、まずはフレームの核となる『魔法のカーボンチューブ』の成形よ!」

「任せなさいエレン! アイアンスパイダーの糸に、私が魔力で分子構造を組み替えたエポキシ風の熱硬化性樹脂をディップ。エレンは私の脳内設計に合わせて、糸を0.01mmの狂いもなくマンドレル(芯鉄)に巻き付けていって!」


二人の『二心同体デュアル・コア』が、ナノテクノロジーの領域で完全同期する。

アリスが「応力の分散ベクトル」を計算し、共有視界に積層パターンのガイドラインを投影。

エレンはその視覚情報に合わせ、指先の感覚だけで、クモの糸のシートを均一に、かつ超高密度で積層していく。


一人が「リアルタイム材料工学解析ソフト」、一人が「精密カーボンハード」。

仕上げにエレンが魔力の摩擦熱で150℃の圧力を加え、樹脂を完全に熱硬化キュアさせる。

完成したのは、金属的な妖しい光沢を放ち、叩くと「カン、カン」と乾いた高音が響く、驚異の超軽量カーボンパイプだった。


「次は、ジョイント部分のチタンラグ(接合部)よ! エレン、高硬度チタンを削り出して!」

「任せて! 私の指先の魔力振動は、今、超硬エンドミル(30000rpm)と同調しているわ!」


エレンがチタンの塊に触れると、キィィィィンという鼓膜を突き刺す高周波の音と共に、チタンが面白いように削られ、極薄の美しいラグへと成形されていく。

そこにカーボンチューブを接着し、ボルト類はすべて、アリスが脳内で中空加工(肉抜き)を設計したチタンボルトを採用。

サドルやハンドル、ホイールのリムにいたるまで、すべて二人の手による「魔導カーボン一体成形」だ。


数時間の超密着工作の末、それは作業台の上に静かに鎮座した。


「……できたわ。魔導二輪車・極限仕様『シルバーストーン・コズミック・スプリンター』」

「アリス、ちょっと持ち上げてみて」


アリスが右手の小指をひょいとブレーキレバーに引っ掛け、上に持ち上げる。


「かるっ……! 何これ、自重を忘れた綿飴わたあめか何かなの!?」

「私の精密天秤による計測値は……6.12kg! 重力加速度g = 9.8m/s²を完全にバグらせる軽さよ!」


超軽量チタン&カーボンフレームに、空気抵抗を極限まで減らした「流体力学エアロ形状」。

前世のF1マシン並みの空力解析を、アリスは脳内で済ませていた。


「さあ……試運転シェイクダウンよ、エンジン(エレン)!」

「ラジャー、ナビゲーター(アリス)! 物理の壁をぶち抜いてみせるわ!」


夜明け前の領地。

エレンが漆黒の『コズミック・スプリンター』に跨り、アリスがその背中に密着する。

アリスが共有視界に「速度計」「風速ベクトル」「最適ギアシフト(魔導式)」を表示。


「出力10%……30%……。スタート!」

「「っっっっっしゃあああああ!!!」」


ペダルを踏み込んだ瞬間、世界が一瞬で後ろへ吹き飛んだ。

自重6kg台のチャリに、身体能力お化けのエレンの脚力、そして摩擦抵抗をゼロに近づけたエアタイヤ魔法。

わずか1.5秒で、車体は「時速80km」の限界領域に達した。


「アリス! 軽い! 軽すぎて、ペダルを踏むと勝手に空を飛びそうよ!」

「エレン、踏み込みすぎ! 前方の空気抵抗Fdが速度の2乗に比例して爆増中! フォームを極限まで低くして、私の背中に隠れて!」


 Fd =1/2ρv²CdA


アリスは脳内でナビゲートしながら、車体の周りに発生する空気の「剥離(レイノルズ数)」を計算し、エレンのライディングフォームをミリ単位で微調整した。

空気抵抗係数Cd値は、驚異の0.2以下。

二人の乗ったチャリは、もはやアスファルトではなく、漆黒の光の矢となって領内の直線を爆走した。


「「キィィィィィィィィィン!!!」」


二人が通り過ぎる瞬間、あまりの質量と速度のアンバランスさに、周囲の空気が激しく引き裂かれ、パァン! という鋭い風切り音(ソニックブーム風の衝撃波)が周囲の森に轟いた。


その頃、シルバーストーン領の境界付近の木の上。

隣領の伯爵から「没落したはずのシルバーストーン家が、最近怪しい資金源を得ている。探ってこい」と命令された超一流の隠密スパイと、彼らを案内していた領地お抱えの狩人・ハンスは、信じられないものを見ていた。


「おい、ハンス……。今、向こうから『銀色の流れ星』が通り過ぎたが……」

「い、いや、あれは星じゃねぇ! チャリだ! 双子様が乗った、鉄のチャリだ!」


その瞬間、二人の目の前を『コズミック・スプリンター』が通過した。

キィィィィン! という金属的な超高音。そして、直後に襲いかかる、空気が引き裂かれたことによる突風と「パァン!」という大爆音。

風圧だけで隠密の覆面が吹き飛び、周囲の木々の葉が全てむしり取られる。


「な、なんだあの破壊兵器は……!?」

隠密は、恐怖で全身の毛穴が開き、歯をガタガタと震わせた。

「あの音……あれは、古代の風系最上位破壊魔法『テンペスト・ボム』と同質の衝撃波だ! しかも、あんな超高速で移動しながら無制限に放っている……! 重量感のないあの細い車体は、魔力を極限まで圧縮した『超電磁推進式・魔導突撃兵器』に違いない!!」


「シルバーストーン家は……没落などしていない! 国を数秒で焦土に変えるレベルの『音速突撃兵器』を実用化し、王都へのクーデターを計画しているんだあああああ!!」


「ひ、ひぃぃぃ! 双子様、やっぱり人間じゃねぇだべぇぇぇ!」


隠密は、あまりの国家崩壊レベルの秘密に脳のキャパシティが限界を迎え、白目を剥いて木から真っ逆さまに落下。

案内役のハンスも、「おらの知ってるチャリと違う……」と呟きながら、泡を吹いてその場で卒倒した。


一方、そんな大惨事(と盛大な誤解)など微塵も知らない双子は、屋敷の前に「スサササッ」と華麗に滑り込み、ブレーキをかけた。


「はぁ……楽しかった! アリス、これなら王都まで30分で行けるわね!」

「ええ、エレン。でも、やっぱりタイヤの減りが早すぎるわ。魔の森のクモの糸、次はタイヤの補強繊維(ケブラー代わり)として編み込みましょう」


二人は、指一本で最強の趣味チャリを持ち上げ、満足げな笑顔で地下工房へと戻っていった。


この日、隣領の隠密ギルドには「シルバーストーン領への潜入は死を意味する。そこには音速で領土を灰にする双子の魔王がいる」という極秘レポートが提出され、シルバーストーン領の絶対安全神話(?)が裏でひっそりと確立されるのだった。

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