第127話:幻の手羽先と無限のビール
「……アリス、聞こえる? 私たちのコタツBar(第126話仕様)が、昨晩の自家製ベーコンとスモークナッツによって、かつてない至高のアルコール楽園へと進化したはずなのに、私の右手が、あの前世の名古屋の夜に貪り食った『スパイシーで塩気がバチバチに効いて、お口の中で骨がスッと抜ける、あの幻の鶏手羽先』を求めて、無意識のうちにエアーで手羽をひねる動作を始めているわ……!」
「聞こえるわエレン! 燻製おつまみも最高だけど、このキンキンに冷えた『シルバーストーン・エール(第18話仕様)』の苦味と炭酸を、限界突破のQOL(生活の質)へとマリアージュ(融合)させるには、あの外はパリッパリ、中はジュワッとジューシーで、コショウの辛さが脳髄を直接突き抜ける『世界の山ちゃん風・手羽先唐揚げ』が絶対に不可欠よ! 異世界の鳥(コケコッコ風魔獣)の引き締まった極上の手羽中肉を、物理化学の力で完全再現するわよ!」
シルバーストーンQOL巨大観光特区のリビング。
完璧に除湿されたドライコタツ(第65話仕様)の中で、お揃いのツルツルお肌(第76話仕様)を寄せ合いながら、銀髪の双子は、脳内の専用回線をかつてない「手羽先熱」で同期させていた。
前世は三十代の理科教師、成瀬健一。その知識とチート能力を駆使し、お気軽極楽な「おうちBar」を究極の居酒屋へとアップデートするため、双子の超絶同調が再び火を噴いた。
「いい、エレン? 今回の『山ちゃん風手羽先』の命は、手羽中を縦に真っ二つに割った『半割』20本を使うことよ! 骨離れを極限まで良くし、お口の中で『スッ』とお肉が抜ける構造にするの。さらに、衣は薄力粉(タレ絡み重視)と片栗粉(パリパリ感重視)を『1:1』の黄金比でブレンドする『ハイブリッド被膜理論』よ! 薄力粉のグルテン網目構造と、片栗粉のデンプン(アミロペクチン)の熱結晶化を完全に融合させ、タレを100%吸着させつつ極薄のサクサク鎧を纏わせるの。そのクランチ効率 $\eta_{\text{crunch}}$ の設計式はこれよ!」
ηcrunch = m starch/m gluten
「最高よアリス! 1:1のハイブリッド粉ね! だったら、私の『超精密魔力クラフト・3次元切削(120,000 rpm)』で、手羽中をミリ単位の高速スプリット加工して、あじしおを完璧にまぶしてあげるわ!」
エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと精密な魔力放電が散る。
アリスが脳内CADで算出した「骨の並行切断ライン」に沿って、エレンは手羽中をシュバババッ!と一瞬で20本の半割に整形。
さらに、ビニール袋(第29話の高分子シート製)に手羽中と「あじしお」を適量入れ、薄力粉と片栗粉を大さじ1ずつ(1:1)投入し、
「ハッ! セイ! ホイサー!」
と、袋の中で毎分12,000回の超高速魔力エアー・シェイクを執行。
ダマを一切作らず、お肉の表面に極薄の粉の衣を均一にコーティングしていった。
「次は漬けだれの熱化学調合よ! 醤油大さじ3、みりん大さじ2、酒大さじ1、砂糖大さじ1と半分、そしてすりおろしたにんにく2分の1かけを小鍋に投入しなさい! 摂氏100℃の定温で軽く沸騰させて水分を相転移(蒸発)させ、アミノ酸と糖の縮合反応(メイラード反応)を適度に進行させて火を止めるのよ!」
「了解アリス! たれを軽く煮詰めて濃縮完了!」
エレンが魔力熱で一瞬でタレを煮詰め、甘辛い香ばしいアロマが台所に立ち込める。
「仕上げは『浅層フライド製法』よ! フライパンにサラダ油を高さわずか『1センチ』だけ注ぎ込み、熱容量 C = mc をハックしながら、中火で手羽中を入れて正確に『5分(5:00)』揚げなさい! 高温の熱伝導により、薄い衣の水分を一瞬で弾き飛ばすのよ!」
q = -k ΔT/d
(ここで油の深さd = 1cmに対する熱流束をq、油の熱伝導率をk、温度差をΔTとするわ! わずか1センチの油厚dだからこそ、熱伝達が急激かつダイレクトに行われ、お肉の内部に旨味の肉汁を閉じ込めたまま、表面をクランチ化できるのよ!)
「お任せあれ! 砂漠ヨット(第53話)やカヤック(第59話)の流体ハックに比べたら、1センチの油温制御なんてお庭のパズルだべ!」
エレンが正確に5分間、手羽中をひっくり返しながらからりと揚げ、
狐色に染まった手羽中をキッチンペーパー(第10話製)の上に取り出して余剰な油を物理的にパージ(除去)。
そのまま、まだ熱い手羽中を小鍋の特製だれにぶち込み、
「超高速からくり攪拌(第40話仕様)」で、甘辛い醤油だれを衣の隙間に100%均一に絡め取らせていった。
お皿に美しく盛り付け、仕上げに白すりごま大さじ1を振りかけ、そして――。
「アリス、仕上げのコショウよ! 粗挽き黒コショウを使うべき?」
「いいえ、エレン! そこがあえての『B級グルメ感』の演出よ! 洗練された粗挽きでは、あの脳髄を直接ハックするジャンクな背徳感は得られないわ。あえて、揮発性を抑えた極小粉末の『テーブルこしょう(粉コショウ)』を、両面にこれでもかと雪のようにバチバチにまぶすのよ! これぞ、世界の山ちゃん風・幻の味の完成よ!」
「オッケー! 粉コショウ、両面にトリガーオン!!」
◇
「……できたわ。これぞ、異世界に召喚された名古屋のソウルフード、『シルバーストーン風・幻のコショウ手羽中ハーフ』よ!」
大皿の上にうず高く積まれた、醤油ダレをたっぷり纏って艶やかに褐色に輝き、
これでもかと「粉コショウ」と「すりごま」が美しくまぶされた、アツアツの手羽中唐揚げ。
その瞬間、ニンニク醤油の香ばしさと、何よりテーブルこしょうの、
「匂いを嗅いだだけで胃袋の理性が爆縮する、暴力的にスパイシーな香り」がリビング全体へと充満した。
「ま、待って。何ですか、この、コタツの除湿空気を一瞬で居酒屋に変える、悪魔的に芳醇で、お腹の虫が狂暴化するような香りは……!」
コタツの中でスウェット姿でくつろいでいた監察官イゾルデ。
そして、隣でサウナハット(第51話仕様)を被ってビールジョッキを握りしめていたお庭番アルド、さらには父エドワードと母レイラ。
一同は、大皿の上に美しく盛られた「黄金に輝く手羽中」を見て、目を血走らせて直接指先でつまみ上げた。
「もう我慢できませんわ! いただきます!」
イゾルデが、お行儀を忘れて手羽中を両手で持ち、口のなかに放り込んだ。
パリッ……ジュワァァァッ!!!
ツーーーーーーン!!!!!
「――っっっっっっっふ、ふおおおおおおおおお!!!!」
イゾルデが、美味しさのあまり身悶えして叫んだ。
「なんて、なんて美味しいの! 手で持ってかじりついた瞬間、1:1で混ぜ合わせた薄力粉と片栗粉の極薄の衣が『サクッ』と信じられないほど軽快な音を立てて崩壊し、中からジューシーな肉汁が溢れ出すわ! 岩塩ではなくあえて使われた『あじしお』のまろやかな塩気と、このテーブルこしょうのビリビリとした強烈なジャンク刺激! そこへこのキンキンに冷えた黒エール(第110話仕様)を流し込むと、脳内QOLが完全大崩壊ですわーーーっ!!」
「こっちの食べ方も最高だべ、イゾルデ様! この手羽中、半分に割ってある(半割)から、骨離れが良すぎてスナック感覚で無限にいけるべ!」
アルドがドヤ顔で、手羽中の骨の部分を両手で持ち、
「お肉の部分を口に咥えて……スッ」と引っ張った。
すると、骨が綺麗に1本、お口から「スッ」と抜け落ち、口の中には完璧に骨を外された柔らかいお肉だけが残された。
「ゴク、ゴク……プハァー!!! ヤバいべ! 骨を外すストレスがゼロだから、無限に食べ続けられるべぇぇ!!」
「なんですって……!? 骨が、お肉からスッと抜けるですって!?」
イゾルデの対抗心(負けず嫌い)に火がついた。
「わたくしは王都アストレア公爵家の令嬢! 手羽中を最もエレガントに、かつ骨を完璧にディフェンス(外す)して美しく食べる技術において、泥棒隠密に負けるわけにはいませんわ! さあ、今夜は、この最後の一本の手羽中、そして明日の『お掃除ロボのバイトお休み権(第86話仕様)』を賭けて――『第一回シルバーストーン・コタツBar・手羽中きれいに食べ方選手権』を開催しますわよ!!」
イゾルデがビールジョッキを叩きつけ、宣言する。
「望むところだべ、イゾルデ様! 俺の『ストライカータイプ(豪快にしゃぶり尽くす)』の食べ方で、そのお休み権は全部俺がいただくべ!」
アルドがサウナハットを揺らしながら手羽先を握りしめる。
「お父さんも混ぜておくれ! 娘たちのチャリの最高級パーツ(チタンネジ)を賭けて、このお父さんが無敗のプロデューサー(第17話仕様)としての、至高の骨抜き技術を見せてあげるよ!」
エドワードも、ウイスキーのロック(第110話仕様)を握りしめて参戦。
「私のターン、ひねり分断! からの、一口骨抜き!」
「いや、そこは皮のパリパリ感を堪能してから軟骨をしゃぶるのがマニアだべ!」
「ぎゃあああ! わたくしの手羽中の骨が、途中で折れてしまいましたわぁぁ!!」
深夜のシルバーストーン特区の屋敷から、夜な夜な響き渡る、大爆笑とビールジョッキをカランと合わせる楽しげな大歓声。
そこには、美味しいお酒と極上の手羽中、そして「誰が一番きれいに食べられたか」を競い合う、異世界で最もお気楽で温かい「おうちコタツBar」の光景が広がっていた。
「「ふふふふ……」」
コタツの特等席で、お互いのさらさらツヤツヤの髪(第40話仕様)を優しく撫で合いながら、ハチミツレモネードを片手にその様子を眺める小さな双子。
「計画通り、ジャンクおつまみと食べ方ゲームで、今夜もみんなを完璧にコタツの底(だらだら仲間)に引きずり込めたわね、アリス」
「ええ、エレン。あじしおとテーブルこしょうによるB級グルメハックは完璧ね。明日からお掃除ロボのメンテナンス(第86話)も、みんなもっと楽しそうにバイトをこなしてくれるわ。科学と、私たちの趣味の完全勝利ね」
窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと走る木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに庭の雪を掃き清めながら、コタツから漏れ出る香ばしいコショウの匂いと笑い声を、優しく、そして最高にお気楽に、世界中に広げていくのだった。




