第27話:第一回「シルバーストーン・令嬢限定ヒルクライム王都杯」の開催(と、経済を回す美少女のピチピチジャージ)
「……アリス、聞こえる? 私の右脳が、かつてない規模の『アドレナリンの大洪水』を予感して、お祭り用のハッピを着て踊り狂っているわ」
「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の左脳でも、今回の興行収入のソロバンが秒間 120 回転の超高速で弾かれて、脳内でゴールドラッシュの鐘が鳴り響いているわ」
シルバーストーン家の麗しき朝。
領地に空前の「漫画・自転車・グルメ」ブームが定着する中、元理科教師であり、生粋のオタクでもあった成瀬健一(アリス&エレン)は、次なる戦略に打って出ていた。
「いい、エレン。ただ単にブームを待つだけでは、コンテンツはいつか消費されて終わるわ。必要なのは『お祭り(メガイベント)』よ! 聖地巡礼にやってくる王都の貴族たちを巻き込み、スポーツ興行としてマネタイズする。これぞプロのイベントプランニングよ!」
「最高ねアリス! 今回の獲物は……ドレスの優先予約権に釣られた、王都のワガママ令嬢たちね!」
目的は、王都からシルバーストーン領までの高低差の激しい 100 キロを自転車で駆け抜ける、異世界初のロードレース『第一回シルバーストーン・令嬢限定ヒルクライム王都杯』の主催である。
だが、ただ走らせるだけでは、お堅い貴族たちは動かない。
そこで、二人の『二心同体』による、圧倒的な「おもてなしDIY」が火を噴いた。
「まずは『優勝トロフィー』よ! エレン、お願い!」
「任せなさい! 私の超精密肉体制御で、王都の審美眼(笑)を黙らせる至高の芸術品を作ってあげるわ!」
エレンは、魔力で熱した真鍮のインゴットをハンマーで叩き、さらに魔の森で拾った「巨大高透過クリスタル」を、指先の魔力振動で 0.001 mm 単位で削り出していく。
アリスが脳内の 3D-CAD で描いた「勝利の女神の黄金カップ(クリスタル埋め込み仕様)」の設計図を、共有視界にガイドラインとして投影。
一人が「分子結合の強度とデザインの黄金比」を算出し、一人が「人間NC旋盤」として物理的に削る。
完成したのは、お城の宝物庫に並んでいてもおかしくない、キラッキラに輝く「超豪華優勝トロフィー」だった。
「完璧よエレン! 次は、私の本領発揮……『ライブパブリックビューイングシステム』の構築よ!」
100 キロ離れた王都からのレース状況を、領地で待つ観客にどう伝えるか。
アリスは、魔導通信回路を仕込んだ小型の「偵察用魔力ドローン(鳥型)」をコース上に等間隔で配置。
そこから送信される「リアルタイム映像」と「魔力位置データ」を、領地のゴール地点に設置した超巨大な「水エレメント・ホログラムディスプレイ」に投影するシステムを設計した。
「アリス、この魔術回路、周波数が干渉してゴースト(残像)が出ちゃうわ!」
「問題ないわエレン。私が脳内でフーリエ変換を行ってノイズを除去するわ。エレンは魔力を440Hzの搬送波に載せて送って!」
一人が「リアルタイム信号処理」を行い、一人が「高周波アンプ」となって魔力を増幅。
試写会ならぬ、試映会は大成功。領地の広場には、大画面で選手の順位が「1. Lady Seraphina, 2. Lady Beatrice...」とリアルタイムに浮き出る、SFチックなスコアボードが爆誕した。
そして、レース当日。
スタート地点の王都には、異様な光景が広がっていた。
「……な、何よこれ! 全身ピチピチじゃないの!」
「でも、シルバーストーン家特製の『新作ドレス優先予約権』のためですわ! 負けられません!」
令嬢たちが身にまとっているのは、母様が「最新の王都アクティブ・エレガンス」としてデザインした、ガチ仕様のライダースーツ(サイクルジャージ)である。
太ももやお尻のラインが強調される恥ずかしさに最初は赤面していた令嬢たちだが、いざ『シルバーストーン・スプリンター(令嬢カスタム)』に跨ると、前世のツール・ド・フランス顔負けの鋭い眼光へと変わった。
「「「スタートおおおおおおお!!」」」
アリスとエレンの合図とともに、銀輪の群れが王都を飛び出す。
その後を、娘を心配(と溺愛)する王都の公爵や騎士団長たちが、馬車や愛馬で必死に追いかける。
「セラフィナ! 我が愛娘よ! ペダルを回せ! ギアを落とすな!」
「ベアトリス! 騎士団長の血を引くお前が、上り坂で遅れをとるなあああ!」
領地の特設実況ブースにある「ALICE」の文字が輝く木製の小屋)では、アリスがマイクを握って絶叫していた。
「さあ! 第一チェックポイントを通過したのは、王都の青き稲妻ことセラフィナお嬢様! しかし、すぐ背後からはベアトリスお嬢様が驚異的なケイデンスで迫っています! これぞ、ドレスへの飽くなき執念(物欲)!!」
領地の広場を埋め尽くした数千人の観客たちは、アリスの超絶実況と、目の前のホログラムボードに釘付けだ。
「がんばれ! ベアトリス様!」
「いや、セラフィナ様だろ! 賭け金は金貨3枚だ!」
お祭り騒ぎの中、観客たちの喉はカラカラ、胃袋はペコペコ。
そこに、エレンが特産品の販売ワゴンを突撃させる。
「はーい! 興奮して熱くなったお体には、マイナス20℃の魔法冷却技術で作った『濃厚バニラアイスクリーム』はいかがですかー! そして、大声での応援には、キレとコクがカンストした『シルバーストーン・スタウト(黒ビール)』! 泡が喉を焼きますよー!」
「おい、その冷たい泡の出る麦汁をこっちにもくれ!」
「アイス! 娘の応援に疲れた体に、その甘みが必要だ!」
飛ぶように売れるビールとアイス。
アリスの脳内では「売上高Y = ax + b」の一次関数グラフが、傾きをほぼ垂直にして天を衝いていた。
もはや、コインを受け取るエレンの手が摩擦熱で発火しそうなほどの超高速経済循環状態である。
そして、ついにゴール地点。
「SILVERSTONE HILL CLIMB」のゲートをくぐり、最後の激坂を駆け上がってきたのは――
「「「うおおおおおおおおお!!!」」」
満身創痍、だが最高に輝く笑顔のセラフィナお嬢様が、僅差で先頭を駆け抜けた!
エレンがすかさずチェッカーフラッグを振り抜き、ゴールを告げる。
「ゴールイン!! 第一回勝者は、セラフィナお嬢様です!!」
泣き崩れる令嬢、それを抱きしめて号泣する公爵パパ。
その傍らで、豪華な真鍮クリスタルトロフィーが五色の魔導花火を浴びてキラキラと輝いていた。
「アリス、大成功ね。お祭りとしても、興行としても、完全に王都のトレンドを乗っ取ったわ」
「ええ、エレン。本日の純利益で、領地の年間予算の半分が賄えたわ。スポーツビジネスの破壊力、舐めてはいけないわね」
二人は、表彰台の上でピチピチジャージのままトロフィーを掲げる令嬢たちを見上げながら、邪悪(?)かつ満足げな笑みを浮かべた。
「次は、このコースを常設にして『シルバーストーン・サイクリングロード』として整備、通行税とレンタサイクルでサブスク化ね」
「いいわね。あと、令嬢たちの練習用の『プロテイン(大豆&魔法錬成)』の販売も始めましょう。健康美ブームをでっち上げるのよ」
没落領地シルバーストーン。
そこは、もはや貧乏の影など微塵もなく、王都の貴族たちがこぞって汗を流し、ビールを煽り、アイスを貪る、異世界で最も不健康(で健康的)な超最先端のスポーツ観光地へと進化を遂げたのだった。




