第105話:夜を支配する不夜の魔導グリッド
「……アリス、聞こえる? 私たちのQOL(生活の質)メーター(夜遊び部門)が、この領地が王都を超える巨大特区(第61話)に成長したというのに、夜になると領内全体が『暗黒の虚無(真っ暗闇)』に包まれるという、あまりにも前近代的な仕様に直面して、大脳新皮質から激しい不快パルス(警告)を連発しているわ……」
「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の右脳の奥でも、せっかく開発した深夜ラジオ(第31話)を録音したり、コタツ(第65話仕様)でだらだら『週刊シルバーストーン』のバックナンバーを読み耽ったりしているのに、窓の外がただの『漆黒の闇』であることに、オタクとしての審美眼が耐えかねてストライキを宣言しているわ。最先端観光特区の夜が暗いなんて、甚大なるタイムロスよ! 領内全体を24時間太陽のように美しく照らし、さらにお洒落な『ネオンサイン』が夜空を彩る、特区放電電力グリッドをDIYするわよ!」
シルバーストーンQOL巨大観光特区のリビング。
完璧に除湿されたドライコタツの中でハチミツレモネード(第26話仕様)を啜りながら、銀髪の双子は、脳内の専用回線をかつてない「電気工事熱」で同期させていた。
前世は三十代の理科教師、成瀬健一。
電気もない世界で夜を支配し、お気軽極楽な「不夜城ナイトライフ」を完成させるのが今回の目的だ。
「いい、エレン? 大自然の雷撃をライデン瓶(第35話仕様)に蓄電した数十万ボルトの静電気電荷は、そのままでは高電圧すぎて家庭用のインフラに使えないわ。だから、電磁気学における『ファラデーの電磁誘導の法則』をハックして、安全な電圧まで引き下げる『磁気誘導変圧器』を設計するの。一次コイルと二次コイルの巻線比N₁/N₂と電圧V₁/V₂の関係式はこれよ!」
V₁/V₂ = N₁/N₂
「(ここで一次電圧をV₁、二次電圧をV₂、一次巻数をN₁、二次巻数をN₂とするわ! 相互インダクタンスを最大化する軟鉄の閉磁路コア(鉄芯)を設計したから、エレン、私の3Dガイドに沿って、髪の毛より細い銅線をコンマ一ミリの隙間もなく数万回巻き付けて! さらに、真空ハイパーループ(第97話)の排気技術を応用し、極細ガラス管(第40話仕様)の内部を真空にし、そこに領内の塩湖(第56話)から精製したネオンやアルゴンに似た不活性ガスを封入するのよ。高電圧を印加してガス原子の電子を励起させ、軌道遷移(遷移)のエネルギー差に応じた美しい青や赤の光を放つ、異世界初の『ネオン管サイン』を構築するわ!)」
「最高ねアリス! 大自然の電気をお洒落に飼い慣らすのね! 私の『超精密魔力クラフト・一体成形(120,000 rpm)』、出力最大でいくよ!」
エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと精密な魔力放電が散る。
アリスが脳内スパコンで計算した「トランス変圧器の閉磁路コア」の3D設計図に重ねるようにして、エレンは真鍮と軟鉄のパーツを削り出し、髪の毛以下の銅線を高速で「からくりリール(手巻き仕様)」によって狂いなく巻き上げていく。
さらにアリスは、ネオン管の不活性ガス圧力を光学スキャンし、放電時に最も美しく発光する「アズレン赤」や「サイバーブルー」のスペクトルにチューニングした。
一人が「相互インダクタンス&気体放電軌道遷移シミュレーター(ソフト)」、一人が「ナノ精度放電カッター&高真空ガラス管曲げ(ハード)」。
双子の超絶同調により、わずか数日のうちに、庭の高台の給湯タワー(第40話仕様)の横に、不気味に真鍮のコイルが唸りを上げ、複雑に折れ曲がったガラス管が這い回る、異世界初の『高電圧放電電力グリッド・ネオンタワー』が爆誕した。
◇
その日の夜。
アリスがレバーを引き、ライデン変圧グリッド(トランス)を起動した。
次の瞬間、高台のタワーから、
「チチチチ……」という、高電圧特有の不気味な放電ノイズが大気を波立たせ、
空気中の分子が励起されたかのようなオゾンの香りが漂う中、
山頂の駅舎と屋敷の夜空に向かって、
「ピガァァァァァァァァァン!!!」
と、血のように赤く、そして冷たく輝くサイバーブルーの巨大な魔導文字――。
『 SILVERSTONE 』
さらに、その横にはビールジョッキをかたどった、泡がバチバチと不気味に(お洒落に)明滅する巨大なネオンサイン(※ただのお洒落な看板です)が、美しく夜空に浮かび上がった。
ネオンの放電エネルギーはアリスの計算通り完璧に制御され、大自然の暗黒の夜を、不気味かつ、どこか幻想的な未来の「不夜城」のように赤く照らし出していた。
◇
「ふあぁぁぁ……! な、何ですか、このコタツのサラサラ(第65話)を貫通して窓の外から射し込んでくる、悪魔的なまでに艶やかでサイバーパンクな光は……!?」
コタツ(冷却送風モード)でおでん(第71話仕様)を貪り、すっかりQOLの虜となっていた監察官イゾルデ。彼女は、窓の外で怪しく輝く「SILVERSTONE」と「ビールジョッキ」のネオンサインを見て、スウェット(第81話仕様)の襟元をギュッと握りしめ、目を輝かせて叫んだ。
「ま、間違いないわ、アルド……! あの夜空に脈動する赤と青の放電魔紋……! 嗅いだだけで理性が溶けるおでんとビールのマリアージュを、視覚的にも完璧な不夜城の楽園へとアップデートする、至高のナイトライフ(QOLハック)よ……!!! これを眺めながら飲むビール、美味しくないわけがありませんわ!!」
「へへ、イゾルデ様、すっかりお嬢様方の『不夜城QOL』にハッキングされてやがる。さあ、冷えたビール(第6話)とポテトチップス(第94話)を持って、夜更かしゲーム大会の始まりだべ!」
サウナハット(第51話仕様)を被ったアルドが、カードの束(SSC、第32話仕様)をコタツの上に叩きつける。
「望むところだべ、アルド! わたくしのアストレア公爵領の特製『プリン・オブ・バニッシュ(第73話仕様)』デッキで、明日の『お掃除ロボのメンテナンスお休み権(第86話仕様)』と、最後の一口のポテトチップスは全部わたくしがいただくわ!」
イゾルデもスウェット姿のまま目を血走らせ、手札を扇状に広げた。
「お父さんも混ぜておくれ! 娘たちのチャリの最高級チタンボルト(第28話仕様)を賭けて、このお父さんが無敗のプロデューサーとしての、至高のデッキ構築(ネオン・ハイボール仕様)を見せてあげるよ!」
お父様エドワードも、ウイスキーのグラス(第110話仕様)をカランと鳴らしながら参戦。
「私のターン、ドロー! 魔法カード『ネオンタワー点灯』発動よ!」「いや、それには『おでんの大根(第71話仕様)』でカウンターだべ!」
「ぎゃあああ! わたくしのお休み権がぁぁぁ!!」
深夜のシルバーストーン特区の屋敷から、夜空に輝く赤いネオンの光に照らされながら響き渡る、大爆笑とカードを叩きつける「バチバチ!」という楽しげな大歓声。
そこには、美味しいお酒と極上のポテトチップス、そして「誰が一番夜更かしをしてゲームに勝てるか」を競い合う、異世界で最も賑やかで温かい「おうちコタツBar」の光景が広がっていた。
「「ふふふふ……」」
コタツの特等席で、お互いのさらさらツヤツヤの髪(第40話仕様)を優しく撫で合いながら、ハチミツレモネードを片手にその様子を眺める小さな双子。
「計画通り、お洒落なネオン放電とゲームで、今夜もみんなを完璧にコタツの底(だらだら仲間)に引きずり込めたわね、アリス」
「ええ、エレン。高電圧変圧器の数理モデルと、ネオン気体放電の完全勝利よ。明日からもお使い(第92・93話仕様)も、お掃除ロボのメンテナンス(第86話)も、みんなもっと楽しそうに(QOLの高い状態で)バイトをこなしてくれるわ。科学と、私たちの趣味の完全勝利ね」
窓の外では、月明かりと赤いネオンの光の下、ガシャガシャと走る木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに庭に落ちたわずかな落ち葉を掃き清めながら、コタツから漏れ出る香ばしいおでんの匂いと楽しげな笑い声を、優しく、そして最高にお気楽に、世界中に広げていくのだった。




