ミドルの発展
あとがきに大切なお知らせがあります!
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「――シッ!」
身体に紫電を纏わせることはせず、素の身体能力で剣を振るう。
腕と足には100キロずつ重りをつけている。
通常の鉄だとサイズ的な問題で動くことができず、俺が使っている重りはこの世界にある金属の中でも最も重く硬いと言われている獄炎鋼と呼ばれる金属を使っている。
これだけのハンデがあり、かつ魔法を使っていないにもかかわらず、俺の一閃は一撃でハイトロルの胴体を断ち切ってみせた。
……これだと修行にならないな。
もう少し重しを足そう。
片腕の重量を150キロ、200キロと上げていき、300キロまで増やした時点でようやく身体能力があちらと同じ程度にまで下がってくれる。
「ははっ、いいな」
再生能力が高いトロル系の魔物は、どれだけ斬っても首が取れない限りすぐには死なないのがいい。
「BURAAAAAAA!!」
ハイトロルの棍棒の一撃を避けながら、接近し肉体を切り刻んでいく。
重量を付けているせいで身体は最低限の動きしか取ることができない。
相手の動きを見切り最小限の動きでかわし、そのまま無駄をそぎ落とした一撃で相手の首を断ち切る。
自身の領内でできる魔物の討伐は、もはや俺にとっては作業も同義。
俺はこれをなんとかして自己鍛錬とするための方法を、最近編み出すことに成功していた。
一人の場合はこうして動けぬほど大量の重しをつけ、仲間といる場合にはそれに加え敵へのバフと俺へのデバフをかけてもらうことで、無理矢理状況を対等に持って行くというやり方である。
数え切れないほどに深海に住まう魔物達を倒して上げきった俺のレベルは現在65。
もはや普通にエンカウントする魔物と戦ってこれ以上レベルを上げるのは不可能というところまで来ている。
これ以上レベルを上げようとするのなら大量の経験値を持つボスモンスタークラスを倒さねばならず、経験値稼ぎというよりこういった形での自己鍛錬を中心としなければならない段階までやってきていた。
「ふぅ……」
ララ達この領地の主要メンバーも既に同様のレベリングを行っており、俺達は既に魔王を討伐できるほどの戦力を整えている。
「行くか」
周囲の魔物を軽く殲滅し終えてから、一度ミドルの街へと向かうことにした。
俺……ヴァル・フォン・アストラスはアストラス家として新たに家を興すことを許されてから、早いもの半年ほどが経過していた――。
♢♢♢
「来たのは数日ぶりだが……ずいぶんと栄えているな」
「人口が一気に増えましたから」
先に向かっていたララと合流し、ミドルの街へと入る。
なんやかんや魔物の掃討をしながら進むことが多いため、この街に来るの自体はかなり久しぶりな気がするな。
――改めてアストラス領となったダート大森林の中部、獣人と魔人達の集落を繋ぐ中継地点で会ったミドルの街は、現在以前にも増して混沌とした様相を挺し始めていた。
「おお、あそこにいるのはエルフだ」
歩いていると見えてくるのは、長い笹穂の耳をピンと張っている整った相貌をした男性だ。
亜人が一種――長命種であり弓の名手としても名高いエルフである。
「隣の店のドワーフと喧嘩をしていますね」
そして露店を出して薬品を売っているエルフの隣では、ずんぐりむっくりとした体型をした壮年の男性が武器を売っている。
髭をしごきながら隣のエルフと言い争いをしている彼は、ドワーフ……鍛冶を始めとした手工業に長けていると言われている亜人である。
ちなみに全員が漏れなく酒豪であり、商談をしようとするのなら酒は必須という飲んべえ種族でもある。
ミドルの街を歩いていると、彼ら以外にも、様々な姿の者達が見えている。
蜥蜴のような鱗を身体に纏っている亜人や、悪魔のような角を生やしている魔人……人種のるつぼもここに極まれりといった感じで、数多の種族達が隣り合って生活を送っている。
そう、現在ミドルの街には、王国中の各地にいた亜人や魔人が大量にやってきており、軽い人口爆発が起こっていた。
ぶっちゃけると俺が想定していたよりはるかに大量の移民がやってきており、浅層に作った新しい開拓村であるファストと比べても、今ではこちらの方が数が増えてしまっている状態だ。
「すごいな……何か問題は上がってきているか?」
「いえ、今のところは行政も特に滞りなく進んでいるようです」
これほどまでに大量の亜人や魔人がやってくることになったのは、もちろん国王陛下に出してもらった亜人と魔人の王国民としての主権を認める公布に原因がある。
――あの国王が出してくれた宣言のおかげで亜人や魔人の奴隷達の多くが解放されることになった。
もちろん俺は言っていた通りに彼らの代金を交渉の末に払い、結果として大量の財貨が我が領から流れることになった。
製塩業・貿易業・そして真珠の養殖業で得られた利益はそこそこ大きくなっていたが、そのほとんど全てを使ってもまだ総額には足りず、現在我が領の財政は普通に赤字である。
その赤字を補填するために、大量に保存していた高ランクの魔物達の素材を一挙放出することになった。
まあおかげで黒字化とついでに元手も作れたので良しということにしている。
「あっ、ヴァル様!」
「ヴァル様だ、こんにちは!」
「ああ、こんにちは」
狸の顔をした獣人の人達に声をかけられ、軽く手を振って反応を返す。
獣人というのは実に幅が広く、ナナ達のように耳や尻尾が生えているだけの個体から、二足歩行をしている獣のような見た目の彼女たちのような個体まで多様な種が存在している。
「ファストの村の人達が見たらひっくり返りそうですね」
通常王国貴族と出会った場合平民は傅きながら去るのを待つ必要があるが、亜人や魔人の文化ではそのようなことはない。
なぜなら彼らにとって権力者とは自分達の群れのボスであり、自分達を守ってくれる庇護者でもあるからだ。
俺個人としては、権力者だろうがこうして普通に話がすることができる亜人式のコミュニケーションの方が好ましい……などと思うのは、俺がここ最近人間相手にバチバチにやって少し嫌な気分になっているからだろうか。
巷にいる人間至上主義者達の中には、亜人や魔人のことを領民として認めさせた俺のことを『蛮人の王』などと呼んでいる口さがないものもいるらしい。
だが陰口を言われるのは、その人間が妬まれている証拠だ。
言われているうちが花だと、特段気にしてはいない。
製塩業に舵を切り始めたことで、俺は国内の内憂派とは明確に敵対することになった。
そのせいで色々とちょっかいを出されることは増えたものの、それら全てを叩き潰したおかげで現状は小康状態になっている。
内憂派の王国貴族の中には新参者である俺の言うことを聞くことが我慢ならなかったらしく、自領にいる亜人や魔人達を解放こそしたものの、実質的には同じ待遇でそのままこき使おうとするやつらも多かった。
そしてそんな待遇に激怒した亜人や魔人達は、それなら俺達の味方であるアストラス領へ向かおうとやってきたのだ。
もちろん正規の手続きを踏んでいないので、扱いとしては逃亡奴隷ということになる。
彼らは文化的な寛容性が高いミドルの街へ受け入れることを決め、文句をつけてくる内憂派関連の奴隷主に関しては知らんぷりを決め込ませてもらうことにした。
……いや、最初の頃はきちんと対応してたんだけども。
法外な値段をふっかけてきたり塩の製法を教えろとかふざけたことを言い出したりされたので、以降まともに取り合うのは辞めにしたのだ。
無論外患派の人達とは、仲良くやらせてもらっている。
彼らにはしっかり奴隷の解放料金も払っているし、塩の取引や貿易業、養殖真珠の卸しなどもさせてもらっている。
内憂派は奴隷達が一気に消えて労働力が消え、頼みの塩ギルドの影響力も今後はどんどん小さくなっていく。
俺達が肥え太れば太るほど彼らは痩せさらばえていくわけで、最終的には何を言われても気にせずに済むようになるだろう。
査察官が来た時にはそこまで規模を大きくするつもりはないと言ったんだが、口約束を反故にしてしまったようでなんだか少しだけ申し訳ない気持ちになってしまう。
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