2.初夏に出会った雪だるま(1)
ほんの一ヶ月前まで、わたしとトモキは確かに同じ世界にいた。
同じ高校に通って、一緒に下校だってしていた。
それなのに、ふとした瞬間にトモキが一歩足を踏みはずしてから、わたしたちの世界は分かたれてしまったのだ。
学校からの帰り道、わたしたちは田んぼの中をまっすぐに伸びる農道を並んで歩いていた。
見渡す限りの田んぼと、細い農道に用水路、右手を見れば田んぼの先に堤防があり、一級河川が流れている。
晴れていればその向こうには郷土富士の美しい姿がはっきりと見える。
左手を見てもやっぱり田んぼが広がっていて、随分先のほうに、ちらほらと建物がある。
わたしたちが住んでいるところはまあ、つまり、そういうのどかで、なんの変哲もない普通の町だ。
過疎問題がよく話題になるけれど、別の町に住んだことのないわたしにはいまいち実感がわかない。
素朴な疑問として、じゃあ、過疎の進んでない町っていうのはどんな風なんだろう、とは思うけど。
テレビでよく見かけるような、大勢の人で賑わっている都会が、過疎とは無縁だ、というのはわかる。
まあ、そういうのどかな町で、わたしとトモキは子どもの頃から一緒に育った。
いわゆる幼なじみというやつだ。
腐れ縁は高校に入っても続いていて、家が近所で互いに帰宅部という状況も手伝って、一緒に帰るのは別に珍しくもないことだった。
最初はクラスの子たちがわたしたちの関係に興味津々で色々と訊いてきたりもしたけれど、どれも適当に流しておいた。
自分の気持ちはともかく、トモキがなにを考えているのかはわたしにはわからなかったからだ。
ただ、一緒に帰るのを嫌がっている風ではないので、じゃあまあいいか、という結論に至り、結局今でもその習慣は続いている。
そんなわけで、この日もわたしはトモキと一緒に歩いていた。
と、前方から軽トラックが走ってきた。
農道は車一台がなんとか通れるだけの幅しかないので――っていうかこの道はそもそも農道なわけで、近道だからって登下校に利用してるわたしたちよりも軽トラックのほうが優先だろうなってことはもちろんわかるので、わたしとトモキはトラックの邪魔にならないように道の端ぎりぎりまで寄った。
その時。
バチャ、って音がしてトモキが田んぼに落ちた。
それだけ。
たったそれだけなのに。
そこが――その田んぼの中が、たまたまわたしたちの世界に接していた異世界だなんて、誰が信じられるっていうんだろう。
そんなバカな!
そうやって笑って終わらせられたらよかったのにね、ほんと……。
でも現実には「なにやってるの?」って呆れながら伸ばしたわたしの手をつかもうとしたトモキの指先は、そのままわたしの手のひらをするりとすり抜けてしまった。
重なるはずだったわたしの手には、トモキの手の感触が一切残っていなかった。
ぞっとした。
なにが起きたのか理解できず、でもそのおぞましさに鳥肌が立った。
あってはいけないことが起きたのだということを、たぶん頭よりも先に体のほうが感じていたんだと思う。
わたしはその姿勢のまま、動けなくなった。
トモキも同じようにしばらくぼうっとしていたけれど、やがて「よいしょ」などと間の抜けた掛け声とともにゆっくりと立ち上がり、農道に上がってきた。
けれど、おたまじゃくしがたくさん泳いでいる田んぼの水をたっぷり吸い込んでズボンはびしょびしょのはずなのに、トモキの足もとには水溜りもできなければ、トモキの影すらなかった。
まるで、トモキがそこに存在していないかのように――。




