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面接


 翌日、筆記試験を受けた会場にて結果が発表された。

 そこには当然ながら、オットーとフランシスの番号もあった。


 文句を付けようとする不合格者達は有無を言わせずに馬車に乗せられ、数人ずつのグループになって呼び出しを受けていく。


 続いて行われるのが面接試験だ。

 これを無事合格することができれば、晴れて文官として雇い入れられることになる。

 だがここまで来たことは何度もある。


 まだぬか喜びはするなと自分に言い聞かせながら、オットーは言いよどむことがないよう対応問答を頭の中で反芻していく。


 先に案内されたのはフランシスの方で、彼はこちらに軽く手を振るとそのまま別室へと案内されていった。


 試験内容の漏洩を防ぐためか、面接を終えた者達が会場に戻ってくることはなかった。


 食べた朝飯が喉を逆流しそうな緊張の中、ようやくオットーの番号が呼ばれる。

 五人の小集団になって、案内役の獣人に連れられた先にあったのは……。


「面接はあちらで行う。俺に付いてきて、言いつけを破ることがないように」


 なんと、ダート大森林の中であった。

 魔境の中で面接を受けるなどという経験があるわけもなく、受験者達は当然ながら動揺する。


 無論オットーも驚きはしたが、それを表に出すことはしなかった。

 こちらを見定める獣人の男を見れば、既に面接は始まっているのだとわかったからだ。


 自分を見て一瞬にやりと笑った男の案内に従い、オットーは彼の後へ続く。


 本気で仕官を求めているが故に明確に反抗するものはいなかったが、不服そうな態度を完全に隠しきれていない者もいた。

 だがそんな男達の表情は、森に入ってすぐに一変することになる。


「止まれ、決してここから動くな」


 瞬間、獣人が一人前へ出る。

 オットーは何も言わず言われたままの通りにし、その後ろを歩いていた男達もまたそれに続いた。


「KISYAAAAA!!」


 獣人の頭上から、三つ首の蛇が落下してくる。

 以前行われたダート大森林の開拓記録に目を通していたオットーは、出現した魔物の正体がすぐにわかった。


 Bランク魔物、トライサーペント。

 ベテランであるCランク冒険者ですら一息で殺してしまう、森林の暗殺者だ。


 一頭でも小さな村程度であれば壊滅させるだけの力を持っており、三つ首のそれぞれが人間の頭蓋骨程度であれば一呑みにできてしまうほどの大きさを持っている。


 その体長は人間よりはるかに長く、茶褐色と緑の混じった体色は木々と一体化しており、気付いた時には噛み付かれそのまま餌となる……はずなのだが、トライサーペントが襲いかかった刹那、獣人の姿が瞬時にブレた。


 そして次の瞬間にはトライサーペントの三つ首が全て断ち切られており、胴体から大量の血が噴き出しはじめる。


「……へっ?」


「こんな風に道中魔物が出るので、くれぐれも勝手な行動はしないように」


 気付かぬうちに腰に提げていたマチェーテを抜いていた獣人の言葉に、オットーは大きく頷く。

 先ほどまで嫌そうな顔をしていた受験者達も、ものすごい勢いで首を縦に振っていた。


 抜刀一閃、息を乱すこともなく淡々と魔物を処理していく獣人を前に、オットーは昨日のフランシスの言葉を思い出していた。


 決して裏切ることのない、精強な軍隊……思わずゴクリと唾を飲み込む。

 自分が仕えようとしている人の凄まじさを、自分達が通る痕に残された魔物達の死骸が語っている。


 幸い息を潜めながら小走りをする時間はさほど長くはなく、一度小休止を挟んだ程度で目的地へと辿り着いた。


 移動は小一時間ほどではあったが、オットーは全身にびっしょりと汗を掻いている。

 命の危険に晒され続けることが、彼の神経を想像以上にすり減らしていたのだ。


「それでは、こちらに順番にお入りください」


 用意されていたのは、やはり土魔法で作られている小屋だった。

 昨日の宿と遜色のないそこに入り、中にある椅子に座る。

 まず最初にオットー以外の二人が部屋の中に入っていった。


「それでは次の三人、どうぞ」


 そしてしばらくしてからとうとうオットーが呼ばれる。

 ゆっくりと扉が開かれるとそこには、彼が想像していなかった光景が広がっていた。


 そこにいたのは五人の人物と、そして一匹の狼。

 そのうち四人に関しては主要人物を叩き込んでいるオットーは当然理解している。


 今をときめく英雄閣下ヴァル・フォン・フレイムとその奥方である獣人のナナ、アマゾネスのカーミラ、そしてマーメイドのリリィ。


(なんと美しい……って、そんなことを考えている場合ではない!)


 初めて見る魔人の姿に思わず見とれそうになってしまったオットーは慌てて深呼吸をして気持ちを整えた。


 四人のことは知っているが、その右にいる小さな獣人の少年に関しては知らない。

 更にその少年の横に控えている白銀色をした狼がいた。


 普段なら見事な毛並みだモフりたいなどと思うだろうが、緊張が極限まで達した面接会場で狼がいるというのはさすがに想定外。

 オットーの頭はフリーズし、パニックを起こしかけていた。

 彼はアドリブには弱いタイプなのだ。


「ではまず始めに志望動機を聞かせてください」


 どうやらヴァル本人が面接を行うらしいとわかり、緊張感がより一層高まっていく。

 だがここが正念場だと、オットーは腹に気合いを込めた。


「はいっ、私がヴァル・フォン・フレイム閣下の下で働きたいと思った理由に関しましては……」


 それからはオットーも含めた三人に対して質問が始まっていく。

 幸い聞かれることはどれも想定していたものばかりであり、どもったり言いよどんだりすることもなくすらすらと言葉が出てきた。


 これで面接が終わるか……という段階で、ヴァルの隣にいる獣人の美少女、ナナが手を上げた。


「あなた方は獣人に対して隔意を持っていますか? 答えて欲しいのです」


 三人全員がそんなことはないと答える。

 その中には先ほど獣人の案内人に対して悪態をついている者もいた。

 続いてアマゾネスのカーミラとマーメイドのリリィが再び似たような質問をする。

 当然ながら三人は、獣人にも魔人にも隔意はないと答えた。


 オットーはそもそも亜人に差別的な人間ではない。

 それに加え自分が出自である種差別的な扱いを受けてきたからこそ、彼は他人を生まれや育ちで判断することを嫌っていた。


 能力が優れているのならそれが亜人だろうが魔人だろうが有効活用した方がいい。

 無能で生まれだけいいな人間より、貧乏だろうが有能な魔人を使うべきだと考える彼は、徹底した実利の徒であった。


「それでは最後に質疑応答に移りたいと思います。何か意見がある人はおりますか?」


 少し悩んだが、オットーは何も言わないことにした。

 質疑応答は自己アピールの時間だと勘違いしている受験生を見て、その気持ちはより強くなった。


 試験が終わると、再び昨日泊まった宿に案内される。

 お腹が減りに減って食事が出されなくなるギリギリまで待っていたが、昨日同室だったルームメイト達は誰一人として帰っては来なかった。


(あの二人は落ちたのだろうが……フランシスも、落とされたんだろうか)


 少しだけ悲しい気持ちになりながら、夜ご飯を食べる。

 昨日よりも人数が減ったからか、夕食を食べるホールは閑散としていた。


 今日の夕食は魚の干物とトライサーペントの肉、そしてパンだった。希望者にはワインも出ると聞き、遠慮無くもらう。


 噛むだけで歯茎から血が出そうなカチカチの黒パンではなく、歯を軽く動かすだけで噛み切ることができるふかふかの食パンだ。


 これをフランシスと一緒に食べ祝杯を挙げられたらどれだけ良かっただろう。

 そんなことを考えながら夕食を摂り、ゆっくりとベッドに入る。


 合格発表は今日と同じく明朝七時に行われる。

 自分の人生が明日決まるのだと思うと、目が冴えてしまい、とても眠れそうになかった。

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