10.家出先にて(1)
数時間ぶりに、紺世界のトモキの住み処である山小屋(雪だるまが手配してくれたらしい)へ行ったら、トモキはすっかり虎になっていた。
「ト、トモキ!?」
『ぐあお』
振り向いた虎が大きな口を開けて、一声鳴いた。
「ッ!!」
その迫力に思わずあとずさるわたしを見て、虎が尾を数度振った。
『いやそんなにびびらんでも。子どもみたいに泣くことができんようになった代わりに鳴いてみたけど、どう?』
その虎は実は虎ではなく虎族という知恵を有し人語を解する生き物なので、虎族になったトモキは虎の姿をしたままで、ただの人間だった時と同じように日本語をしゃべった。
その体の口でも、言葉を発せるんだ……、とちょっと感心する。
虎のトモキの中身はいつもと少しも変わらない、相変わらずなトモキのままで、そのことに、すごく、ものすごく安堵する。
体に入っていた力を抜く。
それから、トモキを泣かせられなくなったことを、残念に思う。
「どうって……、そんなんじゃ全然ダメ。もっとわんわん泣かないと」
『わんわんは難しいなぁ。ほら、おれ、虎だし。犬だったらよかったかな?』
そういう問題じゃない。
「とにかく、わたし、ずっとここにいることにしたから」
『え、とにかく? ずっと?』
「決めたから。三日間、ずっと一緒にいる」
『……まあいいけど。おれ、虎だけどいいの?』
「虎でも人間でも、トモキと一緒がいいの」
『そ。でも、あんまりかまってやれんよ?』
「別に、構ってくれなくったっていいもん」
『ふうん』
トモキはしっぽを数度振ると、ふいにわたしから興味がそがれたみたいに背中を向けてしまった。
所詮、トモキにとってわたしはその程度の存在だったんだ、ともう何度目になるのかわからないショックを受ける。
それでも、わたしはやっぱりトモキのそばにいたくて、すっかり虎族になってしまった幼なじみの背中をただぼんやりと眺めていた。




