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筆記試験

 試験は、そのままダート大森林の入り口にあるドーム型の会場で行われることになった。

 見上げるほどに大きな会場が、複数個用意されていた。


 案内に従い中へ入ると、その人数に圧倒される。

 このドームの中にいる志望者だけで、優に千人は超えているだろう。


 そしてここにいる者達の熱量はオットーが今まで見てきたどの採用試験よりも高かった。

 これが英雄のなせる技か……などと思いつつ、オットーも試験が始まるまでに最後の基礎チェックを終える。


「それではただいまより筆記試験を開始する。制限時間は六十分、解答時間が終わり次第筆記用具を机に乗せること。以上、始め」


 試験が始まると同時、オットーは紙をめくり問題に目を通した。

 一般的な算用術、この国の歴史……この辺りは問題ない。


 現在建国の王として讃えられているイレキ一世の『帝の凱旋』、この軍事的失敗について論じろ。


(『帝の凱旋』が行ったのは現地での徴発とそれによって得ることができた劇的な勝利。文官の採用試験である以上、おそらく兵站に関する未熟さを書くのだろうが……挑戦的だな)


 歴史の教科書にも偉業と書かれている初代国王の失策を論じさせるとは、なかなかに意地が悪い。


 これは答えることがそのまま政治批判に繋がりかねない、故に答えは白紙……などという日和った設問ではないはずだ。


 彼が受けた筆記試験には王国古文や現在の王国・帝国の原型となった大帝国の古文書、詩歌の講釈などといった貴族社会において重視されるものは基礎問すら一つも入っていなかった。


 一般的にどの採用試験にも含まれているようなものの半分ほどが入っておらず、残る半分に比重が大きく偏っている。


 しっかりと勉強をした人間は、設問から設定者の意図をある程度くみ取ることができるようになる。


 この試験は彼……ヴァル・フォン・フレイムが貴族相手に上手くおべっかを使える人間ではなく、真に文官として必要な能力を持っている人間である者を探している何よりの証拠であるように思えた。


(もっとも……ただそれだけではないようだが)


 前に立っている試験官こそ人間ではあるものの、後ろにいる者達や不正がないよう歩き回っている試験官の中には側頭部から耳の生えた獣人達の姿が見える。


 そして先ほどから彼らは手にしたボードに何かをカリカリと書きこんでいた。


 おそらくは獣人に対する偏見などが明らかに見られた場合は、問答無用で落とされることになるのだろう。

 自分が差別主義者でなかったことを、これほど頼もしく思ったことはない。


「それまで! ――36番と115番は失格、今すぐ出て行きなさい」


「なっ……俺はヘンケル伯爵家の人間だぞ! そんな横暴が……」


「試験が終わっても解答を続けるのは不正だ。不正を行う人間に、文官になる資格はない」


「ふざけるな……っ!?」


 なおも言いつのろうとする男の両脇を、やってきていた大柄な獣人達が抱える。


「離せ獣共、俺に触れるな……ぐっ! びくともせん!」


 そのまま足を宙に浮かされた男は、さんざんわめきながら試験会場の外へと連れ出された。


 馬鹿なことを、とオットーは自身の解答用紙を見ながら一人解答の確認をする。


 特に詰まることもなく、無事試験を終えることができた。

 難易度自体がかなり高かったので満点とは言いがたいが、おそらく他の候補生達に負けぬ程度にはできただろう。


「試験の合格結果は明日発表される。受験生達には夕食と宿が提供されるが、もしあてがある場合は外に出ても大丈夫だ。明朝七時に再びここに集合すること。以上、解散!」


(こんなところにあてがあるはずもない)


 試験会場となったのは、ダート大森林の入り口付近に建てられている土製のドームだった。


 事前に調べたところこの周辺にはいくつか開拓村がある程度であり、酒を飲めるような場所すらほとんどないだろう。


 どうやら皆同じ考えのようで、オットーを含めた受験生のほとんどが案内されるままに宿へと案内される。


 ドームから少し歩いて行ったところには、兵の宿舎を思わせる四角形の建築物があった。

 色は黒色で、大理石のようにつるりとしている。


 一流の使い手であれば土を性質変化させることもできると聞いたことがある。

 おそらく名うての土魔法使いが作ったものだろう。


 提供されたのは個室ではなく、いわゆるドミトリーベッドだった。

 一つの部屋に二段ベッドが二つ並び、四人で一室を使う設計になっている。

 中に入ると既に一人先客がおり、軽く手を上げて挨拶をされた。


「やぁ、初めまして。僕の名はフランシス……家名はあるが、この場では貴賤に価値はない。ただのフランシスと呼んでくれればいいよ」

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