第118話:虚空を切り裂く一筋の熱線
「……アリス、聞こえる? 私たちのQOL(生活の質)メーター(お祭り部門)が、この『シルバーストーン・ランド』のグランド・オープニングセレモニー当日の朝を迎えた今、かつてないお祭り騒ぎのパルスを全身に受信して、大臀筋が歓喜のステップを刻み始めているわ……!」
「聞こえるわエレン! だけどね、テーマパークの開園式といえばお馴染みの『リボンカット』。これを、ただの真鍮のハサミでチョキチョキ切るだなんて、そんな平凡で地味な演出、合理性とロマンを愛する元理科教師(の脳)として絶対に容認できないわ! ギルバート商会や王都の役人、そして何万人もの領民が見守る前で、一瞬で、かつド派手にリボンをカットする全自動熱線レーザーをDIYするわよ!」
シルバーストーン巨大観光特区の朝。
完璧に除湿されたドライコタツ(第65話仕様・冷風送風モード)でハチミツレモネード(第26話)を啜りながら、銀髪の双子は、脳内の専用回線を新たな「リボンカット・レーザー熱」に向けて完全同期させていた。
前世は三十代の理科教師、成瀬健一。その知識と異世界チート能力を駆使し、お気楽極楽な「テーマパーク」を完成させるため、双子の超絶同調が再び火を噴いた。
「いい? エレン。光を一筋の極薄ビームに収束させ、標的を一瞬で熱分解するにはね、幾何光学における放物面反射による光の直進・収束制御と、エネルギー強度Iの計算が絶対条件よ! 焦点における光のエネルギー強度Iの公式はこれよ!」
I = P/πw²
「(ここで魔石の光出力をP、焦点スポット径をwとするわ! 第45話で磨いた非球面水晶レンズと高輝度魔石、さらに太陽光集光タワー(第46話)の反射技術を合体させ、焦点スポット径wを極限まで小さくすることで、光強度Iを一気に限界突破させるの。スリットから水平に放出された極薄の赤外線レーザーが、ゲートに張られた極太の赤いリボンを、一分子の焦げ跡すら残さず、一瞬でスパッ!と無音で熱分解・蒸発させるのよ! エレン、このスリットハウジングの3次元設計図に沿って、自動起動トリガーとセットでチタンプレートを削り出して!)」
「最高よアリス! 物理のハサミで一瞬でリボンを切るのね! だったら、私の『超精密魔力クラフト・3次元切削モード(120,000 rpm)』で、チタン製のハウジングと自動射出機構を一瞬で組み上げてあげるわ!」
エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと精密な魔力放電が散る。
アリスが脳内CADで算出した「ガウシアンビームの光路設計」に完全に同調し、エレンはチタンプレートを一瞬で極薄のスリットを持つ四角い箱へと削り出し、高輝度魔石と非球面水晶レンズを完璧な光軸でアセンブルしていった。
一人が「幾何光学・レーザー収束シミュレーター(ソフト)」、一人が「ナノ精度放電カッター&高気密光学パーツ組み上げ(ハード)」。
双子の超絶連携により、わずか数時間で、作業台の上には、ゲートの柱の影に隠れる、青いLEDシグナルを明滅させる『全自動・熱線リボンカッター・デスレイ』が完成した。
◇
グランドオープニングセレモニー本番。
シルバーストーン・ランドのメインゲート前には、王都の大商人ギルバート、王都から派遣された査察使たち、そして特区の専属お庭番アルド、監察官イゾルデ。さらに、イゾルデのパパである「王都重装騎士団長」をはじめとする最高首脳陣が、ずらりと並んで赤い極太のリボンの前に整列していた。
「男爵、いよいよ開園ですね。……しかし、ハサミを持たずにどうやってリボンを切るのですか?」
ギルバートが不思議そうに、父エドワードに尋ねる。
「フフフ、ギルバート殿。我が娘たちの『QOL』を甘く見てもらっては困ります。……アリス、エレン、いつでもいいよ!」
サウナハット(第51話仕様)を被った父様が、誇らしげに手招きする。
ゲートの脇、小さなコントロール台の前に立った、ドレス姿の双子。
「エレン、魔石レーザー、チャージ完了。開園トリガー、オン!」
「スイッチ、オォォォン!!!」
ポチッ。
エレンが真鍮のボタンを軽く押し込んだ、その瞬間。
世界の理を完全に無視した「静寂の奇跡」が爆発した。
チカッ……!
スパッ。
一切の魔力爆発音も、煙も、焦げる匂いすらもなく。
左右のスリットから、目にも留まらない一瞬の「極薄の赤い光線」がチカッと瞬いたかと思えば、
目の前に張られていた、大人が両手で引っ張っても千切れない極太の赤いリボンが、
あたかも最初からそこには何も存在しなかったかのように、一分子の焦げ跡すら残さず、一瞬で「スパッ!」と無音で焼き切られ、左右にハラリと落ちていった。
「「「お、おおおおおおおおっっっ!!!???」」」
会場が静まり返る。
イゾルデが目を丸くし、騎士団長パパが口をあんぐりと開けた。
次の瞬間、会場の領民たちから割れんばかりの拍手と歓声が上がった。
「す、すげえ……! ハサミも使ってないのに、リボンが一瞬で消えた!」
「さすが双子様! これぞシルバーストーンの技術力!」
◇
その頃。
ゲートの脇、茂みに隠れていたのは、王都の最高査察使(エリート官僚)たちだった。
彼らは、今の一瞬の光景を目撃し、そのあまりの「オーバーテクノロジー」に開いた口が塞がらないようだった。
「お、おい……今の見たか……? リボンの切断面が滑らかすぎるだろう……! まるで分子レベルで分離されているぞ!」
「あ、あれが噂の……! 双子が開発したという、シルバーストーンの最先端科学技術か……! 確かに、ただのハサミよりも100倍は効率的だが……それにしても、あの光線は一体……!」
察使のリーダーが、顔面を土気色にし、その場で崩れ落ちたかと思いきや、次の瞬間にはノートを取り出し、メモを取り始めた。
「間違いなく、王都の結界強化にも使える技術だ……! あの双子、ただリボンをカットするふりをして、実は王都の全防衛技術を根底から覆すための『実演会』を行っているのだ……!!!」
彼らは、ただの「おしゃれなレーザーリボンカット」を、王都の防衛力アップのための「最先端技術のデモンストレーション」と誤解して、
「お、お赦しください、技術の魔王様……! 我が王都に……どうかその技術を、その技術を伝授してくださいぃぃぃ!!!」
と、その場で駆け寄り、持っていた手土産の高級お菓子を差し出して、必死に弟子入りを願い始めた。
そんな大誤解など知らず、
双子は高らかに手を振り、ゲートをくぐり抜けて特区の中へと先導していく。
その後ろを、ホクホク顔の領民、そしてアルドとイゾルデ、さらには(すっかり洗脳された)査察使たちも、コタツBarで楽しむためにお気楽についていくのだった。
「アリス、成功ね。この熱線カット、みんなの脳がとろけてるわ」
「ええ、エレン。幾何光学とエネルギー密度の完全勝利よ。これで私たちのテーマパーク・オープニングQOLは、年中無休で完璧な『夢の帝国』として維持されるわね」
窓の外では、月明かり(※午前中ですが)の下、ガシャガシャと走る木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに庭に落ちた焼き切られたリボンの残骸を掃き清めていた。
領内には、目に見えない「極限の幾何光学・レーザー物理技術」と、隣領の貴族たちを「王都の結界を焼き切る恐るべき最新技術」と、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。




