第134話:灼熱の火山迷宮、全自動「耐熱コタツキャリア」の爆走!
シルバーストーン特区のQOL(生活の質)は、前回の「スモークローストポーク」の成功によってひとつの頂点に達していた。しかし、元理系教師の双子、アリスとエレンの欲望は底が知れない。
「ねえエレン。コタツに電気圧力鍋、3D魔導テーラーと、私たちの引きこもりインフラは完璧になったけれど、これらを24時間フル稼働させるための『魔力消費量』が、そろそろ特区の既存の魔石ジェネレーターの限界を迎えそうなのよね。非常に非科学的だわ」アリスがコタツに顎を乗せたまま、冷たい烏龍茶をすする。
「わかるよアリス。僕たちが一生、電気代や魔力残量を気にせずに、100%の効率で暖房も調理も使い放題にするには……熱エネルギーをロスなしで電力と魔力に一瞬で変換できる究極のエネルギー素材『超伝導マグマチタン』が必要だね」
「そう、それがあるのは、ここから遥か南にある、常に1500℃の溶岩が噴き出すアクティブ・ボルケーノの最深部――『レグニスの火口迷宮』よ!」アリスが不敵に微笑み、地図を広げた。
「よし、行こう、アリス! コタツから一歩も出ずに火山を制覇する、最高にお気楽な大冒険だ!」
エレンが目を輝かせ、チタン製のリモコンのスイッチを入れた。
普通なら、灼熱の火山迷宮への挑戦といえば、伝説の耐熱装備を身にまとい、命がけで魔物を退治しながら進むシリアスなものだ。しかし、この双子にとって「冒険」とは「リビングルームをそのまま現地へ移動させる作業」に過ぎない。
アリスが瞬時に、熱輻射(ステファン・ボルツマンの法則:E = σT⁴)のエネルギーを完全に偏向・相殺する断熱魔導プロトコルを計算。
それを受けて、エレンの神速のフィジカルが駆動する。
「120,000 rpm精密削り出し」によって物質化されたのは、なんと融点 4500℃ を超える超耐熱チタン複合装甲で覆われ、足回りに大口径の全地形対応キャタピラを備えた、超大型移動要塞――『全自動エアコン付き・移動式コタツキャリア(ギガキャリア)』であった。
内部は、外の熱を100%遮断する完璧な断熱空間。中央にはふかふかのコタツが鎮座し、冷蔵庫には冷たいジュースと、前回のスモークローストポークの残りがギッシリ。エアコンは快適な22度に設定されている。
「お、おいおいおい! 双子たち、拙者たちはいったいどこに向かっているんだべさ!?」
「窓の外が……一面の溶岩と炎の海なんだが!? 結晶の壁がドロドロに溶けているぞ!?」
キャリアのコタツに一緒に強制収容された両親、そして警備名目で巻き込まれたアルドとイゾルデは、窓の外の地獄絵図を見て腰を抜かしていた。キャリアは今、ドロドロに煮えたぎるマグマの川を、何事もないかのようにザブザブと進んでいるのだ。
「大丈夫ですよ、アルドさん。アリスの熱輻射遮蔽プログラムが完璧だから、車内には熱が1ミリも入ってきません。ほら、冷たい麦茶でもどうぞ」
エレンがお気楽にグラスを差し出す。
「……外は1500℃の地獄なのに、コタツの中が天国みたいに涼しい……! 意味が分からん拙者……!」
イゾルデは恐怖を通り越し、冷たいスモークローストポークを頬張りながら、快適すぎる室内に脳の理解が追いつかずにいた。
キャリアは迷宮の最深部、赤く輝く「超伝導マグマチタン」の鉱脈へと難なくトゲトゲの岩肌を乗り越えて突入した。
そこは、この火山を何世代にもわたって管理し、最高級の武器を鍛えている頑固なドワーフの鍛冶職人部族の集落だった。
「な、なんだあの鋼鉄の怪物はァ!?」
額に汗を流し、つるはしやハンマーを持ったドワーフの族長が、突如マグマの海から現れたチタン製のキャリアを見て目を剥いた。
「まさか、我が部族の秘宝『マグマチタン』を奪いに来た、王都の秘密兵器か!?」ドワーフたちが一斉に武器を構える。
ガシャン、とキャリアのハッチが開き、中から出てきたのは……涼しげなパジャマ姿で、冷たいコーラを持ったアリスとエレンだった。
「あ、こんにちは。そこの『超伝導マグマチタン』を少し分けてほしいんですけど」アリスがペコリと頭を下げる。
「ふ、ふざけるな! 誰が渡すか! ここは室温が60度を超える灼熱の聖域だぞ! 生身の人間がパジャマで……って、おい、なんでお前ら汗一つかいてないんだべ!?」
族長が叫んだ。双子の周囲には、キャリアから展開された直径5メートルの「局所スポット冷房結界(18℃設定)」が張られており、近づいたドワーフたちも、一瞬にして秋のそよ風のような涼しさに包まれたのだ。
「う、おお……!? 涼しい……! なんだこの極楽の風は!?」
「オレたちのヒゲの焦げる匂いが一瞬で消えたぞ!?」
頑固なドワーフたちが、双子の涼しい結界の中にゾロゾロと吸い寄せられていく。
「あなたたち、火床の温度管理に苦労しているみたいね」
アリスがドワーフたちの鍛冶場を見て、元理系教師の鋭い目で指摘した。
「マグマの熱をそのまま使っているから、温度が1200℃から1500℃の間で不規則に変動しているわ。これだとチタンの結晶構造に不純物が混ざって、強度が落ちるのよ。非常に非科学的だわ」
「な、何だと!? オレたちの伝統の技をバカにする気か!」
「バカにしてないよ。だから、これを作ってあげたんだ」
エレンがキャリアの倉庫から、120,000 rpmの超高速加工でその場で爆速DIYした『全自動・魔導圧力熱量レギュレーター(送風・排熱インフラ)』をドンと設置した。
アリスがレギュレーターのコントロールパネルに、熱力学的な理想温度管理ソフトをインストールする。
「これを火床にセットすれば、熱エネルギーの対流を分子レベルで均一にして、温度を『1425.5℃』に、24時間1ミリの狂いもなく完全固定できるわ。ついでに、周囲に放出される無駄な廃熱をすべて吸収して、この集落全体を『年中快適な24℃』に保つ全自動エコ暖房システムも構築しておいたわよ」
「そんなバカなことが……」
族長が半信半疑でレギュレーターを起動した。
次の瞬間、ゴオォォォ、と火床の炎が、見たこともないほど美しく安定した純青色へと変化した。同時に、いつもドワーフたちを苦しめていた周囲のムッとするような熱気が一瞬にして吸い込まれ、集落の作業場が、まるで高級リゾートホテルのロビーのような、最高に爽やかで涼しい空間へと変貌したのだ。
「お……おおお……! つるはしが、握りやすい! 汗が目に入らない!」
「炎の温度が完全に一定だ! これなら、伝説の聖剣が毎日100本は作れるぞ!!」
頑固なドワーフの職人たちが、その圧倒的なインフラの快適さに、一瞬にしてプライドを大爆発させて大喜びし始めた。
「素晴らしい! 素晴らしすぎるぞ、人間の双子よ! お前ら、最高のダラダラ(快適)の師匠だな!」
族長がアリスとエレンの手を激しく握りしめた。
「おい、野郎ども! この恩人たちに、オレたちの宝『超伝導マグマチタン』を、持てるだけキャリアに積み込め! あと、特製の火山トカゲの激辛焼き肉で大宴会だ!!」
「わーい、焼き肉だべさ!」キャリアのコタツから、すっかり安心した両親やアルドたちが飛び出してきた。
兵器としての誤解や戦いなど一切ない。灼熱の火口迷宮の最深部で、ドワーフたちとシルバーストーン特区の面々が入り乱れ、キンキンに冷えたビールと、火山の熱でジューシーに焼かれた激辛焼き肉を囲んで、大爆笑の大宴会が始まった。ドワーフたちは、双子が持ち込んだ「コタツ」の快適さに完全に脳を溶かされ、全員がコタツの中に頭まで突っ込んで「ここから動かん!」と号泣していた。
その日の深夜、キャリアの超巨大な倉庫に、これでもかと山盛りの「超伝導マグマチタン」を積み込んだ双子たちは、大満足で帰路についた。
特区へ戻るキャリアの車内、いつものようにコタツに潜り込んだアリスとエレンは、ホクホクの笑顔でお互いのグラスをぶつけ合った。
「大成功ね、エレン。これで特区のエネルギーインフラは永久に完全無料、完全無制限よ」
「うん、アリス。持ち帰ったマグマチタンがあれば、コタツBarにゴミを放り込むだけで一瞬で分子分解して熱量に変える『全自動ゴミ消滅エコ暖炉』も作れるね。家事の負担がまた一つゼロになるよ」
「さあ、初めての遠方大冒険も無事に、最高に快適に終わったことだし、私たちもコタツの最深部へ潜行しましょう」「そうだね、おやすみアリス」圧倒的な科学力で灼熱の地獄すら「極楽のリビング」に変え、現地の頑固な部族までをもコタツで骨抜きにした双子たちは、今夜もまた、新しいエネルギーの輝きに守られながら、最高にお気楽極楽な夢の中へと落ちていくのだった。




