第115話:らせんの魔槍
「……アリス、聞こえる? 私たちのQOL(生活の質)メーター(お祭り部門)が、お化け屋敷(第114話仕様)での極上のゾクゾク体験を終えた今、心地よい虚脱感のなかで、失われたエネルギー(ブドウ糖)を補給しろと、大脳新皮質の奥底から猛烈なアラートを鳴り響かせているわ……!」
「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の前頭葉も、テーマパーク(シルバーストーン・ランド)内を歩き回る王都の令嬢たちの片手をお洒落に塞ぎ、かつ、外はサクサクサク、中はモチモチの甘いお洒落な食べ歩きスイーツ『らせん状超ロングチュロス・スパイラル・レジェンド』を今すぐ胃壁に流し込めと、かつてないパルスを送信し続けているわ。ただのパン(第79話仕様)じゃ、歩きながら食べる機動性(QOL)が足りないのよ!」
シルバーストーンQOL巨大観光特区の台所。
完璧に除湿されたドライコタツ(第65話仕様)から這い出て、冷たいハチミツコーラ(第42話仕様)を啜っていた銀髪の双子は、脳内の専用回線を新たな「食べ歩きスイーツ熱」で同期させていた。
前世は三十代の理科教師、成瀬健一。
その知識とチート能力を駆使し、お気軽極楽なテーマパークを完成させるため、双子の超絶同調が再び火を噴いた。
「いい、エレン? 全長1メートルもの長さがあるのに、自重でしならずにピンと立つ極限のチュロスを作るにはね、高分子化学における『デンプンのアルファ化(糊化)』と、材料工学における『螺旋構造によるねじり剛性の向上』が絶対条件よ!」
アリス(理論・設計・分子計算担当)が脳内の黒板に、材料力学における中空ねじりモーメントと断面二次極モーメントの数理公式を書き殴る。
Ip = π(D⁴ - d⁴)/32
「(外径をD、内径をdとした場合、生地を完全な直線ではなく、美しい中空の螺旋構造に成形することで、材料の断面二次極モーメントIpを最大化。これにより、自重によるたわみ(曲げモーメント)を物理的に相殺し、1メートルあっても先端が1ミリも垂れ下がらない驚異のねじり剛性を実現するのよ! エレン、第28・66話仕様を応用した『120,000 rpm螺旋カッター』で、生地を途切れることなく1メートルの美しい螺旋にスライス・成形しなさい!)」
「最高よアリス! 物理の形状で強度を稼ぐのね! だったら、私の『超精密魔力クラフト・3次元切削(120,000 rpm)』、出力最大でいくよ!」
エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと精密な魔力放電が散る。
アリスが脳内CADで算出した「螺旋ピッチの等高線図」に沿って、エレンは小麦粉のデンプンをあらかじめ加熱してアルファ化させた、モチモチの粘土状生地を、真鍮製の極小押し出しノズルのスリットから噴出させ、驚異的な指先制御で分子溶着しながら1メートルの螺旋状の「黄金の槍」へと成形していった。
「仕上げは定温熱対流ブースター(第64話仕様)による瞬間相転移(結晶化)よ!」
アリスの熱力学シミュレーションが、油温の熱容量 C = mc をリアルタイム監視する。
「お肉を揚げたときと同様に、摂氏180℃の高温油に投入した瞬間、生地表面の水分を瞬時に相転移(蒸発)させてサクサクに硬化・結晶化させるの。これで自重でしならない、極限の軽さと硬度を両立した『サクサクの結晶鎧』が完成するわ!」
「オッケー! 太陽光温水タワー(第46話)の熱風をバイパスさせて、油の温度を1ミリ秒単位で完全にキープするよ!」
一人が「高分子化学&材料力学の応力解析」、一人が「ナノ精度放電カッター&高温油熱対流制御」。
双子の超絶同調により、台所のテーブルの上には、全長1メートル、黄金に輝く、まるで細身のレイピア(細剣)のように美しく、そしてピンと張り詰めて一本もしならない、異世界初の極上スイーツ『スパイラル・レジェンド』が爆誕した。
◇
「よし、エレン! 強度テストよ。サドルに跨った(第84話仕様)状態で、チュロスを天高く掲げなさい!」
「ラジャー、お姉ちゃん! いざ、スプリント姿勢でホールド!」
庭先で、お揃いの特製サイクルジャージ(第27話仕様)を身にまとったエレンが、
全長1メートルの黄金に輝く「螺旋の棒」を、まるで騎士の突撃槍のように右手に構えた。
時速80キロの自転車スプリントを再現するように上体を低く構えても、
その螺旋の棒は、空気抵抗を綺麗に受け流し、先端が1ミリもしなることなく、天に向けてピンと鋭く屹立している。
「アリス、これ凄い! 1メートルもあるのに、先端が微塵もブレないわ!」
「完璧よエレン! 螺旋構造の断面二次極モーメントの完全勝利ね! これをお口の中に流し込んで、ハチミツの濃厚な甘みで、王都の令嬢たちの理性を物理的に貫く(おもてなしする)のよ!」
「ふふふふ……」と、お互いのツルツルキューティクル(第40話)の髪を揺らしながら、
にやにやと邪悪な笑みを浮かべ、長さ1メートルの黄金の棒をおちょぼ口を開けて「サクサクサクッ!」と貪り食っている双子の姿。
◇
アリスが、コタツの中で完全に溶けていた(第112話)堅物監察官イゾルデの口の中に、焼き立てアツアツ、黄金に輝くチュロスを強引に突っ込んだ。
イゾルデが、チュロスを噛みしめた。その瞬間。
――サクッ、ポリッ……ジュワァァァッ!!!
「QOL完全敗北(コタツの泥)ですぅぅぅぅぅん!!!??」
口に入れた瞬間、エレンの瞬間相転移設計によって極限の硬度に結晶化した表面が「サクサクサクッ!」と信じられないほど軽快な心地よい音を立てて弾け、
中から、アルファ化(糊化)されたもちもちのデンプン生地と、
絡められたカカオハチミツの濃厚な甘みが、お口いっぱいに広がって大脳新皮質を完全ハッキングしていった。
「な、何これぇぇぇ! 1メートルもあるのに一本もしならない強度の衣が、お口に入れた瞬間にサクサクと優しく崩壊して、中から極上のモチモチ生地とハチミツの甘みが溢れ出してくるわ! そして、この淹れたての樹海コーヒー(第78話仕様)のキリッとした苦味が、この濃厚な甘みを完璧に引き締めて、エンドルフィンがダム決壊するぅぅぅ!!」
「旦那、この黄金の槍、サクサクしてて最高にビールのつまみにもマッチしてやすぜ! 100本おかわりだべ!」
アルドもサウナハットを被ったまま、涙を流してチュロスをかじり、ビールを煽ってコタツの底へ沈んでいった。
「「ふふふふ……」」
お互いのツルツルキューティクル(第40話仕様)の髪を揺らしながら、大はしゃぎでハイタッチを交わす小さな双子。
グランドオープニングセレモニーのフィナーレ。
特区のメインストリートは、これまでにない熱気に包まれていた。
特設ステージの前に並んだ王都の令嬢たちや、コタツから駆けつけたイゾルデ、アルド、そしてお父様エドワードと母レイラ。
「さあ! 第1回『シルバーストーン・スパイラル・レジェンド』の開幕よ! この1メートルのチュロスを、誰が一番エレガントに、かつ折らずに最後まで食べきれるか! 優勝者には、明日の『お掃除ロボのメンテナンスお休み権(第86話仕様)』と、豪華ハチミツセットを授与するわ!」
アリスがマイクを握りしめると、広場からは「おおおっ!!」「双子様万歳!!」と割れんばかりの歓声が上がった。
コタツBarから這い出てきたイゾルデも、ノリノリでチュロスを手に取る。
「ふふ、わたくしの騎士のプライドにかけて、この1メートルの螺旋の棒……わたくしのエレガントな食べ方で最後まで貫いて差し上げますわ!」
「ヘヘッ、イゾルデ様、このチュロスのサクサク感、めちゃくちゃ香ばしいっすよ! さあ、勝負だべ!!」
「「「ーーーっっっっっっ!!!」」」
合図と共に、全員が一斉に1メートルの黄金の棒を口へ放り込む。
「サクッ……サクサクッ……!」
あまりの香ばしさと、中からあふれ出すモチモチの生地の甘みに、イゾルデやアルド、そして集まった令嬢たちも、大笑いしながら空へと飛び出していった(※ただのテンションです)。
終わった後の広場では、
「おい、このチュロス、シナモンシュガーが脳を直接ハッキングしてくるぞ……!」
「あははは、もう一本! もう一本おかわり!」
と、大興奮で絶叫する面々。
そのまま彼らは、特設のコタツBarへと雪崩れ込み、
「第一回・スパイラル・レジェンド選手権」の表彰式が始まった。
「勝者は、最後まで折らずにエレガントに食べきったイゾルデ! さあ、特製ハチミツセットと、お掃除ロボお休み権を授与するわ!」
「ふふ、わたくしの騎士のプライドが認められましたわね。最高にお気楽で美味しいですわ!」
アツアツのチュロスを頬張り、ハチミツレモネードを喉に流し込み、みんなで大笑いしながらゲーム大会に熱狂する夜。
「アリス、成功ね。このスパイラル・レジェンド、みんな脳がとろけてるわ」
「ええ、エレン。材料力学をハックして、QOLを極限までブーストした甲斐があったわね」
窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと走る木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに庭に落ちたチュロスの粉屑を掃き清めていた。
領内には、目に見えない「極限の材料工学・ねじり剛性理論」と、隣領の貴族たちが「王都を粉砕する一突き暗殺兵器」と勘違いしそうになるほどの圧倒的な迫力(※ただの美味しいおやつです)の噂が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。




