脳筋
ナナとニーナにやるべきことをリスト化して伝えた後は、その監督をしてから北へと向かっていく。
この世界には通信網はまだ存在していない。
人員を配置して狼煙を連続で使って情報を伝えることも考えたが、ぶっちゃけレベルが高い人間が全力で走って伝令をする方が確実性が高い。
なので俺は一応は領主なのだが、各地を気合いで行き来することが多い。
無論ララと共に、道中に狩れる限り魔物は狩っていく。
素材がもったいない……この世界にもアイテムボックスはあるらしいので、なんとかして手に入れられないだろうか。
「お久し振りです、ヴァルさん」
「うむ、息災じゃったか、ヴァルよ」
「ああ、二人とも元気にしてたか?」
アマゾネスの女王であるカーミラとマーメイドのプリマドンナであるリリィの二人にハグをする。
基本的に水の中に入っているリリィは少し濡れているが、匂いを気にしているのか磯の匂いはまったくせず、ふわりと石鹸の甘い香りをさせていた。
とりあえずいい時間なので、皆で一緒にご飯を食べることにした。
新鮮な海鮮はここに来た時しか食べられないので、俺のひそかな楽しみの一つである。
「お待たせしました~」
ララが集落のマーメイド達と一緒に作ってくれたのは、大量の磯焼きである。
浅瀬の辺りには大量の貝類がいるため、出される者の種類は非常に豊富だ。
カキにサザエにミル貝や赤貝、バチリと音を鳴らす貝の中にはウニの姿もある。
それらをさっと焼いたら、上から魚醤を垂らす。
この世界には未だ醤油はないが、一部の漁師の間で作り方が広まっている魚醤は存在していた。
魚醤は素材が魚であるため醤油と比べると生臭さや独特の癖のようなものがあるが、言うなればオイスターソースのようなもの。
それ自体がいいアクセントになるし、魚介類と一緒に食べる分にはまったく気にならない。
付け合わせには魚介のカルパッチョが並び、目の前のテーブルには俺専用に作られた鯛のお造りがある。
これは……絶景だ。何度見てもいい。
「うむ、美味い! 美味いのじゃ!」
美味く取り出すことができずリリィに取ってもらったサザエを頬張りながら、楽しそうに笑うカーミラ。
その横でリリィはそっとわたを捨ててから、ぶりんぶりんの生牡蠣を美味しそうに食べていた。
「生牡蠣か……俺も食べたいが……」
腹の中にいる菌まで活性化させてしまうからか、この世界の回復魔法では食中毒を治す手段が存在しない。
あまり忙しくなければ食べたいところではあるが……残念ながら俺には先の予定が詰まっている。今回は我慢だ。
「刺身は何時食べても美味いな」
魚醤を付けながら、綺麗にカットされた鯛を一切れ食べる。
噛み切ろうとするとむちっと柔らかい弾力を返してくるこの食感が美味いのだ。
そしてその淡泊そうな見た目に反して、噛めば噛むほど味がしみ出してくる。
以前食べていた回転寿司のそれとはまったく比べものにならない。
気付けば丸々一匹分を食べ終えてしまった俺は、そのまま鮭の刺身をつまみながら焼き牡蠣の滋味に舌鼓を打った。
「ふう……食べた食べた」
食事を楽しんだので、そのまま仕事の話に戻ろうかと思っていると、リリィがそれに待ったをかけた。
どうやら食後のデザートを用意しているらしい。
「これ、デーツのドライフルーツです」
どうやらアマゾネスと獣人達と交易の規模が広がるようになったことでここら辺にも果物が流通するようになり、マーメイド達はそれを使ってドライフルーツを作り始めたらしい。
早速一つぱくりと食べてみると、ねっとりとした甘さが口の中に広がった。
柿を思わせるような濃厚かつわずかに青臭さの残る後味。
それに一匙の塩味が効いていて、後引く美味さに仕上がっている。
「この辺りで乾燥させているからか、軽く塩気が効いているのがいいな」
塩気があることで、甘さを引き立つ、塩キャラメルやスイカに塩を振るのと同じ理論で甘みを強く感じやすい。
この世界では砂糖が高すぎるので、代替的に使える甘物の需要は高いだろう。
「保存も利くだろうし、売ればかなり人気が出ると思うぞ」
「それは良かったです」
リリィは嬉しそうに笑っていた。
当然ながら彼女達にも、今後俺が領主として人間達をダート大森林に入れることは伝えてある。
リリィやカーミラは元から人間との交流があるため、ナナ達ほど神経質になっているわけではない。
むしろ彼女達はそれならどうやってそこから利益を得られるかと、俺に積極的に話を聞いてきている。
今回ドライフルーツを出したのも、俺が以前塩気の効いた干し柿が美味かったという話を覚えていたからだろう。
「まあ塩があるから、マーメイドは安泰だと思うけどな」
揚浜式製塩によって、現在マーメイドが暮らす地域では製塩が積極的に行われている。
実際領内で消費する分は外から購入することもなく賄えており、最近ではいざという時のためのストックもしっかりと溜まりつつあった。
ちなみに最初に試したは獣人やアマゾネス達にやらせたが、今では塩作りは完全にマーメイド達に任せている。
わりと適当なところのある彼らに任せてたら、間違いなく探りに来た他領からの密偵に製法がバレるだろうからな。
現在はマーメイド達に、人目につくことがないような岩礁や無人島で製作をお願いしている。
マーメイドにのみ伝わる秘密の製法で作ったといって、付加価値をつけて売るつもりだ。
「あっちの方はどうだ?」
「それも上手く行っています……これがその試作品第一号です」
手渡された木箱をゆっくりと開き……中に入っているものを見て、にやりと笑う。
「クオリティも十分だ……これなら十分売り物になるだろう」
「ううむ、妾達も何か作れたら良いんじゃがのぅ……」
色々と試している様子のマーメイド達を見ながら、カーミラが唸り声を上げる。
たしかに海のスペシャリストであるマーメイドと比べると、アマゾネスが外貨獲得のためにできることは限られてしまう。
「一応その辺りのことも考えているぞ」
「本当か?」
「ああ、アマゾネスは脳筋だからな。腕っぷしを使えるように、この辺りに冒険者ギルドを招聘するつもりなんだ。そうすれば素材の売却で生計が立てられるようになるだろ?」
実は現在父上達に取り纏めてもらっているのは、実は領民希望者や仕官希望者だけではない。
人が動くところには必要なものも増えるため、利に聡い商人達や、ダート大森林の高ランクの魔物素材に目を付けている冒険者ギルドの関係者達。
ここ最近俺が領地中を駆け回っているのは、彼らへの対応のための部分が大きい。
ダート大森林へやってくるまでに、そう時間はかからないだろう。
それまでに彼らがあっと驚くだけのブツを用意して、領内に人と金を呼び込む。
これもまた、領主としての腕の見せ所だ。




