第140話:大地を疾走する黄金の駿馬(と、無摩擦ベアリングで時速150キロを等速スライドする、お気楽ピットBarフェス)
「……アリス、聞こえる? 私たちの無重力コタツ(第138話仕様)と永久床暖房(第139話仕様)によって、お尻と背骨への負荷が『完全ゼロ』になった至高のだらだらライフだけど、あまりにも快適すぎて特区全体の住民が動かない置物と化し、私の大腿四頭筋が『深刻な運動不足による筋力低下』のバグを大脳新皮質に送信し続けているわ……!」
「聞こえるわエレン! 確かに、いくら不労所得がカンストしたからといって、特区全体の活力まで完全にゼロ(絶対零度)にしては、真のQOL(生活の質)とは言えないわ。ならば、これまでに磨き上げた自転車テクノロジーと超低摩擦技術のすべてを解放し、領民やエルフ、ドワーフ、そして王都の役人たちまでを巻き込んだ、チーム対抗の超巨大お祭りイベント――『第一回・からくりペダルF1グランプリ』を開催するわよ!」
シルバーストーンQOL巨大観光特区のリビング。
完全にポカポカに温まったドライ除湿コタツ(第65話仕様)の中で、ハチミツレモネード(第26話仕様)を啜りながら、銀髪の双子は脳内の専用回線を新たな「モータースポーツ(※ペダル式)熱」で同期させていた。
前世は三十代の理科教師、成瀬健一。その知識とチート能力を駆使し、お気軽極楽に「超高速スピードのスリル」を特区のエンタメに昇華させるため、双子の超絶同調が再び火を噴いた。
「いい、エレン? ペダルを漕ぐ力だけで時速150kmオーバーの爆速領域に達するには、空気抵抗を徹底的に抑え込み、車体を路面に密着させる空気力学のハックが必要よ! 翼の上面と下面の圧力差(ベルヌーイの定理)を逆転させて下向きの揚力を発生させる、アクティブダウンフォースウイングを設計するわ。そのダウンフォースFdの設計式はこれよ!」
Fd = 1/2Cdρv²A
「(ここでドラッグ係数をCd、大気密度をρ、速度をv、投影面積をAとするわ! さらに、船底にはスライムジェル(第26話仕様)の親水性撥水交互皮膜を施し、転がり摩擦抵抗を物理的にほぼ『ゼロ』にする境界流体ハックを適用するの。エレン、私の3D-CAD設計に沿って、水晶ベアリング(第48話)とチタンフレーム(第28話)を内蔵した、ペダル式4輪F1マシン『シルバーストーン・フォーミュラ・ワン』を量産しなさい!)」
「最高よアリス! 摩擦抵抗ゼロのF1レースね! 私の『超精密魔力クラフト・3次元切削(120,000 rpm)』、出力最大で最高のマシンを物質化してあげる!」
エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと精密な魔力放電が散る。
アリス(理論・設計・流体力学担当)が脳内スパコンで計算した「流線型空力シャシー」の3D設計図に完全に同調し、エレンはチタンプレートを一瞬で美しい4輪レーサーのボディへと成形。
さらに、1:12の超高速からくり変速ギヤボックス(第36話仕様)と、路面に吸い付くようなアクティブウイングを完璧な精度で組み上げ、数台の『フォーミュラ・ワン』を爆速で組み上げていった。
◇
数日後。温泉駅(第30話仕様)からコンビナート(第24話仕様)までの一本道を貸し切った、特区の特設サーキット。
「第一回・からくりペダルF1グランプリ、シグナルオールグリーン、スタート(ローンチ)よ!」
アリスが実況マイクを握りしめ、高らかに叫ぶ。
――パァァァァァン!!!
スタートの号砲と共に、ペダルを踏み込んだ瞬間、
「キィィィィィィィィン……!!!」
という、水晶ベアリング(第48話仕様)の超低摩擦による美しい超高音の金属音だけを静かに響かせながら、
数台の真鍮製4輪マシン(F1)が、一切のエンジン音も魔力爆発音も立てずに、
「無音」かつ「時速150キロ」という、世界の理を引きちぎるような凄まじい等速スライドで、大気の壁を切り裂いて爆進を始めた。
「ハッ! セイ! ホー! アリドアクスル、最大トラクション(駆動力)だべ!!」
サウナハット(第51話仕様)を被ったお庭番アルドが、エレンのギヤボックスを最大に踏み込み、ペダルを爆速回転させる。
「な、何ですって……!? ペダルが、ペダルが軽すぎて、お尻と大腿四頭筋のG(遠心力)が、完全にQOL大崩壊の領域に達していますわーーーっ!!!」
スウェット姿のイゾルデも、アクティブダウンフォースの力で路面にピタッと密着したマシンの吸い付くようなコーナリング(限界旋回)に、大笑いしながらステアリング(ハンドル)をねじ伏せていた。
スライムジェルの境界流体ハックによって路面摩擦はゼロ。
時速150キロでコーナーを滑走しても、タイヤは1ミリもスリップせず、車体は完璧な流体力学軌道を描いて立ち木をスササッと滑るようにかわしていく。
さらに、コース脇のピットエリア(道の駅・第26話仕様)では、
ハンスたち宅配便の子供たちが、もぎたての「本わさび(第121話仕様)」をその場で神速ですりおろした、冷え冷えの「極上深海魚のお寿司(第52話仕様)」の無料屋台を運営。
その隣では、エルフの長(第137話仕様)たちが、ハチミツカモミール(第76話仕様)の極上アロマを使った「ヘッドスパ無料体験コーナー」を開設し、
レースに疲れた(あるいは観戦している)王都の役人や領民たちを、片っ端から極楽のトランス状態へと引きずり込んでいた。
◇
深夜。
レースも無事に大盛り上がりで終了し、
ポカポカの地熱コタツ(ドライ除湿モード)を囲む、シルバーストーン家とバイトメンバー一同。
コタツのテーブルの上には、不融の氷晶(第136話仕様)をぎっしり浮かべて、
常に完璧な「3.0℃(最も美味い温度)」をキープした『永久保冷ハイボールタワー』。
そして、大皿に山盛りにされたアツアツの「すき焼き(第128話仕様)」と「幻の手羽先(第127話仕様)」が、素晴らしい香ばしさを漂わせていた。
「ぷはぁーっ!! やっぱり、時速150キロでスライド爆走した後の、この冷たいハイボールとコタツおでんは、五臓六腑のQOLを極限突破させるわね、アリス!」
「ええ、エレン。空気力学ウイングと、境界流体スライムハックの完全勝利よ。これで私たちの特区エンタメQOLは、またしても完璧な『音速の楽園』として維持されるわね。科学の完全勝利よ」
「お嬢様方、このハイボール、おでんの出汁(第109話出汁割り仕様)と交互に飲むと、胃袋のシナプスが完全にエマルションして、もう二度とベッドから出られなくなるべぇぇ!!」
アルドがサウナハットを揺らしながらグラスを煽り、
「本当にねえ、アルド……。わたくし、もうこのお休み権(第86話仕様)を握りしめて、一生このコタツの底で、お寿司をハフハフ貪りながらすごろく(第125話仕様)をして暮らしますわぁぁ……」
と、イゾルデも完全にプライドを溶かして、スウェットのまま白目を剥いてコタツの布団を抱きしめていた。
お父様エドワードもお母様レイラも、ドワーフやエルフの長たちとおちょこをカランと合わせ、
「私のターン、ドロー! お抹茶点て方カード(第108話)発動よ!」「いや、それには『ピざ窯の烈火(第32話)』でカウンターだべ!」
と、深夜まで大爆笑と大絶叫でカードゲームに熱狂していた。
窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと走る木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに特区のサーキットに残されたわずかな紙吹雪を掃き清めながら、コタツから漏れ出る香ばしいすき焼きの匂いと楽しげな笑い声を、優しく、そして最高にお気楽に、世界中に広げていくのだった。




