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第106話:断崖を征く超質量の鉄獣

「……アリス、聞こえる? 私の大腿四頭筋と大臀筋が、山頂の源泉掛け流し露天風呂(第30話)やスキーリゾート(第69話)へ向かう観光客の急増に伴い、ビールの樽や『週刊シルバーストーン』の重たい最新刊、さらに特製炭酸ボンベ(第59話仕様)を山頂まで手動で運搬させられるという、筋肉のQOL(生活の質)に対する深刻な強制労働(カタボリック)の危機に、涙を流して激しい抗議のスクワットを連発しているわ……!」

「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の大脳新皮質も、せっかく開発した『極限水晶ベアリング(第48話仕様)』という摩擦抵抗をゼロにするオーパーツがありながら、ローープウェイ(第48話)の限られた積載量(ペイロード)のせいで、山頂コンビナートの物流が滞っている事実に、甚大なるタイムロスの警告を発しているわ。平地はリニア(第68話)、空中はお手軽ロープウェイ、そしてこの傾斜角35度の険しい絶壁を、一度に数十トンの大容量でスササッと等速運搬するインフラ――それこそ、仕事の原理を極限までハックした、異世界初の『超質量傾斜鉄道(インクライン)』の敷設よ!」


シルバーストーンQOL巨大観光特区のリビング。

不夜城ネオン(第105話)が怪しく赤く輝く窓の外を眺めながら、常夏ドライ除湿コタツ(第65話仕様)でキンキンに冷えたハチミツコーラ(第42話)を啜っていた銀髪の双子は、脳内の専用回線(テレパシー)をかつてない「土木工事熱」で同期させていた。


前世は三十代の理科教師、成瀬健一。

どれだけ領地が大きくなろうとも、重たい資材を運ぶのにハァハァと息を切らすなど、だらだらライフを愛する美少女双子としての矜持が許さない。


「いい、エレン。斜面を走る物体の力学をハックするわよ。傾斜角θ = 35°の急斜面において、重力加速度g、車両の質量をmとした場合、斜面から受ける垂直抗力N と、斜面平行方向の滑り落ちる力F downの公式はこうよ」


 N = mg cosθ


 F down = mg sinθ


「(普通の鉄道なら、車輪とレールの摩擦力μNが足りずにスリップして登れないわ。そこで、山頂の自動巻き取りドラムと、2台の巨大なチタン製の客車を、アイアンスパイダーの極太ワイヤーで繋ぐ『つるべ式(往復式)』を採用するのよ! 片方が下りる自重のモーメントを利用して、もう片方を引っ張り上げる。互いの自重を力学的に相殺(キャンセル)させれば、仕事の原理 W = F・s に基づき、わずか水車の数%の動力だけで、数十トンの重たいビール樽を無音で等速スライドさせて山頂へ届けられるわ!)」

「最高ねアリス! 大地の引力(重力)をお互いに喧嘩させて相殺するのね! だったら、私の『超精密魔力クラフト・一体延伸成形(120,000 rpm)』で、チタンとアイアンウッドの並行軌道を一瞬で絶壁に敷設してあげる!」


エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと凄まじい物理圧を伴う魔力放電が散る。

アリス(理論・設計・数理担当)が脳内CADで算出した「並行軌道の応力分散曲線」のAR設計図に沿って、エレンはガラクタ置き場から回収してきたチタンプレート(第28話仕様)を一瞬で強固なレールへと成形。

さらに、滑車の心臓部には、第45話仕様の「水晶ベアリング」を仕込んだ直径2メートルの巨大なチタン製プーリー(滑車)を組み込み、水車(第36話)の自動巻き取りドラムと連結した。


「アルド、イゾルデ!150名の目隠し部隊(第70話仕様)を総動員して、レールを山肌に叩き込みなさい!」

「了解でさぁ、アリス様! 皆、黒い目隠しをガチ巻きして、WEB回線のパルスに同期して一気にワイヤーを引くべ!」

「わ、わたくしも、このお揃いのスウェット(第81話仕様)の袖をまくり、仕事の原理のために全力で真鍮ボルトを締め上げ(アッセンブル)ますわ!」


今や完全に特区のインフラ作業員として適合したイゾルデとアルドの指揮の下、150名のバイトメンバーが一切の言葉を発さず、

「カチャ、カチャ、ガチャン!」

と、人間離れした超高速の連携で、チタンとウッドの軌道を傾斜35度の絶壁へと一瞬にして敷設していった。


夕暮れ時。

絶壁に架けられた2本の銀色に輝くチタン軌道。

そこに、ドアがからくり自動開閉する、重厚なチタンとアイアンウッドでできた巨大な箱(客車)『シルバー・インクライン』が静かにセットされた。


◇


「よし、エレン。インクライン、起動よ! ゼンマイクラッチ、オン!」

「スイッチ、オォォォン!!!」


ガチャン。


ドラムのロックが外された瞬間、世界の理を無視した「無音の超質量」が滑走を始めた。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。


「「――はやっ!! しかも揺れが本当に1ミリもないわ!」」


極限水晶ベアリングの摩擦減衰効果により、お互いの自重を相殺し合う2台の巨大客車は、

何のエンジン音も、魔力爆発音も、黒い煙すらも吐き出すことなく、

ただ水晶ベアリングがチタンレースの中で超高速回転する、鼓膜を直接揺さぶる不気味な超高周波の摩擦音「キキキキキキィィィィィン……」という金属音だけを静かに大気に響かせながら、

傾斜35度の絶壁を、時速60キロという等速スライドで無音で登り始めた。


車内のふかふかのシートに深々と腰掛け、窓から領地をのんきに見下ろしながらハチミツコーラを飲む双子。

「最高ねエレン。これでお風呂上がりの冷えた黒エール(第10話)を、1滴も泡立たせることなく山頂の露天風呂まで等速スライド運搬できるわ」

「ええ、アリス! 力学の完全勝利ね! 乗り心地最高だべ!」


◇


「……アリス、聞こえる? 私たちのQOL(生活の質)メーター(交通部門)が、昨日完成した『超低摩擦水晶ベアリング(第48話)』によって、山頂の露天風呂(第30話仕様)へ向かう『大容量インクライン(傾斜鉄道)』の敷設を終え、かつてないほどの快適な移動システムを構築したわ!」

「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の大脳新皮質も、せっかく開発したからくり技術(第36話)とチタンの超質量(第28話仕様)の合わせ技で、一度に数十トンの物資を運べるようになった事実に、QOLの極致(だらだらライフ)を感じて歓喜のパルスを送信しているわ。だが、機械の本当の安全性と快適性を保証するためには、適切な被験者による『アクティブ・デバッグ(動的耐久テスト)』が必要不可欠よ。ハンス、アルド、イゾルデ、そしてお父様にお母様、全員をゴンドラにデリバリー(招待)しなさい!」


シルバーストーンQOL巨大観光特区のリビング。

不夜城ネオン(第105話仕様)が怪しく明滅する窓の外を眺めながら、常夏ドライ除湿コタツ(第65話仕様)でキンキンに冷えたハチミツコーラ(第42話仕様)を啜っていた銀髪の双子は、脳内の専用回線(テレパシー)を等速でシンクロさせていた。


前世は三十代の理科教師、成瀬健一。

その知識をこれでもかと無駄遣いし、お気軽極楽に「動く展望和室」を完成させるため、双子の超絶同調(デュアル・コア)が敷設したのが、この傾斜35度の絶壁を滑るように登るインクラインである。


アリス(理論・設計・数理担当)が、2台の巨大なチタン製の客車がワイヤーを介して「互いの自重を相殺し合う」往復式の力学モーメントを脳内で完全演算。エレン(実技・精密加工・物理演算担当)が、120,000 rpmの超精密クラフトによって、直径2メートルの巨大な水晶ベアリング(第48話仕様)入りプーリー(滑車)を削り出し、水車(第36話)の動力ドラムと連結した、摩擦抵抗極限ゼロのソリッドな交通インフラだ。


その名も、展望和室『シルバー・スライド・トレイン』。

車内には温泉床暖房畳(第30話仕様)とコタツが敷かれ、アツアツの「おでん(第71話仕様)」と「すき焼き(第128話仕様)」、そしてキンキンに冷えた「スタウトビール(第10話仕様)」がバッチリ完備されている。


「お嬢様方、この展望和室、おでんの香りとヒノキの香りがマリアージュして最高にQOLが高いべ!」

サウナハット(第51話仕様)を小粋に被ったお庭番アルド。

「え、ええ……。乗車中の横揺れが1ミリもないわ。まるで、大地そのものが静かに後ろへ退いていくような錯覚(※ただの超低摩擦水晶ベアリングの効果です)に襲われますわ……!」

スウェット姿のイゾルデも、おちょこで熱燗(第109話仕様)をグイッと煽りながら、うっとりと窓の外のパノラマ雪景色を眺めていた。


だが、この「お気軽な体験運行」は、アルドのうっかりによって、一瞬にして『阿鼻叫喚の物理パニック』へと相転移した。


「どれ、山頂の自動ブレーキ用の『からくり制御減圧バルブ(第36話仕様)』の調圧でもしてみるだべ――」

「アルド、そこを触ってはダメよ! 摩擦ゼロの水晶ベアリングのせいで、わずかなクラッチのズレが系の自由エネルギーを一瞬で解放(パージ)して――」

イゾルデが叫んだ、その刹那。


カチャ。

アルドがバルブをうっかり逆方向にひねってしまった。次の瞬間。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!

キキキキキキキキィィィィィィィィン……!!!!!


「「――うわああああああああっっっ!!!!!???」」


ロックされていたゼンマイとワイヤーの重力ポテンシャルが一瞬にして解放。

摩擦抵抗が物理的に「ほぼゼロ」であるため、客車は一切の不快な金属音も立てず、

ただ水晶ボールがチタンレースの中で超高速回転する「キィィィィン……」という超高音の金属音だけを大気に響かせ、

傾斜35度の斜面を、時速100キロという、およそ世界の理を完全に引きちぎる爆速で山頂へ向けて斜め爆走スライドを開始した。


「ア、アルド! 何をしましたの!? 斜面平行方向の滑り落ちる力 F down = mgsinθ の自重エネルギーが、重力相殺ワイヤーの張力と合わさって、時速100キロの等速スライド運動にバーストしているわーーーっっっ!!!」

「おわぁぁ!? ブレーキが利かないべ! 滑りすぎて摩擦熱すら発生してねえべぇぇ!!」


車内は一瞬にして重力と慣性力が大乱舞する、物理の地獄絵図と化した。

時速100キロへの急激な加速G(コリオリの力)の物理的暴力により、

コタツのテーブルの上に置かれていた「アツアツのおでんの大根」や、

「すき焼きのタレ(第128話仕様)」、そしてビールのジョッキが、

慣性の法則によって「フワッ……」と宙に浮き、

車内の空中で、お肉と大根が複雑な三次元の放物線軌道(放物運動)を描きながら舞い踊り始めた。


 Fc = mrω²


「おでんの汁が! おでんの極上アミノ酸スープが、運動量保存の法則で放物線を描いて私の顔に迫ってくるわーーーっっっ!!!」

イゾルデが、スウェットの襟元を振り回しながら、宙を舞う大根(※ただの具です)を避けるためにアクロバティックなブリッジ(※運動神経お化けの力です)をキメる。

「お父さんの淹れたてアッサム紅茶(第122話仕様)が、遠心力で斜め45度にキープされてるよ、レイラ!」

エドワードお父様が、重力と遠心力の合力ベクトルによって、グラスの中で斜めに静止している紅茶(※ただの物理現象です)を死守しようと、コタツの中で四つん這いになって必死に叫んでいる。


『ちょっとアルド! 何をやってるのよ! インクラインの制御系がカオス領域に突入しているわ!』

屋敷のコタツから、アリスの冷酷ながらも呆れた無線(第70話WEB回線)がイゾルデたちの耳元のヘアピン受信機へ響く。

『アリス様、助けて! イゾルデ様の顔面に、時速100キロのすき焼き肉(第128話)が慣性でロックオンされてるべ!』

『エレン、ピエゾ水晶の非常制動(ブレーキ、第103話仕様)を送信しなさい。彼らのG耐性のテストよ』

『了解、お姉ちゃん! ピエゾ・カウンター・電撃ブレーキ、オン!』


コタツからエレンが指先をピッ、と動かす。

次の瞬間、インクラインの水晶ベアリングの内部に仕込まれたピエゾ水晶(第62話仕様)が超音波で逆位相共振を起こし、強力な電磁ブレーキが「カチャリ」と作動。


スササササササササササッ……スン。


時速100キロで垂直絶壁をスライド爆走していたチタンの客車は、

山頂の露天風呂駅のホームの、わずか10センチ手前で「スン……」と何事もなかったかのように等速静止した。

その刹那、空中に浮いていたおでんの具や牛肉、そしてお父様の紅茶が、重力 F = mg の絶対の支配下に戻り、

「ベシャッ!!!」と、全員のサウナハットの上や畳の上に、見事な放物線の終わりを告げて落下・直撃していった。


◇


「……あ、あれ……? わたくし、生きていますわ……?」

サウナハットの上に、綺麗に煮込まれた大根(第71話仕様)を乗せ、

顔中がすき焼きのタレでドロドロになったまま、おそるおそる目を開けるイゾルデ。

「だから言ったでしょう、イゾルデ様。双子様のブレーキは世界一です。……お、ちょうど良く目の前が山頂の温泉(第30話)だべ! 汚れた顔を洗い流して、今すぐサウナでととのうべ!」

アルドも顔面にお豆腐を張り付かせたまま、のんきに笑ってサウナコテージ(第80話仕様)のドアを蹴破った。


「もう……! 本当に、この領地の交通インフラは命がいくつあっても足りないわ……! でも、おでんとすき焼きの味は最高だし、温泉が温かいから……許しちゃいますわ……!」


すっかり「特区のドタバタアトラクション」に毒されたイゾルデは、サウナハットを揺らしながら、お気楽に温泉へと飛び込んでいくのだった。


窓の向こう(※屋敷のコタツ)では、アリスとエレンが、

「「デバッグ完了ね、アルド。彼らもお掃除ロボのメンテナンス班(バイト)として追加雇用しなさい」」

と、不敵に笑い合いながら、ハチミツレモネードを飲むのだった。

新章を迎えたシルバーストーン巨大観光特区には、目に見えない「極限の振動工学・力学技術」と、隣領の貴族や王都の役人たちを「逆らったら山頂へ向けて時速100キロで無音爆走・スライドさせられる、恐るべきインクラインの噂」が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。

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