第136話:絶対零度のサウナと不融の氷晶(と、コタツから一歩も動かずに極上の3℃をキープする永久保冷ハイボールタワー)
「……エレン、聞こえる? 私たちのコタツBar(第110話仕様)において、前世のスコッチ・ウイスキーの伝統と、強炭酸ラムネ(第59話仕様)のキレが完璧に融合した『極上ハイボール』が、コタツの熱伝導( q = -k∇T )による熱平衡のせいで、わずか5分で『ぬるい炭酸水』に相転移を始めているわ。非常に非科学的であり、QOL(生活の質)に対する甚大なテロ行為よ!」
「聞こえるわアリス! というか、共有されている私の大腿四頭筋も、せっかくコタツでだらだらウイスキーを飲んでいるのに、お代わりや氷の追加のために布団の温かさを振り切って台所の冷凍庫(第116話仕様)まで往復させられる不条理に、怒りの乳酸を沸騰させているわ! どんなにアツアツのコタツの中に入れても絶対に溶けず、飲み物を常に『最も美味い3℃』に保ち続ける究極の氷――『万年不融の氷晶』を今すぐ採取しに行くわよ!」
シルバーストーンQOL巨大観光特区のリビング。
冷風ドライ除湿コタツ(第65話仕様)の中で、キンキンに冷えた(はずの)グラスを前に、銀髪の双子は脳内の専用回線をかつてない「氷晶熱」で同期させていた。
前世は三十代の理科教師、成瀬健一。
その知識をこれでもかと無駄遣いし、お気軽極楽なスローライフを完成させるためなら、大自然の極限地帯すらただの「お遣いルート」に変えるのがこの双子である。
「いい、エレン? 目指すは世界の最北端、すべての分子運動が停止すると言われる絶対零度の氷河地帯『ブリザード・エンド』よ。熱力学第三法則に基づき、絶対零度においてエントロピーSはゼロに収束するわ」
lim S = 0
T→0
「(周囲の熱運動を物理的に完全に偏向・相殺する『熱力学的エントロピーシールド』を設計したわ! これを、エレンが開発するキャタピラ付きの移動式コタツに展開すれば、マイナス50度の極寒でも私たちはコタツに入ったまま無音で爆走できるわよ!)」
「最高よアリス! コタツに入ったまま絶対零度の氷河をドライブするのね! 私の『超精密魔力クラフト・一体成形(120,000 rpm)』、出力最大で雪上仕様のキャタピラ付きコタツ『ブリザード・コタツ・エクスプレス』を物質化してあげる!」
エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと精密な魔力放電が散る。
アリスが脳内スパコンで計算した「熱偏向ドーム」の3D幾何学設計図に重ねるようにして、エレンはチタンプレート(第28話仕様)とクモの糸カーボンを積層し、底部に極厚のゴムキャタピラを備え、中央にぽかぽかの地熱コタツを搭載した、不気味に輝く「移動要塞型コタツキャリア」をものの数時間で組み上げた。
◇
「それじゃ、アルドにイゾルデ、お父様にお母様も! コタツに入ったまま絶対零度へピクニック(お遣い)に行くわよ!」
「「「「ええっ、コタツのまま外出るの!?」」」」
ハッチがガチャンと閉まり、エレンが真鍮のギヤレバーを倒す。
次の瞬間、ブリザード・コタツ・エクスプレスは、キィィィン……というベアリングの快音だけを響かせ、時速100キロの無音爆走で、領地から絶対零度のブリザード・エンドへと向かって発進した。
外は猛烈な吹雪、気温はマイナス50度。
だが、アリスの「エントロピーシールド」が周囲の熱流を完全に遮断しているため、車内は常に摂氏24℃の極上の常夏ドライ空間が維持され、一同はコタツに入ってピザを貪り、お気軽極楽なドライブを楽しんでいた。
数時間後、エクスプレスは「神の氷河」の最深部、青く輝く「万年不融の氷晶」がそびえ立つ氷の渓谷へと滑り込んだ。
そこには、全身を純白の氷の鱗で覆い、何千年も氷河を守り続けてきた伝説の魔獣――「氷雪竜」が、巨大な翼を広げて仁王立ちしていた。
ゴォォォォォォォォッ!!! と大地を震わせる咆哮。
「人間よ……何のために、この絶対零度の聖域に踏み込んだ……!」
「あ、アイス・ドラゴンさん、こんにちは」アリスがコタツから小首を傾げてペコリと挨拶する。
「私たちはね、コタツで飲むハイボール用の『溶けない氷』が欲しくて来たのよ。……って、ちょっと待って。あなた、全身が氷の鱗で覆われているけれど、身体の熱伝導率が低すぎて、深部の熱量が不足している(冷え性)じゃない。非常に非科学的であり、不健康だわ」
「な、何だと……!? この私が冷え性だと……!?」アイス・ドラゴンが巨体を震わせてうろたえる。
「そうよ。そんな極寒の環境で何千年も凍えていたら、筋肉が不活性化して、関節がボロボロになっちゃうわ。よし、エレン、あそこに『チタン製巨大超音波サウナコテージ』を爆速DIYして、ドラゴンさんをととのわせるのよ!」
「任せなさいお姉ちゃん! サウナ石はデス・マウンテンの極上火山岩(第51話仕様)を完備してるよ! 『超精密魔力クラフト・高速成形(120,000 rpm)』!」
エレンが、エクスプレスの倉庫からチタンプレートとサウナストーンを取り出し、両手を広げた。
キィィィィィィィン!!!
大気を切り裂く超高周波の魔力放電。
エレンは、アリスが脳内で算出した「ドラゴン専用・容積200m³の気密サウナドーム」の3D設計図に沿って、わずか3分で、極厚の断熱チタンサウナドームを氷河の上に爆速で建設してしまった。
「さあ、ドラゴンさん、お入りなさい! 極上のととのいが、あなたの関節痛を分子レベルで駆逐するわ!」
「う、うむ……? 温かい……いや、熱い!?」
おそるおそるサウナドームに巨体を滑り込ませるアイス・ドラゴン。
エレンがすかさず、ストーブの上のサウナ石に温泉水(第30話仕様)を豪快にぶっかけた。
ジュワァァァァァァァァァン!!!!!
「ふ、ふおおおおおおおおん!!!???」
ドラゴンの口から、およそ伝説の魔獣とは思えない、魂の底からとろけた奇怪な絶叫が漏れ出た。
アリスが開発した「コアンダ効果ノズル(第80話仕様)」から、熱変換された95℃の極上スチームが、ドラゴンの巨大な氷の鱗の隙間を物理的にくぐり抜け、深部の筋肉までを優しく、かつ暴力的な熱伝導で温めていく。
さらに、エレンが仕込んだピエゾ水晶(第62話仕様)の超音波が、鱗の表面の古い角質を心地よく剥離していく。
「な、何だこの……この、身体の芯から、何千年のコリと凍えが一瞬で消え去り、関節がバターのようになめらかに動く感覚は……!! 魂が、魂の配列が、ととのう……(QOL完全降伏)!!」
アイス・ドラゴンは、完全に白目を剥き、サウナコテージの中で「極楽じゃぁ……」とドロドロの軟体動物のように崩れ落ち、完全降伏した。
「気に入ってくれたみたいね。これ、お土産のサウナハット(第51話仕様)よ、被りなさい」
「う、うむ……! なんて通気性が良くて温かい帽子(QOL)なのだ……! 恩人(双子の魔王)たちよ、サウナの維持費用として、我が誇る『万年不融の氷晶』を、好きなだけ持って行くが良い!」
アイス・ドラゴンは、嬉々として自慢の鋭い爪を振るい、
キィィィン!と、コタツの中でも絶対に溶けず、常に3℃の極冷熱量を放ち続ける、美しいダイヤモンドのような不融の氷晶を、20キログラムほど削り取って双子のコンテナへとプレゼントしてくれた。
◇
その夜。
無事にシルバーストーン特区の屋敷へと帰還した一同。
コタツ(除湿ドライモード)のテーブル中央には、アリスが回収したチタン製パイプと、エレンが組み立てた、真鍮の不気味なバルブが輝く『全自動・永久保冷ハイボールタワー』が鎮座していた。
タワーの中央には、アイス・ドラゴンから貰った「不融の氷晶」が青白く輝いており、
中にウイスキーと強炭酸水を注ぎ込んでレバーを引くと――。
プシューーー、カラン!
「「「「お、おおう!!! 完璧に冷えているべ!!!」」」」
グラスに注がれたハイボールは、アリスの熱力学計算通り、
氷が1ミクロンも溶けていない(=薄まっていない)にもかかわらず、
グラスの表面にうっすらと霜を降らせ、
喉を完璧に潤す、物理的限界の「正確に摂氏3.0℃」をキープしていた。
「いただきます!!!」
全員が一斉にグラスを煽り、アツアツのおでんを口に放り込む。
「「「ーーーーーっっっっっっっふ、ふおおおおおおおおお!!!!」」」
「冷たい! 炭酸のバチバチ感が、氷が溶けないから最後まで薄まらずに、ウイスキーのスモーキーな樽香(第110話仕様)を完璧に喉に叩き込んでくるわ! コタツが温かいのに、喉だけが3.0℃の極楽結界に支配されて……QOL完全降伏ですわーーーっ!!」
イゾルデは涙とよだれをダラダラと流し、サウナハットを揺らしながらコタツの底へ沈没した。
「旦那、このハイボール、おでんの出汁割り(第109話仕様)の合間に飲むと、無限にエンドルフィンが分泌されて脳がとろけるだべぇぇ!!」
アルドもすっかりおでんを貪りながら、嬉しそうにグラスを傾けていた。
窓の外では、月明かりとネオンの光(第105話仕様)の下、ガシャガシャと走る木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに庭に落ちたわずかなサウナの雪を掃き清めていた。
領内には、目に見えない「極限の熱力学第三法則・エントロピー制御技術」と、絶対零度のドラゴンすらサウナで骨抜きにし、溶けない氷を手に入れた双子の噂が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。




