第128話:漆黒の鍋に踊る黄金の肉
「……アリス、聞こえる? 私たちのコタツBar(第127話仕様)が、昨晩の幻の手羽先と無限のビールによって、かつてない至高の『ハフハフQOL(生活の質)』に到達したはずなのに、私の右手が、あの前世の冬の食卓に燦然と輝いた『甘辛いお醤油とザラメの香気、そしてアツアツの高級牛肉を溶き卵にくぐらせてお口に放り込む、あの至高のすき焼き』を求めて、無意識のうちにエアーでコテを滑らせる動作を始めているわ……!」
「聞こえるわエレン! 手羽先も最高だけど、このキンキンに冷えた『シルバーストーン・エール』と、ポカポカのコタツの重力を完成させるには、あの『外カリッ、中とろぉり』の高級お肉のすき焼きが絶対に不可欠よ! 幸い、コンビナート(第24話仕様)のハンスたちが、サシが綺麗に入った極上の高級牛肉(小間切れ)をキープしてくれているわ。物理化学と熱力学の力で、おうちコタツBarを『高級料亭すき焼き天国』にアップデートするわよ!」
シルバーストーンQOL巨大観光特区のリビング。
完璧に除湿されたドライコタツ(第65話仕様)の中で、お揃いのツルツルお肌(第76話仕様)を寄せ合いながら、銀髪の双子は、脳内の専用回線をかつてない「すき焼き熱」で同期させていた。
前世は三十代の理科教師、成瀬健一。その知識とチート能力を駆使し、お気軽極楽なコタツBarを最上の美食空間へ変えるため、双子の超絶同調が再び火を噴いた。
「いい、エレン? 今回の『すき焼き』の命は、お肉のタンパク質変性温度の厳密な管理と、ザラメの『カラメル化反応』よ! 鶏むね肉(第99話仕様)と同様に、牛肉の硬化を防ぐためには、アクチンの熱凝固温度66℃を絶対に超えさせてはダメ。お肉の温度T meatの制御設計式はこれよ!」
T meat < 65℃
「(鍋にザラメを敷き、その上にお肉をのせて焼くことで、ザラメが熱分解(カラメル化)して放つ香ばしいバニリン様香気を直接お肉に吸着させるの。そして、酒と極上醤油(第57話仕様)を回し入れ、お肉に完全に火が通る直前の 『T meat ≈ 60℃
』 のゴールデンタイムで、お肉を一度お皿にパージ(避難)しなさい! お肉の旨味が残ったタレで野菜をくたくたに煮込んだ後、最後にお肉を戻す『二段階熱制御プロセス』よ!)」
「最高よアリス! お肉のパージね! だったら、私の『超精密魔力クラフト・3次元切削(120,000 rpm)』で、白菜やネギを一瞬でざく切りして、絶妙な厚さの極上すき焼き鉄鍋を物質化してあげる!」
エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと精密な魔力放電が散る。
アリスが脳内CADで算出した「野菜の最適断面積」と「熱伝導率MAXの極厚鋳鉄風鍋」の3次元設計図に沿って、エレンは木材や真鍮、チタンを一瞬で加工。
さらに、お肉カット用の神速包丁さばき(4,000 rpm)で、白菜1/4株、水菜1/4株をざく切り、長ネギ1本を斜め切り、えのき1/2株の根元を切り落とし、豆腐1/2丁を正確に6等分にスライス。
しらたき(糸こんにゃく)80gは、カルシウム成分を抜いてお肉を硬化させないよう、魔力超高速湯沸かし(第5話仕様)で下茹でしてざく切りに整形した。
一人が「高分子有機化学&熱移動シミュレーター(ソフト)」、一人が「ナノ精度放電カッター&高精度魔力サーモスタット(ハード)」。
双子の超絶連携により、コタツのテーブルの上には、チカチカと怪しい青いインジケーター(第39話仕様)を明滅させ、お出汁(醤油・酒・みりんの極上割り下)がセットされたアツアツの『地熱すき焼き鉄鍋』がセットされた。
◇
「よし、エレン! プレート点火、ザラメ大さじ1を底に敷き詰めなさい! ザラメの熱分解が始まったら、高級牛肉200gをオンよ!」
「スイッチ、オォォォン!!」
ジュワァァァァァァァァァッ!!!!!
エレンが鉄鍋にザラメを敷き、その上にお肉を滑り込ませた瞬間、
醤油大さじ5、酒大さじ3を回し入れると、台所どころかリビング全体に、
「匂いを嗅いだだけで胃袋の理性が爆縮・融解する、暴力的なまでに香ばしいカラメル醤油とお肉の香り」が、爆風の如く立ち込めた。
(エレン、お肉の表面が薄ピンク色に染まり、温度 T meatが60℃に達したわ! 今よ、お肉を一度お皿にパージしなさい!)
「ハッ! セイ! ホイサー!」
エレンのチタン箸が残像となって動き、完全に火が通る前の超絶柔らかいお肉を、一瞬でお皿へと避難させた。
「次は二次素材(野菜・豆腐・しらたき)の投入よ! お肉の旨味がたっぷり溶け出たタレに、割下(すき焼きのたれ)を適量注ぎ込み、白菜が熱力学的にくたっと崩壊するまで弱火で煮込みなさい!」
エレンが白菜やネギ、豆腐、下茹でしたしらたきを投入し、ドームカバー(第85話仕様)を被せて蒸し焼きにする。
数分後、白菜がくたくたに煮上がったところで、お皿の「黄金のお肉」を鍋に戻し、少量のたれをかけてさっと火を通せば――。
お皿の上に美しく盛り付けられ、
醤油と焦がしザラメの濃厚な琥珀色のタレを纏って艶やかに輝き、
これでもかと熱々の湯気を上げる、至高の「シルバーストーン風・極上すき焼き」が完成した。
◇
「……ま、待って。何ですか、この、コタツの除湿空気を一瞬で高級料亭に変える、悪魔的なまでに甘美で香ばしい香りは……!」
コタツの中でスウェット姿でくつろいでいた監察官イゾルデ。
そして、隣でサウナハット(第51話仕様)を被ってビールジョッキを握りしめていたお庭番アルド、さらには父エドワードと母レイラ。
一同は、大皿の上に美しく盛られた、
溶き卵2個が黄色く泡立つ器を前に、目を血走らせて直接お肉を箸でつまみ上げた。
「もう我慢できませんわ! いただきます!」
イゾルデが、お行儀を忘れて熱々のお肉を溶き卵にくぐらせ、口のなかに放り込んだ。
ハフ……ジュワァァァッ!!!
とろぉぉぉぉぉん!!!!!
「――っっs、ふ、ふおおおおおおおおお!!!!」
イゾルデが、美味しさのあまり身悶えして叫んだ。
「なんて、なんて美味しいの! お口に入れた瞬間、完全に火が通る前に引き上げられたお肉が、まるで温かいハチミツミスト(第76話仕様)のようになめらかにとろけて消えていくわ! ザラメの香ばしい甘みと、極上醤油のコクが、お肉の繊維に完璧に染み渡っていて……! そこへこの冷たい卵液が絡み合うと、脳内QOLが完全大崩壊ですわーーーっ!!」
「こっちの豆腐(※6等分仕様)と、お肉の旨味を吸ったくたくたの白菜もヤバいべ、イゾルデ様! このしらたき、下茹でしてあるからお肉が全然硬くなってなくて、無限にいけるべ!」
アルドがドヤ顔で、お豆腐をハフハフと頬張る。
「ゴク、ゴク……プハァー!!! ヤバいべ! この甘辛いタレとビールの相性が良すぎて、魂が完全にバニラ(第110話仕様)にされるべぇぇ!!」
「なんですって……!? お肉の旨味が染みた白菜が、そんなに美味しいですって!?」
イゾルデの対抗心(負けず嫌い)に火がついた。
「わたくしは王都アストレア公爵家の令嬢! お肉の最後の1枚、そしてこの旨味を吸い尽くした豆腐、さらには明日の『お掃除ロボのバイトお休み権(第86話仕様)』を賭けて――『第一回シルバーストーン・コタツBar・すき焼きお肉争奪デスマッチ』を開催しますわよ!!」
イゾルデがビールジョッキを叩きつけ、宣言する。
「望むところだべ、イゾルデ様! 俺の『ストライカータイプ(神速箸さばき)』で、そのお肉とお休み権は全部俺がいただくべ!」
アルドがサウナハットを揺らしながら箸を構える。
「お父さんも混ぜておくれ! 娘たちのチャリの最高級パーツ(チタンネジ)を賭けて、このお父さんが無敗のプロデューサー(第17話仕様)としての、至高の箸さばき(ディフェンダータイプ)を見せてあげるよ!」
エドワードも、ウイスキーのロック(第110話仕様)を握りしめて参戦。
「私のターン、お肉をロックオン! からの、卵液ダイブ!」
「いや、そこは白菜の下に隠れたお肉をすくい上げるのがマニアだべ!」
「ぎゃあああ! わたくしが狙っていたお豆腐が、アルドの箸に掠め取られてしまいましたわぁぁ!!」
深夜のシルバーストーン特区の屋敷から、夜な夜な響き渡る、大爆笑とビールジョッキをカランと合わせる楽しげな大歓声。
そこには、美味しいお酒と極上のすき焼き、そして「誰が一番お肉を多く、きれいに食べられたか」を競い合う、異世界で最もお気楽で温かい「おうちコタツBar」の光景が広がっていた。
「「ふふふふ……」」
コタツの特等席で、お互いのさらさらツヤツヤの髪(第40話仕様)を優しく撫で合いながら、ハチミツレモネードを片手にその様子を眺める小さな双子。
「計画通り、極上お肉とコタツゲームで、今夜もみんなを完璧にコタツの底(だらだら仲間)に引きずり込めたわね、アリス」
「ええ、エレン。ザラメのカラメル化とお肉の熱変性温度ハックは完璧ね。明日からお掃除ロボのメンテナンス(第86話)も、みんなもっと楽しそうにバイトをこなしてくれるわ。科学と、私たちの趣味の完全勝利ね」
窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと走る木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに庭の雪を掃き清めながら、コタツから漏れ出る香ばしいお醤油の匂いと笑い声を、優しく、そして最高にお気楽に、世界中に広げていくのだった。




