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凶報

あとがきに大切なお知らせがあります!

ぜひ最後までご覧になってください!


 領地として拝命するにあたり、俺は全ての集落に正式な命名を行うことになった。


 移民達を集めた村がファスト、そして中央にある各地を繋ぐ結節点がミドル、獣人達が暮らす街は彼らカイオウの氏族の名を使いカイオウ。


 アマゾネスの集落は先代女王の名前を取ってヒート、そしてマーメイドと人が作った新たな港町にはフェリルという名を付けている。


「……という状況のようです」


「現状なら黒字になっているだけで十分だ。文官の皆に俺の私費からボーナスでも弾んでやってくれ」


 ミドルの街でまとめて代官達の収支報告を確認する。

 ちなみに報告をしてくれるのはここ最近メイドとしてだけではなく俺の家宰のような役割まで果たしてくれるようになっているララである。


 色々と考えなければいけないことが多いので、領地経営に関する頭脳労働は結構な部分を彼女とリリィに任せてしまっている。もちろん最終的な決定権と責任を持つのは俺だけどな。


 領全体としては、やや黒字に転じつつあるらしい。

 ここしばらくの間は大量の移民希望者が人の種別に関係なくやってきているため、赤字がものすごいことになっていたが、その赤をなんとか消すことができているらしい。


 全体で見れば産業より、既に莫大な利益を出し始めている貿易収支のおかげが大きい。


 マーメイド達が海の護衛をしてくれるおかげで難波をする可能性は限りなくゼロに近いところまで抑えることができるため、物品の保証やら保険やらが必要ないのも素晴らしい。


 船乗り達もありがたがっているので、今後マーメイドへの偏見がなくなれば、一艘に数人のマーメイドがついて回る……なんて新たな海中警邏の形ができる日は近いかもしれないな。


「真珠の養殖業に関しても順調です。手先が器用なドワーフさん達が以前よりはるかに球体に近い核を作ってくれるようになってくれましたし、純粋な真珠としてではなくジュエリーとして加工して出すこともできるようになりましたので、今後はより高い売価で捌くことができるようになるかもしれません」


 ここ半年ほどの間みっちりと文官達に鍛えられ、今では俺よりも数字に強くなったリリィがドンッと胸を張る。


 基本はおっとりしているリリィではあるが、こと塩と真珠に関しては現在の彼女の右に出る者はいない。

 自分達の居場所を守るためならと本気で頑張っている彼女のおかげで、領内でのマーメイドの存在価値は急激に高まっている。


「それもこれもヴァルさんのおかげです。まさか真珠を作る方法があるなんて……」


「ははっ、聞きかじった話が合っていて良かったよ」


 この世界にも以前から真珠自体は存在していた。

 だが出現率はさほど高いわけではなく、アコヤガイをたくさん開いて中に小粒のものが入ってたらラッキーといった程度の封入率の渋いガチャのようなものだった。


 なので俺は前世の知識を使い、真珠の養殖を行ってもらうことにしたのだ。


 養殖真珠の作り方はわりと簡単で、貝殻から削り出した丸い核を作り、それを貝の外套膜(これは真珠を作る組織のことだ)の小片と一緒に母貝へ移植させるだけでいい。


 そうすると貝が異物として核を包み込み、真珠層が分泌されて真珠が出来上がってくれる。


 基本的に生き物が前世よりパワフルなこともあり、数ヶ月もすれば十分な大きさのものができあがる。

 アコヤガイの養殖と並行して行う必要はあるものの、サイクルもかなり早いので、生産が安定するまでにさほど時間はかからなかった。


 ただあまり大量に出し過ぎると値崩れを起こしてしまうので、今は国内だけではなく貿易を行っている商業連合などにも卸して出荷数を調整してもらっている形だ。


 その辺りの計算も全部リリィがやっているのだから、彼女には頭が上がらない。


「それでは私はそろそろ失礼させていただきますね」


 最近は仕事が楽しくなってきたのか、リリィは挨拶を残すとそのまま家を飛び出していった。


 マーメイドである彼女は既に自身で作った水魔法の球体の中に入っているため、水場のない場所で会っても自立行動が可能だ。


 窓を開けると、水をものすごい勢いで噴射させるアクアジェットの魔法で一瞬で遠くへ消えていく彼女の姿が見える。


 森の上まで飛び上がってから全力で魔法を使えば、フェリルに戻るまでには数時間もかからない。

 わかる、仕事が楽しい時期ってすぐにでも仕事に戻りたくなるよな。


「領地経営の方は、ようやく軌道に乗ってきたという感じじゃのう」


 基本的に人員の増加や収穫量の増加などに関しての対応も終わり、後は既に出来上がっている体勢で各々に頑張ってもらうだけで領内の運営は回ってくれるだろう。


 どうやら爵位も子爵のまま終わらせるつもりはないらしく、今後領民か税収が増えていく度に段階的に伯爵、最終的には辺境伯辺りまで上がる予定となっているらしいが、それもまだ数年は先の話。


 これでようやく……俺の方もこの世界のことに集中できる。



 領地経営によって軍事、経済的共にゆとりが出始めたため、今後は領地というリソースを使ってこの世界に携わることができるようになるわけだ。


 フレイム伯爵領を守るという俺の当初の目的は完遂したものの、戦いはそこで終わりではない。


 ――何せ本来であれば『スペル・シンフォニア』のゲーム開始地点は、今から二年半後のことなのだから。


「といっても、目の上のたんこぶが多いのが困りものだが……」


「まったく、人間の国には困ったものじゃのう」


 今後王国の魔物被害はどんどんと増えていくことになる。

 魔物を活発化させる力を持っている魔物達の王……魔王が、数百年ぶりに復活を遂げるためだ。


 魔王復活が既定路線である以上、今後の戦いが激化することは半ば確定している。

 なぜなら魔王が目覚める前に功を稼いでおこうというタリバーディンのような輩は彼一人ではないからだ。


 俺が一気にダート大森林を開拓し、予定より三年早くタリバーディンを倒してしまったため、既にこの世界は『スペル・シンフォニア』の世界から逸脱し始めている。

 魔族達の中にはより人間に本気で挑むようになってくる可能性すらある。


 だが俺は未だ、その動きを把握することはできないでいた。

 現状俺には手駒の数が少ない。


 父上や外患派の貴族達との関係は良好だが、魔王軍幹部はわりとめいめいが好き勝手動くことも多い。


 三年前となるとどこにいるか把握ができている個体は、動かずに魔族領に居続けている二人の魔族のみである。


 魔物の被害を食い止めるためにも、俺は既に内憂派、外患派の別なく魔物被害に気をつけるよう訴えているわけだが……現状、その成果はあまり芳しいとは言えなかった。


 皮肉なことに、俺が魔王軍幹部をほぼ完封してしまったことで、王国内に楽観論者が増えてきているからだ。


「……まあ、いずれわかるようになるじゃろう。実際に痛みを知らねば、人は危機感を覚えられぬ生き物じゃからな」


「そうなる前になんとかしたいというのが正直なところなんだがな……」


 現状は実際に被害が出ていないうちから動くのは……と、何も手を講じていない者達がほとんどだった。


 しっかりとガンガン軍拡やレベリングを行っているのはフレイム伯爵領くらいで、俺に好意的な外患派の貴族達であっても、多少軍備を増強する程度に留めてしまっている。


 たとえ俺と反駁している勢力だろうと、それが王国が持っている紛れもない戦力であることもまた事実。


 できることなら少しでも戦力を温存したまま、主人公であるガイウスに民衆を率いてもらいたいところではあるんだが……。


「たしかにカーミラが言う通り、待つしかないか……」


 『スペル・シンフォニア』においては魔王の脅威が大きすぎる人間は対魔王連合となって纏まるらざるを得ず、結果として他国との戦争は起こっていなかった。


 なるべくその通りになんとかしたいところではあるんだが……とそんなことを考えていた俺の下にある情報がやってきたのは、それから半月ほど後のことだった。


 王国東方にて多数の魔境と隣しているウェスペリダス辺境伯……彼の領地が魔王軍幹部の襲来によって、壊滅したらしい。


 既に世界は正史とは大きく異なる様相を呈し始めていた。

 なるべく『スペル・シンフォニア』開始地点までは必要以上の干渉はしないつもりだったんだが……どうもそういうわけにもいかないらしいな。

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