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3場

夜、今村家のリビング。

広和が机に突っ伏して寝ている。広和の傍には畳みかけの洗濯物がある。

そこに未来が帰ってくる。寝ている広和を見つけると、心配そうな表情を浮かべる。

起こさないようにリビングに入るが、広和は起きてしまう。


広和 おお、おかえり。帰ってたのか。

未来 ただいま。ごめん、起こしちゃったね。

広和 (時計を見て)こんな遅くまで勉強か。偉いなぁ。

未来 え…ううん、そんなことないよ。

広和 すぐにご飯出すよ。今日は味噌汁を作ってみたんだけど、なかなかお母さんみたいに上手くいかないな。

未来 うん…そうだよね。

広和 ああ、それとお風呂も沸かしてるから、未来の好きなときに入っていいからね。

未来 …お父さん。

広和 ん?

未来 お父さんとお母さんはどうして結婚したの?

広和 何だい?藪から棒に。

未来 ちょっと気になっちゃって…。

広和 そうだな…。お父さんとお母さんが幼なじみだっていう話は知ってるよね?

未来 うん、高校まで一緒だったってことは聞いてるよ。

広和 そう、小さい頃からよく一緒に遊んでたんだけど、大学に進学するときに、お母さんは上京して、お父さんは地元に残ったんだ。距離が離れてしまうと、何となく連絡も取らなくなってね…。でもお父さんが就職を機に上京して、そこでまた会うようになったんだ。

未来 それで、結婚したの?

広和 うん。最初は断られたんだけど、なかなか諦められなくてね。一年くらい経ってもう一度告白したら、オーケーしてもらえたんだ。元々家族ぐるみで仲が良かったから、結婚するまで時間はかからなかった。

未来 どうしてお母さんは一回断ったの?

広和 どうしてだろうね?理由は聞いてないからな…。

未来 他に好きな人がいたとか…?

広和 うーん、そうかもしれないね。

未来 お父さんって、いつもそういう肝心なこと聞かないよね。私にもお母さんにも。

広和 おや?未来はお父さんに、好きな人のことを根掘り葉掘り聞いてほしいのかい?

未来 うーん…それは嫌だな。

広和 そうだろう?

未来 でも、結婚したい人のことだったら、聞きたいと思わないの?

広和 まあ全然気にならないと言ったら嘘になるな。でも全てを知る必要なんてないと思うんだ。お母さんにはお母さんの誰にも言えない想いがあったのかもしれない。それは変に詮索するべきではない。例え家族であっても個人の想いは尊重されるべきだと、お父さんは思ってきた。

未来 …だからお父さんは新婚早々、お母さんが家出しても平気だったの?

広和 家出?

未来 この前言ってたじゃない。お母さんが丸一日帰って来なかったって話。

広和 ああ、あのことか。家出なんて大袈裟だよ。結婚して間もなく。お母さんはマリッジブルーになってしまったんだ。お父さんが解決できたら良かったんだけど、なかなか辛い気持ちを打ち明けてくれなくてね…。それで羽を伸ばしてきたら?ってお父さんが提案して、一日だけ旅行に出かけたんだ。

未来 どこに行ったの?

広和 さあ、分からないな。

未来 お母さん、教えてくれなかったの?

広和 いや、聞かなかったんだ。

未来 心配じゃなかったの?

広和 もちろん心配な気持ちもあったさ。でもさっきも言ったように、詮索するべきではないなと思ったからね。当時のお母さんの状態を考えると、余計にね。

未来 マリッジブルーだったから?

広和 そう。そして結果的に、お母さんは帰ってきて、しばらくして未来を授かって、お母さんはずっとお父さんの家族でいてくれた。お母さんがそうしてくれたことが、お父さんはとても幸せだったよ。

未来 それが、十八年前?

広和 うん、そうだよ。

未来 …

広和 明日も朝早いのか?

未来 うん…。ちょっと出かける。

広和 よし。じゃあ明日も早く準備しないとな。

未来 あ、朝ごはんは自分で作るよ。お父さんは明日くらいゆっくりしてて。

広和 そうか?それじゃあお言葉に甘えようかな。…あ、そういえば、未来。

未来 何?

広和 お母さんの遺品、箱が一つ見当たらないんだけど知らないかな?

未来 えっと、どんなの?

広和 これくらいの、確かサックスの絵が描かれてたと思うけど…

未来 あー持ってたかも。探しておくよ。

広和 うん、頼むね。


広和は洗濯物を持って去る。

未来は鞄から手紙を取り出して読み始める。


未来 籠屋錠一様。こうしてあなたに手紙を出すのは初めてですね。


違う場所に十和子がやってきて、同じく手紙を読む。


十和子 ずっとあなたと両想いだったらいいなと思っていました。あなたが私のことをどう思っているか、結局、最後まで話してくれませんでしたね。でも、サックスがなかなか上手くならない私に辛抱強く教えてくれたこと。夜遅くまで練習をしていたら、無理しすぎだって叱ってくれたこと。進路で悩んでいた私の話を何時間も聞いてくれたこと。周りからみたら、私の勘違いだと思われるかもしれませんが、私にはどうしてもそう思えませんでした。


違う場所に錠一がやってきて、同じく手紙を読む。


錠一 もし今、私と同じ気持ちでいるのなら、簡単でいいので、お返事をいただければ嬉しいです。異国での活躍を心よりお祈りしています。それでは、いつかまたお会いできるその日まで。 春野 十和子。


未来と十和子が去る。

錠一は手紙をしまう。

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