第141話:夜空を彩るネオンの灯、全自動「空中コタツ熱気球」のフェスティバル!
シルバーストーン特区の夜は、留まることを知らないQOL(生活の質)の進化によって、今や世界で最も「だらだらと輝く聖地」と化していた。前回の「からくりペダルF1グランプリ」の熱狂が冷めやらぬ中、元理系教師の双子、アリスとエレンがコタツ(年中無休・永久床暖房ハイブリッド仕様)の最深部に潜り込みながら、次なるお気軽イベントの作戦会議を開いていた。
「ねえエレン。コタツでだらだら過ごす贅沢は極まったけれど、いつも同じ天井を見上げているのって、視覚的なエントロピーが固定されて退屈だわ。非常に非科学的よ。QOLをさらに高めるには、このポカポカのコタツに入ったまま、満天の星空と特区の美しいネオン街を360度の大パノラマで見下ろす『空中ピクニック』が必要不可欠だわ!」
アリスが冷たいハチミツコーラをストローで啜りながら、真剣な顔で断言する。
「なるほど、お姉ちゃん! コタツごと空を飛ぶんだね!」
エレンがパジャマの袖をまくり上げ、目を輝かせた。
「だったら、特区の夜を彩る光の祭典にしよう! 題して『熱気球ネオンナイトグロウ・フェスティバル』だ! でも、ただ浮くだけじゃつまらないから、地上にある『コタツBar』のキッチンから、上空のコタツ熱気球へアツアツの『おでんやビール』を秒速で届ける、超高速の空中物流インフラも一緒にDIYしちゃおう!」
二人の元理系教師の脳内回線が「お気楽極楽な大イベント」に向けて完全に同期した。アリスがノートを開き、理想気体の状態方程式( PV = nRT )と熱気流の浮力、および流体力学に基づく大気循環の数理モデルを爆速で弾き出す。
「(上空の冷気と熱気球内の温度差ΔTを常に一定に保ち、気球の体積 Vに対する浮力をナノレベルで動的制御するわ。さらに、地上から気球へ物資を届けるための『超軽量チタン製・真空気送管』の空気抵抗も計算して……よし、システムソフトは完璧よ!)」
「任せてアリス! 私の『超精密魔力クラフト・一体成形(120,000 rpm)』で、今夜中に特区の夜空を埋め尽くす気球艦隊を作っちゃうよ!」
エレンのフィジカルが火を噴いた。融点4500℃を誇る超伝導マグマチタン(第134話)を限界まで薄く削り出した「超軽量チタンバーナー」と、エルフの聖樹の繊維(第137話)を編み込んだ、ネオンの光を美しく透過・乱反射する「魔導ネオンバルーン」を物質化。そして最大の特徴として、気球のバスケット(籠)の部分には、丸ごと「4人掛けのコタツ」が綺麗にアセンブルされていた。こうして、わずか数時間で、特区の広場に数十機もの光輝く『空中コタツ熱気球』が整然と並んだ。
◇
「おーーい、双子たち! 今日もコタツBarの仕込みが終わったべさ……って、なんだべこの巨大な光る提灯は!?」
「ま、まさかこれを全部空に浮かべるというのか!? 双子たち、ついに特区の総力を挙げて王都への夜間爆撃を開始するのだな!?」
最初にやってきたのは、両親と、サウナハットを被ったままのアルド、そしてイゾルデだった。夜空に青、赤、緑、ゴールドのネオンをギラギラと輝かせる巨大な気球群を見て、アルドの「大誤解センサー」がピクリと反応する。
「爆撃じゃありませんよ、アルドさん。ただの『夜空のコタツピクニック』です」
エレンが苦笑いしながら、アルドの背中をポンと押して気球のコタツへと乗せた。
「さあみんな、コタツに入って! フェスティバル、スタートよ!」
アリスがコントロールパネルの起動ボタンをプッシュした。シュポォォォォォ!!!チタン製バーナーから、魔導プラズマの静かな青白い炎が吹き上がる。次の瞬間、数十機のネオンバルーンが一斉に、フワリと重力を失ったかのように無音で夜空へと舞い上がった。
「う、うわあああああ!? 浮いている! コタツに入ったまま、我々は空へ昇っているぞ!!」
アルドがコタツの天板にしがみつきながら叫ぶ。しかし、恐怖は一瞬で消え去った。アリスの気流制御シールドが気球の周囲を完全に包み込んでいるため、高度数百メートルに達しても、風の一吹きすら車内に入り込まない。コタツの中は永久床暖房(第139話)のぬくもりでポカポカ、エアコンは快適な22度。窓(バスケットの縁)から見下ろせば、そこには息をのむような絶景が広がっていた。ドワーフの温泉街(第134話)の湯気がネオンに照らされ、ペダルF1のサーキット(第140話)が光の帯となって大地を走り、見上げる夜空には満天の星空が広がっている。さらに、空中を浮遊する数十のバルーンが、音楽に合わせて明滅し、夜空そのものが巨大な光のダンスホールのようになっていた。
「素晴らしいべさ……。お父さん、私、お姫様になった気分だべ……」
「本当だな、母さん。こんな綺麗な景色、生まれて初めて見たべ……」
両親がウイスキーのグラスを片手に、うっとりと外を眺める。だが、ここからが双子の真骨頂、「QOLてんこ盛りドタバタインフラ」の本領発揮である。
「みんな、景色を楽しんだら、お腹が空いたでしょ? 地上のコタツBarから、アツアツのお弁当をお届けするわよ」
アリスがリモコンのレバーを倒した。その瞬間、地上から各気球へと繋がっている透明なチタン製「真空気送管」の内部で、パパパンッ!という軽快な空気圧の音が響いた。シュポーーーン!!!
「うおわっ!?」
気球の中央、コタツの天板の真ん中にある真鍮製のハッチがパカッと開き、中から完璧な断熱チタンカプセルが飛び出してきた。アルドが恐る恐るそのカプセルを開けると――。
「な、何っ……!? これは、味が極限まで染み込んだ大根、玉子、ちくわぶ、そして牛すじ……! まさか、地上の大鍋から、高度500メートルの我がコタツへ、一瞬にして『出来立てアツアツのおでん』が音速でデリバリーされたというのか!?」
「拙者のカプセルには、不融の氷晶(第136話)でキンキン3℃に冷やされた極上ハイボールと、出来立てのスモークローストポーク(第133話)が入っている拙者……! どんな隠密の高速移動をも凌駕する、恐るべき空中出前インフラ……!」
イゾルデがよだれをダラダラと流しながら、アツアツの大根をハフハフと口に放り込み、冷たいハイボールをグイッと煽った。
「冷た美味いっ! そしてコタツが温かい! 視界は360度の星空と百万ドルのネオン! 脳のQOL中枢が、完全にオーバーフローして大爆発してしまいますわァァァーーーッ(QOL完全降伏)!!」
イゾルデはサウナハットを揺らしながら、お気楽極楽のあまり白目を剥き、コタツの天板にべったりと突っ伏して液体のように溶けてしまった。
「お嬢様、この牛すじ、味が染みてて最高だべ! お代わりだべ!」
アルドも空のカプセルをハッチに放り込み、地上へ「お代わり信号」を送信する。すると、わずか5秒後には、地上で待機していたお掃除ロボバイトメンバー(エルフやドワーフたち)が、次々と新作のおつまみ(手羽先の甘辛揚げ、本わさび寿司)をカプセルに詰めて、シュポーーーン!と音速で打ち上げてくる。夜空のあちこちで、気球のコタツから「お代わり!」「ビール追加だべ!」という歓声が上がり、真空管がパパパンとハミングを奏でる、最高に賑やかで大盛り上がりな空中大宴会へと発展した。外部からの脅威やシリアスな大誤解など、この圧倒的な「だらだら空中楽園」の前には、気球のバーナーの煙よりも綺麗さっぱり消え去っていた。
夜更け前、フェスティバルのクライマックスとして、すべてのネオンバルーンが黄金色の光を一斉に放ち(ナイトグロウ)、特区の夜空に「巨大な光のコタツの地上絵」を描き出した。その美しさに、領民たちからも、王都からの観光客からも、地上のドワーフやエルフたちからも、地鳴りのような大歓声と拍手が巻き起こった。深夜、すべての気球が全自動で安全に地上へと着陸した。コタツBarの敷布団の上には、満腹と極上の景色、そして心地よい酔いによって、完全に野生の牙を抜かれた大人たちが、ゴロゴロと芋虫のように転がっていた。
「いやぁ……空の上で食べるおでんは、格別だったべさ。もう、一生地上で普通に生活したくないべ……」
アルドがエルゴノミクス座椅子(第131話)に完全に背骨を溶かされ、マヌケな笑顔で呟く。
「拙者も……あの星空のコタツから一歩も出ずに、このまま宇宙の果てまでスリープモードで漂流したい……」
イゾルデもすっかり骨抜きになり、幸せそうな寝息を立て始めている。アリスとエレンは、そんな大人たちを眺めながら、自分たちも特等席のコタツの奥深くへと潜り込んだ。
「大成功ね、エレン。空中ピクニックのQOLも、これで完全に我が物としたわ」
「うん、アリス。コタツから一歩も動かずに空を飛んで、おでんが音速で届くなら、僕たちの引きこもりライフは、もう重力すら関係ない次元に到達したね」
「さあ、お腹も心もいっぱいになったことだし、私たちもコタツの最深部へ潜行しましょう」
「そうだね、おやすみアリス」
完璧な理想気体の科学を異世界DIYで具現化し、特区の夜空を世界一快適なリビングルームに変えてしまった双子たちは、今夜もまた、ネオンの優しい残光に守られながら、最高にお気楽極楽な夢の中へと落ちていくのだった。




