第139話:絶対沸騰のコタツ・サブマリン(と、深海を常夏のスパに変えて美味しいお魚を貪り食う、究極のお気軽潜水お使い)
「……アリス、聞こえる? 私たちの無重力クッション(第138話仕様)によって、お尻と背骨へのモーメント負荷が物理的に『完全ゼロ』になった至高のコタツライフだけど、特区全体の自動床暖房(第30話仕様)を維持するために、毎時数万ジュールもの魔力を消費しているという現実が、私の大脳皮質に『エネルギー効率の不完全さ』という名の深刻なバグを送信し続けているわ……!」
「聞こえるわエレン! 確かに、薪や電気を使い続けるなんて、持続可能なQOL(生活の質)の観点から看過できないわ。ならば、燃料不要で永久に最適温度(41℃)の熱量を放ち続ける、海の底の至宝――『絶対沸騰・魔導熱水石』を回収するしかないわね! ターゲットは、水圧がすべてを拉ぐ、深海一万メートルの暗黒の海溝『ミッドナイト・トレンチ』よ!」
シルバーストーン巨大観光特区のリビング。
お尻がフワフワと宙に浮く「無重力コタツ」に下半身を突っ込み、キンキンに冷えた(はずの)炭酸水を啜りながら、銀髪の双子は脳内の専用回線を新たな「深海エネルギー開拓熱」で同期させていた。
前世は三十代の理科教師、成瀬健一。その知識と異世界チート能力を駆使すれば、1000気圧の深海など、ちょっと水深の深い「お気軽なスパイス(熱水石)の特設売り場」に過ぎない。
「でもアリス、水深一万メートルなんて、かかる圧力は実に約1,000気圧よ!? 普通の鉄の船なんか、一瞬でペシャンコのホイル焼きにされちゃうわ!」
「フッフッフ、弱気ねエレン。流体静力学における静水圧Pの公式はこれよ!」
P = ρgh
「(水密度をρ、水深をhとするわ。この圧倒的な等方圧力を完全に分散させるには、真球殻の応力分布を最適化すればいいの。半径をr、肉厚をt とした場合、球殻に加わる引張応力σの設計式はこれよ!)」
σ = P・r/2t
「(チタンプレート(第28話仕様)を厚さ5cmの真球に成形し、表面に弾力性のあるスライムジェル(第26話仕様)を極薄マルチコーティングして、微小な構造歪みを物理的に100%分散・吸収するのよ! エレン、この設計図に沿って、中にコタツとエアコン、そして104話の温水洗浄トイレを完備した、世界一快適な深海探査艇『コタツ・サブマリン・マリンレジェンド』を物質化しなさい!)」
「最高よアリス! 1000気圧をコタツで踏みつぶすのね! 私の『超精密魔力クラフト・3次元切削(120,000 rpm)』、出力最大で鉄のクジラを組み上げてあげる!」
エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと精密な魔力放電が散る。アリスが脳内CADで算出した「等方圧力分散球殻」の3D設計図に完璧に同調し、エレンはチタンプレートを一瞬で滑らかな真球のコックピットへと成形。さらに、バラストタンク(浮力制御用・アルキメデスの原理 F = ρVg 応用)と、二酸化炭素中和リブリーザー(第75話仕様)の循環呼吸システムを完璧な精度でアセンブルしていった。
◇
数時間後。
狂暴な魔獣がうごめき、白泡が渦巻く「ミッドナイト・トレンチ」の海面。
「それじゃ、イゾルデにアルドも! コタツに入ったまま深海一万メートルへお散歩に行くわよ!」
「「「「ええっ、コタツのまま海に沈むの!?」」」」
ハッチがガチャンと閉まり、エレンがバラストタンクの注水バルブを回す。
次の瞬間、コタツ・サブマリンは、無音のまま、ゆっくりと暗黒の深海へと沈降していった。
外は光も届かない真っ暗闇、水圧は1000気圧。
だが、アリスの「圧力分散チタン球殻」と「スライム緩衝シールド」が等方圧力を完璧に受け流しているため、車内は常に摂氏24℃の極上のドライ空間が維持され、一同はコタツに入っておでん(第72話仕様)を貪り、お気軽極楽な深海ドライブを楽しんでいた。
「アリス、ソナー(第52話仕様)に反応あり。前方20メートル、海底都市の巨大な真鍮製の王宮を発見したわ!」
「よし、エレン! 減圧バルブをホールドして、王宮のテラスへ着床しなさい!」
カチャン、とサブマリンが古代の海底都市のバルコニーへと静かに着床した。
ハッチを開けると、そこには、全身を青い鱗で覆い、あまりの深海の冷たさにガタガタと歯の根を鳴らして凍えている、海底の部族――「魚人族」の王や兵士たちが、槍を手にして不審そうにサブマリンを囲んでいた。
「な、何奴だ……! 誰も生きて到達できぬこの深海に、このような光り輝くチタンの球体(※コタツ・サブマリンです)で現れたバケモノは……!」
魚人王が、寒さに震えながらカサカサの声を絞り出す。
アリスが不敵に微笑み、サブマリンのサイドハッチ(排気バルブ)を全開にした。
その瞬間、車内でハフハフと食べていた、にんにくと生姜がたっぷり効いたアツアツの「豚汁(第132話仕様)」や、スモークローストポーク(第133話仕様)の、
脳の満腹中枢をダイレクトにハッキングする、あまりにも暴力的で香ばしい、温かいアロマの風が、凍える海底王宮へとゴォォォッと勢いよく噴き出した。
「「「な、なんだこの、嗅いだだけで頭皮のコリが一瞬で消え去り、身体を芯からとろけさせる温かい薫風は……!?」」」
魚人たちが、その香ばしい匂いと温かさに、一瞬で目を血走らせてよだれをダラダラと流し、サブマリンのハッチの周りに吸い寄せられていく。
「お、おい! 寒くて……寒くて死にそうだったのに、この風を浴びただけで、凍りついていた鱗が一瞬でぽかぽかと温まっていくぞ!」
「この、白い湯気が出ている汁物(豚汁)……! 早く、早くオレたちにも恵んでくれだべぇ!!」
「フッフッフ、冷えた身体にはこれよ」アリスがにやりと笑う。
「お礼に、この『絶対沸騰・魔導熱水石』を少し分けてちょうだい。代わりに、私たちの科学の力で、あなたの凍える王宮を、年中無休の『常夏の温泉リゾート』に変えてあげるわ!」
「任せなさいお姉ちゃん! 『からくり温泉床暖房グリッド(第30話仕様応用)』、出力最大で敷設しちゃうよ!」
エレンが、サブマリンのコンテナからチタン製の熱伝導パイプを取り出し、両手を広げた。
キィィィィィィィン!!!
エレンの指先から、大気を(水中で)鋭く引き裂く超高周波の魔力放電。
アリスが脳内で算出した「海底王宮の熱循環マッピング」の3D設計図に沿って、エレンはチタンパイプを一瞬で王宮の床下へと配管し、熱水石の永久エネルギーと連結した。
次の瞬間。
王宮全体の冷たい大理石の床が、
「フワッ……」
と、まるで常夏の楽園のような極上のぬくもり(摂氏24℃)で完璧に満たされていった。
「ふ、ふおおおおおおおおん!!!???」
魚人王の口から、およそ誇り高き深海の支配者とは思えない、魂の底からとろけた奇怪な絶叫が漏れ出た。
「な、何だこれはぁぁぁ! 凍えきっていた足の先から、お腹の芯まで、大地の温かさが一瞬で細胞に充填されていくわ……! 脳が、脳のシナプスが、この極上のぬくぬく(QOL完全降伏)でハッキングされて、もう……もう戦うのとか、海の支配とかどうでもいいから、ここに永住しますぅぅぅ!!」
魚人王は完全に白目を剥き、温かくなった床の上に「もう、海防とかしんどいからどうでもいいべさ……」とサウナハット(第51話仕様)を被って、ドロドロの軟体動物のように崩れ落ち、完全降伏した。
それを見た魚人全員が、「オレも!」「わたくしもそのコタツ(QOL)を!!」と、プライドを完全に木っ端微塵にされてサブマリンのまわりにひれ伏し、列を作り始めた。
お礼に、魚人王は王宮の宝物庫から、ボトルに入った「絶対沸騰・魔導熱水石」を大量にプレゼントしてくれた。
さらに、お祝いとして、現地で獲れたばかりの、白身が透き通る最高級の深海魚を差し出してくれる。
「アリス、このお魚、めちゃくちゃ脂が乗ってるよ! これは……!」
「ええ、エレン! 昨日の『本醸造醤油&おろし生わさび(第121話仕様)』の出番よ! 寿司パーティーの開催よ!」
エレンがその場で、チタン製の神速おろし金(第121話仕様)を取り出し、ツーンと鼻を抜けるわさびをすりおろす。
アリスが酢飯をさっと握り、大カニ(第52話仕様)と合わせて、豪華な「深海お寿司盛り合わせ」を完成させた。
「いっただっきまーす!!」
パクッ、プリプリッ……!
ジュワァァァァァッ!!!
「「「ーーーーーっっっっっっっふ、ふおおおおおおおおお!!!!」」」
「冷たくてプリップリの深海魚に、わさびの鮮烈な香りと、杉樽醤油の重厚なコクが完璧にお口の中で爆縮を起こして、QOL完全降伏ですわーーーっ!!」
イゾルデは涙とよだれをダラダラと流し、サウナハットを揺らしながらコタツの底へ沈没した。
アルドもおちょこ(第109話熱燗仕様)をグイッと煽り、「お湯割りと深海カルパッチョ、最高だべぇぇ!!」と、魚人たちと一緒に深夜のコタツカードゲーム(第101話仕様)に熱狂し、大爆笑と大歓声を上げていた。
◇
翌日の夜。
特区のシルバーストーン家のリビング。
お持ち帰りした「絶対沸騰・魔導熱水石」を、屋敷の床下のヒートパイプ(第30話仕様)にパイルダー・オンした瞬間。
屋敷全体、そして特区全体のすべての家庭の床下までが、
「フワッ……」
と、何一つ燃料を消費することなく、永久に完全無料の極上のぬくもり(摂氏24℃)で完璧に満たされていった。
「ぷはぁー! やっぱり、燃料代ゼロ、魔力消費ゼロで、24時間ポカポカのコタツと床暖房が使い放題なのは、大脳新皮質のQOLを極限突破させるわね、アリス」
「ええ、エレン。静水圧 P = ρgh の等方分散と、スターリングサイクル熱交換の完全勝利よ。これで私たちのQOL帝国は、永久にエネルギー代無料の『ぬくぬくの楽園』として維持されるわね。科学の完全勝利よ」
「「ふふふふ……」」
お互いのもちもちのお肌と、さらさらツヤツヤの髪(第40話仕様)を優しく撫で合いながら、ハチミツレモネードを片手にその様子を眺める小さな双子。
窓の外では、月明かりとネオンの光(第105話仕様)の下、ガシャガシャと走る木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに庭の雪を掃き清めながら、コタツから漏れ出る香ばしいおでんの匂いと楽しげな笑い声を、優しく、そして最高にお気楽に、世界中に広げていくのだった。




