数少ない知り合いに会いました。
王様御依頼の〝初めてのお使い〟を終え、帰路に着く俺だが迷っていた。
このまま城に帰り王子の元へと再び転移魔法で戻るか、ちょっとだけ自分の屋敷に戻って皆んなの様子を見てから城に戻るか…
ミュラー伯爵邸から城に向かうのは簡単だ。
来た道を戻るだけでいいから。
でも、自分の屋敷に戻るとなると…どっちに行けばいいのかさっぱりわからん。
なんてことを考えながら、ミュラー邸から一区画ほど離れた歩道でちょっとだけ考え込んでいたら誰かが近づいてくる気配を察知した。
しかも数人だ。
こんな時間のしかも貴族街で誰? と思ったが、何やら話し声まで聞こえてきた。
悪いことをしようって場合は大抵は静かに行動するもんだ。
そうじゃない場合は、堂々と足音をさせ会話も普通にするもんだろう。
てことは、こいつらは多分悪い奴らじゃないってことだろうな。
多分…
俺は塀の影で声のする方を観察していたところ、何やら聞き覚えのある声が。
そこで俺はピンと閃いた。
コレはぜひ、この知り合いに道案内を頼もうと!
そう思った俺は、被っていた石仮面を外しいそいそと彼らの方へと歩いて行った。
「こんばんはー」
「!!」
先頭を歩いていた衛兵隊長であるボリスは、急に声を掛けられビクリと反応し立ち止まった。
そして腰の剣に手をかけ声のした方に向かって身構えた。
「あー… 怪しいけど怪しくないよ。俺俺、幽霊屋敷の男爵」
俺はフードを外し、両の手のひらを見せながらヒラヒラと振り、努めてにこやかな笑顔を向けた。
最初は眉間に皺を寄せて俺を見ていた先頭の衛兵は、すぐに構えを解き「はぁ…」と俺にも聞こえるくらいのため息を吐いた。
「あなたですか…」
ボリスはそう呟き後ろの隊員に構えを解くように身振りで示し、ゆっくりと前に進んだ。
「こんな時間にこんなところで何をなさっておいでで…」
「堅い堅い、知らない仲じゃないでしょうに」
俺はわざと彼の言葉を遮りおどけた感じで話しかけた。
「いやいや男爵、そうおっしゃられましても…」
ボリスは苦笑いをしながらそう言って後頭部をポリポリと指で掻いた。
後ろの衛兵たちも困惑顔だ。
「あーわかったわかった…まぁしょうがないか… で、聞きたいことがあるんだけど」
俺は空気を読んで堅い堅くない論争をさっさと終わらせ、こっちの言いたいことを伝えようと数歩近づく。
「なんでしょう」
先頭の衛兵がそう言って俺の目をじっと見ている。
うーん…何か疑われてる? ま、こんな時間に貴族が街をウロウロしてたら怪しいもんね。
そういえば…この人、なんて名前だっけ?
「実はさ、野暮用で来たんだけどさ、ここら辺初めてでぇ、迷っててさ」
ボリスの眉間に再び皺が刻まれる。
「…ここへはどうやってきたのですか?」
「これこれ」
俺は貰った地図を見せた。
それは城からミュラー邸への簡単な地図だった。
その地図を一眼見ただけで、ボリスは野暮用の意味を察したようだ。
「…はぁ… ダメですよ、こんな重要なもの、人に見せちゃ」
ボリスは痛くなってきた頭を垂れにこやかに立っている男爵にそう忠告した。
「まぁそうなんだけどさ、コレ見せないと納得しないでしょ?」
俺はそう言ってアハハと笑う。
後ろの衛兵たちはさらに困惑顔だ。
「君なら黙ってて…いやいや、先に伯爵が大々的に発表するか」
「治したんですか?」
「そりゃそのために来たんだし、王命だしね」
「…王命…」
「あ、コレは内緒ね」
俺はニッコリと笑って口の前に人差し指を一本立てて衛兵たちに見せた。
衛兵たちはギクリと固まった後、すぐに小刻みに数回うなづいた。
自分の後ろの衛兵たちの行動と見ながらボリスは「はぁ…」とため息を吐き
「で? 聞きたいことってなんです?」
と聞き返した。
俺の行動に呆れたせいか、ボリスの言葉遣いが普通になっていた。
「実はさ、ここから屋敷に帰りたいんだけどさ、全っ然方向がわからなくって…」
俺はそう言ってまたアハハと笑って見せた。
ボリスはすぐに近づいてきて
「…王命の結果をすぐに報告しなくていいんですか?」
と小声で指摘してきた。
「いいんじゃない? 俺も急に呼び出されて帰って来た身だし。少しぐらい遅くなっても文句は…言いそうだな…」
「…」
俺は彼と数秒間、見つめ合った。
特に何も起こらず会話が途絶えただけだった。
「…えーと…そういえば衛兵さんの名前、聞いてなかったけど…聞いてもいい?」
俺は沈黙に耐えられず話を変えた。
「あ、えぇ。私は北貴族街保安衛兵部隊二番隊隊長ボリスと申します」
彼はそう言って綺麗な敬礼をしてきた。
俺は反射的に返礼をしてしまった。
…合ってる?
「でボリスくん…俺んちってこっから遠いの?」
いろいろ心配になって来たけど一応聞いておこう。
「いえ、歩いて20分は掛からないかと」
彼の言葉を聞いて俺はちょっとだけ考える。
20分…微妙だわ。
行って戻ってだと1時間は掛かるな。
うーん…今回は素直に城に戻るか…?
なんて考えていたらボリスが急にポケットから何やら取り出し耳を当てていた。
皆その行動に気づいたようで一斉にこっちに顔を向けた。
「……」
彼は真剣な表情で俯いていたが、すぐに顔を上げ後ろを向き
「第三隊から応援要請が入った。何やら騒動が起こったそうだ」
彼はそう静かに言い、俺の方に向き直った。
「男爵、どうやら幽霊屋敷で何かあったみたいです。同行しますか?」
「もちろん!」
俺はそう即答し、にこやかに笑う。
彼はそんな俺を見て苦笑いをし
「これから現地へ応援に向かう。場所は例の幽霊屋敷だ」
「はい」
全員が一斉に走り出した。
俺はそれについて行くだけだった。
俺の屋敷で騒動? なんだろ? また除霊とかかな?




