2場
夜、ライブ会場。錠一のサックスが響き渡る。会場は惜しみない拍手で包まれた。
ライブ終了後、錠一はバーカウンターで竹内と話している。
竹内 さすが、日本最終公演というのもあって大盛況ですね。
錠一 これも竹内さんのおかげです。
竹内 いやいや、私も籠屋さんの演奏が生で聴けて感無量ですよ。特に最後に演奏した『プロローグ』。あれは前奏から涙腺にきてしまって…
錠一 そんな、大げさですよ。
竹内 あの曲は私の周りでも特に人気が高いんですよ。今回の公演は今日で終わりですが、また近いうちにぜひ一緒にやりましょう。
そこに牧田が入ってくる。
牧田 お疲れ!今日は朝まで飲めるのか?
錠一 そうしたいのは山々だけど、明日の十二時には飛行機に乗るから、あんまり長くは付き合えないんだよ。悪いな。
牧田 売れっ子は忙しいな。それにしても『籠屋錠一、二十年ぶりの日本凱旋!』なんて大袈裟だな。一回帰ってきてたじゃないか。
竹内 え?そうなんですか?
錠一 お前よく覚えてるな。(竹内に)向こうに行って二年くらいしてから師匠のライブに呼ばれたんですよ。でも時間が無くて丸一日も居られなかったから、ちゃんと帰国したとは言えないんですよね。
竹内 なるほど、そういうことでしたか。
牧田 でもそれなら『十八年ぶりの日本凱旋!』ってタイトルのほうが良かったな。
竹内 さすが牧田さん、細かいですね。
そこに未来がやってきて、錠一に話かける。
未来 あの…すみません。サインください。(CDを差し出す)
錠一 お、いいよ。(CDを受け取る)
未来 ありがとうございます。
錠一 お名前は?
未来 えっと…今村ミクです。
錠一 ミクちゃん、漢字は?
未来 ミライって書きます。
錠一 未来ちゃんへ…っと。高校生?
未来 はい。
錠一 嬉しいなぁ、こんなに若いお客さんも来てくれてるなんて。
未来 そうですか?
錠一 サックス好きなの?
未来 母が好きだったので。
錠一 へえ、そうなんだ。(サインを書き終えCDを未来に渡す)はい。勉強頑張ってね。
未来 (CDを受け取る)…あの。
錠一 なんだい?
未来 今村十和子という人を知っていますか?
錠一 …いや。
未来 じゃあ、春野十和子という人は?
錠一 …知らないな。
未来 そうですか…。
錠一 同じ人?
未来 母の旧姓なんです。
錠一 そうなんだ。
未来 すみません、急に変な質問をしてしまって。
錠一 大丈夫だよ。もし良ければ、今度はお母さんと一緒においで。
未来は答えず、会釈をして足早に去っていく。
錠一は未来を目で追い、立ち尽くしていた。




