カイル
「なんとかなったな……」
「ヴァルが突然なんとかなれーって叫び出した時は、もう本当になんともならないと思ったものじゃがのぅ」
普段よりしっかりとした深緑のドレスを身につけているカーミラが、ワインに口を付けながらかかっと快活に笑う。
赤く長い髪がシックなドレスに映えていて、見ていて絵になる姿だった。
突如として大量にやってきた移民の受け入れと、それに伴うダート大森林の開拓。
それに伴う商人達の精査と文官達の採用試験。
認知度が増えることでやらなければならないことが一気にドカッとやってきた感覚だが、とりあえず大きな問題もなく全てを終わらせることができた。
というわけで今回はそれを祝うためのパーティーを行うことにした。
新たに雇われることになった文官達や、フレイム伯爵領からやってきてもらっている文官達、見定めた上で定期的な物資の供給の契約を行う未来の御用商人候補達なども含めた、大規模なものである。
いちいち上司の顔を気にしながらだと食事も楽しめないだろうという感覚は持っているので、会場はいくつかに分けてある。
今頃未来の幹部候補生達も、少し離れた場所で料理に舌鼓を打っていることだろう。
「ひとまず私達とも平和に対話をすることができていて良かったのです」
「少し距離を離しているのが奏功しているみたいだな」
少し悩んだが移民達に暮らしてもらう場所は、ダート大森林の浅層の東部にしてもらった。
ダート大森林の森を抜けてしばらく経った恵みの里まではかなりの距離があり、かつ向かうためには魔物のいる森の中を進んでいかなくてはならないからだ。
そこまでして獣人の里へ出向こうとする者は普通はいないため、結果として村を防衛してくれる獣人達の戦士達とゆるやかな交流をするに留まってくれている。
自分達を護ってくれているのが獣人だということを理解すれば、住んでいる人達も少しは獣人に好意的になるはずだ。
最初は色々と問題も起こるだろうが、時間をかければ両者の間のわだかまりも少なくなっていってくれることだろう。
ちなみにここまで色々と考えて気を揉んだのは、獣人や魔人が王国では珍しく、よからぬことを考える輩がやってくるかもしれないと思ったからだ。
そして残念なことに俺の予想は当たり、獣人を奴隷として手に入れようとする奴隷狩りと繋がっている男達や、貴族の愛玩動物として手に入れようとする違法なギャング達も移民希望者の中には混じっていた。
もちろん全員逮捕して、洗いざらい情報を吐かせたがな。
領民に手出しをしようという輩に、情状酌量の余地などない。
「全てヴァル様のおかげですね」
「いやいや、そんなことはないよ。ベルトも頑張ってくれたもんな」
「わふ!」
元気に皿の上に乗せられた骨付き肉にむしゃぶりつくベルトは、今回のMVPである。
純粋な活躍で言えば、多分俺を超えているだろう。
まずベルトは大量の家や試験会場を土魔法で作ってくれた。
移民受け入れや文官希望者の数が想像以上に多くなり手が足りなくなった状態で、誰一人として野ざらしで過ごすことなく過ごせたのは間違いなく彼の功績である。
土魔法は一般的には使えないと言われているが、ベルトほどレベルを上げると石造りの建築物を建てる程度のことは造作もなくできるようになる。
彼が作ってくれた大量の試験会場や小屋は、今後も別の形で再利用する形になることだろう。
更にベルトの活躍はそれだけでない。
悪辣な企みを持った者達を見抜き、その浸透を事前に防いでくれたのも彼だ。
嗅覚に優れるベルトは相手が嘘をつく時の匂いを嗅ぎ取ることができる。
どうやら嘘をつく際にいつもとは違う汗が流れるようで、そこで判別がつくようだ。
ベルトが事前に間諜を見抜いてくれたおかげで、俺が実際に見て確認をしなければいけない作業の量が大幅に減った。
感謝の気持ちを込めて、彼にはフレイム伯爵領でも最高品種と言われている前世ではA5に相当する牛肉を惜しみなく食べてもらっている。
今日の夜はしっかり全身の毛をブラシで労ってあげることにしよう。
「それと、カイルもな」
「……っす」
こちらに軽く頭を下げながら口の中を食事でパンパンにしている少年の名はカイル。
彼もまた、今回の難局を乗り越えるために一役買ってくれた立役者だ。
この二年ほどの間にわかったのだが、以前起こったシルバーウルフ達の集団テイム、それを可能としたテイムスキル持ちこそが彼だった。
彼は獣心を理解することができ、通訳のような形で魔物や動物の声をこちらに伝えることができる。
ベルトが嘘を見抜く力を持っていることを教えてくれたのも彼で、その力をフルで使い実際にベルトの言葉を翻訳して相手の嘘を見抜いてもらったのだ。




