3.初夏に出会った雪だるま(2)
愕然とするわたしたちの前に【世界境管理人】を名乗る奇妙な生命体が現れたのはその時だった。
ひとことで言うのなら雪だるまだった。
ふたつの球体が縦に並んでいて、光の当たり具合のいなのか、見る角度のせいなのか、ぱっと見た感じは銀色っぽいのにときどき七色に見える。そう、CDとかの円盤の裏側みたいな感じ。
黒くて丸い目をふたつくっつけただけの、口も眉もない雪だるまは、わたしたちの顔くらいの位置に突然現れ、ぷかぷかと浮いていたかと思うと、突然しゃべった。
口がないのに、どこかから声が聞こえる不思議。
『第二十三次紺青世界接触時において越境者一名を確認。紺世界における人口1名増加。青世界における人口マイナス1』
雪だるまはどうやら着用しているヘッドセットへ向けて報告をしているようだった。
それが終わると、小動物っぽい真っ黒くてつぶらな瞳をわたしたちへと向けた。
『そういうわけで、そこのおまえ。おまえは今から紺世界の住人だ。まあ、がんばれ』
「おれ?」
『そう。おまえだ』
目を瞬かせながら自分を指さすトモキに雪だるまが告げる。
「意味わかんない。なに言ってるの?」
首を捻っているトモキに代わって、わたしが雪だるまに詰め寄った。
『なに? 意味がわからない? まさか。このヘッドセットは現存する全世界の言語に対応しており、世界を設定すればその世界の言語に同時翻訳できる最新型なのだが……』
「言葉自体はわかるけど、あなたのしゃべってる話の内容が理解できないってこと」
わたしの言い分を聞いて、雪だるまが納得した、という風に頷く。
『難しいことはなにもない。こいつとおまえの存在する世界が分かたれた、というだけのことだ』
そんな説明で納得できるわけがない。
けど、雪だるまがなにかを知っていることは間違いなさそうだった。
というかこのタイミングで現れた雪だるま以外に、現状について説明してくれそうな人はいなかった。
「まあいいや。ひとまずあなたの言うことを信じるとして、じゃあ、どうやったらトモキはわたしのいる世界へ戻って来られるの?」
『それはとても難しいことだ』
「難しい? でも、さっきは田んぼに落ちただけで世界を移動したわけで、別に難しいことなんてなかったと思うけどなぁ」
トモキが自分の手を上げたり下ろしたり、足踏みしたりしながら言う。
『それはあの瞬間、世界が触れ合っていたからだ。もう、ふたつの世界は厳密には離れている。おまえは、もとの世界に戻ることができないのだ』
雪だるまが、その外見に似合わない硬い口調で告げた。




