第114話:魂を収穫する暗黒の迷宮
「……アリス、聞こえる? 私たちのQOL(生活の質)メーター(娯楽部門)が、おでん(第72話仕様)やジェットコースター(第113話仕様)による極限のアドレナリン放出を終えた今、心地よい虚脱感のなかで、背筋がゾクゾクとするような『ひんやりとした恐怖のスリル』を求めて、私の右脳の奥で冷たい警報を鳴らし始めているわ……」
「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の大脳新皮質も、第39話のカラーシネマや第95話のVRドローンで映像技術が神の領域に達した今、それを応用した『お家ホラーアミューズメント(お化け屋敷)』の構築に、かつてないパルスを送信し続けているわ。夏の終わり、あるいは実りの秋の夜長。大人も子供もお気楽に肝を冷やせる、あのディズニー風の立体ゴーストが躍る『3Dお化け屋敷・ダーク・スパイダー・ハウス』をDIYするわよ!」
シルバーストーンQOL巨大観光特区のリビング。
完璧に除湿されたドライコタツ(第65話仕様)の中でハチミツレモネード(第26話仕様)を啜り、お肌ツルツル(第76話仕様)の姿で寛いでいた銀髪の双子は、脳内の専用回線をかつてない「ホラー熱」で同期させていた。
前世は三十代の理科教師、成瀬健一。
ただ脅かすだけでは、理系DIYヤーの名が廃る。
目指すは、応用光学と音響学の理をこれでもかと無駄遣いし、脳科学的に人間に「本物の恐怖」を錯覚させる極限の五感ハックだ。
「いい、エレン? 暗闇の中で半透明の幽霊を立体的に蠢かせるには、光の反射と透過率をハックする『ペッパーズ・ゴースト(立体光学幻影技術)』よ! ガラスやハーフミラーの反射率をR、透過率をTとした場合、エネルギー保存則に基づく関係式はこれよ!」
R + T = 1.0
「(斜め45度に配置した極薄ガラス板(クラッド層)の裏に、からくり光スリット(第70話仕様)を配置し、視点ごとの偏光角を制御して投影するの。これで、空中に本当に幽霊が浮かんでいるように脳をバグらせるわ! さらに、音響学の真髄――人間の可聴領域の下限に近い超低周波音波『19Hz』の音圧を、電磁石スピーカー(第38話仕様)からコテージの壁を共振させて放射しなさい。その音圧レベル(デシベル)の公式はこうよ!)」
Lp = 20log₁₀( p/p₀)
「(ここで音圧をp、基準音圧をp₀ ≈ 20μPa とするわ。19Hzの不可聴音波はね、人体の眼球の固有振動数(共振周波数)と完全に一致(共鳴)するのよ! これを浴びた乗客は、眼球が物理的に微小振動することで、視界の周辺部に灰色のがたつき(幻覚)を幻視し、さらに自律神経が『見えない何かがいる!』と本能的な不安感・心拍数上昇を物理的に引き起こすわ。科学の完全なるマッチポンプ(自作自演)よ!)」
「最高よアリス! 物理の波形でお化けを脳内に直接召喚するのね! だったら、私の『超精密魔力クラフト・3次元切削モード(120,000 rpm)』で、1ナノメートルの歪みもない極薄ハーフミラーと、耳には聞こえない超低周波発振ウーファーを物質化してあげる!」
エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと精密な魔力放電が散る。
アリス(理論・設計・応用光学担当)が脳内CADで算出した「偏光板スリット」の3次元設計図に沿って、エレンは木材とチタンをコンマ数ナノメートル単位の精度で削り出し、不気味に青白く光るLED魔石の投影装置と、羊皮紙で作った巨大な「超低周波重低音ウーファー」を完璧に組み上げていく。
一人が「応用光学&人体の眼球共振シミュレーター(ソフト)」、一人が「ナノ精度放電カッター&高周波コイル巻き(ハード)」。
双子の超絶同調により、お庭の広場には、不気味に這い回るアイアンウッド製の暗黒迷宮コテージ『ダーク・スパイダー・ハウス』が爆誕した。
◇
さっそく、アリスが構築した「脳髄とろとろホラーシーケンス(試運転)」がスタートした。
「アルド、イゾルデ! 特区の『QOLデバッガー(テスター)』として、お化け屋敷のエントリーよ! サウナハット(第51話仕様)を被って、この不気味な扉を開けなさい!」
アリスがにやりと不敵に笑い、拡声器で叫ぶ。
「お、おい、アルド……。あの方々、今度はお庭の真ん中に不気味な漆黒の小屋(※ただのお化け屋敷です)を建てて、何を始めるつもりだ……?」
白銀の甲冑の代わりにスウェットを身にまとい、サウナハットを深く被った堅物監察官イゾルデが、恐怖で胃を激しく痙攣させながら囁いた。
「イゾルデ様、諦めてくだせえ。あのお嬢様方は、自分たちの『スリル(QOL)』のためなら、世界の光と音の理すら容赦なくねじ曲げるお方だ。大人しく手を繋いで入るのが一番安全でさぁ……」
サウナハットを揺らしながら、お気楽に扉を開けるアルド。イゾルデもガタガタと震えながら、隣にぴったりとへばりついて暗闇の中へと入っていった。
ドアがバタンと自動閉鎖され、完全なる暗黒が二人を包み込んだ。
アリスがコタツの中から、ポチッと起動レバーを倒す。
次の瞬間、お化け屋敷の内部で、世界の理を完全に無視した「不気味な怪奇現象」が爆発した。
ズズズズズ……。
キキキキキキキキィィィィィィィィン……!!!!!
「「――ひゃあああああっっっ!? な、何よこれぇぇぇ!!!」」
巨大な「超低周波ウーファー」が駆動し、人間には全く聞こえない19Hzの音波(疎密波)が室内に充満した。
その瞬間、イゾルデの眼球の固有振動数(約18 ~ 19Hz)が音波と完璧に共鳴。
「あ、頭が、頭が割れそうに不気味だわ! 三半規管が、私の視界の隅に、怪しい灰色の影がうごめいているのを感じる……! 誰もいないのに、身体が本能的な恐怖でガタガタと勝手に震え出すわ!」
さらにその瞬間、ペッパーズ・ゴーストのハーフミラーに、
青白い魔石LEDに照らされた、全高2メートルの「半透明の蜘蛛の姿をした幽霊」が、
空中をふわふわとワルツを踊るように蠢き、耳元で不気味に光を明滅させながら現れた。
「アリス! 凄い! イゾルデの心拍数が平時の250%を突破して、完全に恐怖のトランス状態に入ったよ!」
「完璧よエレン! 幾何光学と人体の眼球共振現象の完全勝利ね! これで彼女たちの脳内は、完全に私たちの仕掛けた恐怖に支配されたわ!」
お化け屋敷のモニター(※ただの監視用魔石です)を覗き見しながら、大はしゃぎで高笑いしている小さな双子。
その横の通路では、
「ふにゃああああああん!!! 聖騎士のプライドがぁぁぁ!! 魂が、私の魂が白い霧の幽霊に刈り取られていくわーーーっっっ!!!」と、イゾルデがアルドの背中にしがみついたまま、恐怖の表情で白目を剥いて叫んでいた。
◇
深夜。
お肌ツルツル(第76話仕様)の姿で、リビングのコタツ(除湿ドライモード)に潜り込み、ぬくぬくと暖まる双子。
「ぷはぁー、やっぱり冷気とお化け屋敷でひんやりした後の、この暖かいコタツで飲む冷たいコーラ(第42話)とアツアツのから揚げ(第67話)は、五臓六腑のQOLを極限突破させるわね、アリス」
「ええ、エレン。幾何光学のハーフミラーと、人体の眼球共振現象(19Hz)の完全勝利よ。これで私たちのテーマパークQOLは、年中無休で完璧な『脳みそとろとろ帝国』として維持されるわね。科学の完全勝利よ」
「「ふふふふ……」」
お互いのツルツルキューティクル(第40話)の髪を揺らしながら、大はしゃぎでハイタッチを交わす小さな双子。
窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと走る木製のお掃除ロボ(第36話)と、すっかり目隠しをしたアルドとイゾルデが、
「あの3Dゴースト、実にお洒落でQOLが高い……」
と、幸せそうな笑顔で、静かに庭に落ちた落ち葉を掃き清めていた。
新章を迎えたシルバーストーン巨大観光特区には、目に見えない「極限の応用光学・音響学技術」が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。




