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初めての治療なのでうまくいって欲しいよね。


俺は〝探査〟の魔法を行使し傷の程度を探る。

「……」

どうやら出血も傷の進行も、何もかも止まっているようだ。

ただし、心臓や肺は機能しているようだ。

これが、このためにかき集められて交代で行使し続けている〝治癒魔法士〟たちの効果のようだ。

が、なぜか〝快方〟へ向かっている気配がない。

これだけの人数でひっきりなしに行使し続けているのに、だ。

うーん…何か〝治癒〟を阻害する原因があるのだろうか?

結果、傷口の中心以外の魔法の効果が薄い部分から徐々に腐敗が進んでいるようだ。


「今から腐敗している部分を切除するために刃物を出します。よろしいでしょうか?」

と言った。

「あぁ、よろしく頼む」

と患者である少年は落ち着いた声で応えた。

「では」

と言って懐から小刀を出す。

誰かが〝ゴクリ〟を唾を飲む音が聞こえた。

「切ります。痛みはないはずです」

俺がそう言ってから少年の傷口の淵を小刀で削ぎ落としていく。

そして切り落とした腐敗した肉をさらに懐から出した金属製のトレーに捨てていく。

俺が一回削ぎ落とすたびに

「おぉ」とか「あぁ」とかの短い悲鳴が混じる。

本人は全然痛みを感じていないけど、見てる方のが痛そうだ。


ん…?


何かがありました! 傷口の中ほどの骨の横に!

……

なんでしょうか? この小さい物体は…

金属っぽいぞ、これ。

大きさは…2mmくらいか?

俺は懐から物入れを出し、蓋を開いて中から竹で作ったピンセットを取り出す。

それを使って慎重にその物体を摘み出した。

そして、それをジッと見つめる。

……

やはり金属片のようだ。

…刃こぼれした剣の欠片…ぽい。

しかも何やら邪悪な気配を感じる。


『あぁ、これは〝呪の黒魔術〟が施されておりますね』


突然、横から念話でそう話しかけられる。

視線を向けると真っ白な光の中に〝白ちゃん〟がいた。

『きゅ、急に現れないでよ』

『いえいえ、一応、白魔法をお教えした身としましては、生徒さんの正式な最初の治療は見届けないと』

そう言って、柔らかな笑顔を向けてくる。

…この人、表情からは想像できないくらい頑固なんだよなぁ…… 人じゃないけど。


「…治癒師殿?」

患者であるヨハンくんが急に聞いてきた。

そりゃそうだよね。

急に光り輝く何かが自分のすぐ横に出現したんだから。

「あー…… 」

なんて説明しようか?

…いや、正直に言おう。


「ミュラー伯爵、実は白精霊が来まして、治癒の手伝いをしてくれるそうです」

「そ、そうなのですか? 精霊様が?」

今まで落ち着いた雰囲気で若くてもしっかりした当主、を演出していたのだろう、予期せぬ出来事に遭遇してしまったせいでちょっとだけ地が出てきちゃったようだ。

「この光が!?」

「せ、精霊様が?」

「おぉっ! 奇跡か?」

などの言葉が飛び交う。

爺さんなんか一番驚いているようだ。

執事さんは…表情が読めん。


「えぇ、で、その精霊様がこれを見つけてくれました」

と言いながら先ほど傷口から取り出した〝欠片〟を見せた。

『三畑様? 発見したのは私ではありませんが?』

『いいのです、そうした方がウケますので』

『……』

沈黙は了解と取ります。


「…コレは?」

ヨハン様、怪訝な表情で俺の差し出した手のひらを見つめてくる。

「そこで、白の精霊様に欠片の正体を判別してもらいました…」

『…それは合ってますね』

精霊が穏やかな笑顔になった。

「多分ですが〝呪〟の術が練り込まれている剣の欠片かと思われます」

「え?」

「なっ!?」

小声でヨハン様にそう伝えると、本人よりご隠居様の方から結構な反応が返ってきた。

「この欠片のせいで傷口の治癒が妨げられていた可能性が高いですね」

そうなのだ。

これだけの人数で中級とはいえ〝治癒魔法〟を満遍なく行使し続けたにもかかわらず全く傷口が良い方向に向かっていなかった。

どう考えてもおかしいのだ。

「……」

ヨハン様、難しい顔をしている。

「ぐぬぬぬ」

ご隠居様は恐ろしい形相で唸っている。

刃傷沙汰どころか呪いの剣で斬られるなんてこと、あってはならないことだからだ。

「…」

ヨハン様が長考している。

あらゆる可能性を考えているのだろう。


「すみません、コレ、預からせてもらってもいいですか?」


ヨハン様がなんかスゲー丁寧にそう言ってきた。

「えぇ、ミュラー伯爵の体から出てきたものですので… まぁ…俺が持っててもしょうがないですしね」

俺はそう言って欠片を渡そうとした瞬間、

『コレに入れて渡したほうがいいでしょう』

と言って白精霊のシロちゃんが手のひらを俺に向けてきた。

するとそこには小さな白い指輪ケースのような箱があった。

『コレに入れておけば〝呪〟の魔素が漏れ出したりしませんので』

『ありがとう。さすがはシロちゃん。気遣いがすごいね』

と言って箱を受け取る。

『……』

シロちゃんの頬がほんのり赤く染まる。

そういうところは素直なんだよね。


「コレは魔素の通りを阻害する素材で出来た箱です。これに入れておけばいろいろ安全だと思いますよ」


箱を受け取ったヨハン様は、それをじーっと眺め

「…いろいろ…ですか…」

「はい。ミュラー伯爵の今後など…いろいろと、ですね」

「あー…治癒師殿、その…ミュラー伯爵というのはちょっと堅苦しいので…ヨハン、と呼んでもらえないか?」

と言ってちょっと照れた感じで小箱を枕の横に置いた。

「えーっと… わかりました。では、ヨハン様で」

こちらを向いたヨハン様の顔が笑顔になっている。

漫画的には〝パァ〟とかの擬音が背景に付きそうだ。

それはそうと、俺の勝手な想像だが、ヨハン様…いや、ミュラー家はコレを王室に対する切り札の一つとして使うのだろう。

数年後は、今の第一王子が王様になっているはずだしね。

その時、何か無理難題を押し付けられた時とかには、この〝欠片〟はきっと役に立つだろう。

…まぁ、そうならない未来もあるだろうけどね。


「では治療を続けます」


さてと、邪魔者は取り除いた。これからが本番だ。

大きく開いた肩口の傷口を、逆回転映像のように元に戻す。

ただ、傷口が大きいのでゆっくりと進める。

「おぉ…」

誰かが感嘆の声を上げた。

欠片を取り除いたせいか、順調に治療が進む。

…血管…神経…筋肉…

ゆっくりと確実に成長させ繋げていく。


『腕は鈍っていないですね。素晴らしいです』

シロちゃんがそう言って褒めてくれる。

ちょっとむず痒い。


…うん いい感じです。

えぐれた肺の部分も順調に進む。

俺は1時間ほどかけ、完全に傷口を塞いだ。


「…終わりました」


ちょっとだけふらつく。

まぁ、軽い〝魔素酔い〟状態になったようだ。

が、最初の患者さんにしては満足いく治療が提供できたと思う。


「あ あぁ…」


ヨハン様は自分の肩を撫でている。

表情は〝呆気に取られる〟という表現がピッタリかと思える感じの顔だ。

「い、痛みとかは…ないのか?」

たまらず爺さんがヨハン様に問いただした。

「いや…お爺… なんだか夢を見ているようだ…」

お爺はグイッと身を乗り出しヨハン様の傷口だったところを凝視する。

「こ…こりゃあ…」

と言ってゴクリと大きく唾を飲んだ。

そしてギロリといった感じの視線を俺に向け

「で でかした!!」

と叫び俺の肩をバンバン叩き始めた。

「……」

かなり痛いがそれを言える状況ではないと悟った俺は黙って半笑いの状態を…あ、俺の顔ってみんなには見えてないんだっけ。

「伯爵、治療は終了いたしました。あとは寝て、食べて体力を回復してください」

それはそう言いながらベッドからゆっくりと降り辺りを見回す。

泣いているもの、抱き合って喜んでいるもの、疲労困憊の中でも優しい笑顔を浮かべていいるもの。

様々な表情が見て撮れた。


「ミュラー伯爵。これで私はお暇させていただきます。お疲れ様でした」


俺はそう言って深く頭を下げると扉の方へと歩を進める。

「治癒師殿、ありがとう。おかげで命を取り留めることが出来たよ」

ヨハン様はそう言って穏やかに笑った。

「もう横になってください。かなりお疲れのご様子ですので」

俺はそう言って笑顔を返す。

「あぁ、改めてありがとうと言わせてくれ。また会えるかな?」

ヨハン様は今度はイタズラ小僧っぽい笑顔でそう言った。

「…どうでしょうか…また会える時はまたお怪我をした時かもしれませんしね。あまり再会を望まれるのは…」

俺はそう言ってから

「では、失礼致します」

と言って再び頭を下げ扉のノブに手をかけた。


「治癒師殿、ご苦労であった。裏口まで送ろう」

するとお爺こと先先代のミュラー伯爵がずいっと進み出てきた。

「いえいえ、お気遣いなく」

と言ったが彼はもう俺のすぐ横にいた。

「ちょっと、話もあるので、な」

そう言って俺の肩を掴み自ら扉を開けてふたりで一緒に廊下に出た。


隠居した元ミュラー伯爵が、ズンズンと俺を押す形で廊下を進む。

その後ろに俺を案内してくれた執事が続く。


そして1階の廊下に降りた時点でミュラー翁が口を開く。

「で? あの欠片の件、治癒師殿はどう見る?」

いやいやいや! あれは俺の専門外だって!

「いやぁ、黒は専門外ですので…」

「うむ、では聞き方を変えよう。お主は第一王子が教会派なのは知っておるか?」

「まぁウワサ程度では…」

「うむ、でだ、その子分が黒系の剣を所有しておることに疑問は感じぬのか?」

おいおい、ストレートだな、爺さん。

ここで俺が『おかしいですね』なんて言ったら…いや、いいか。俺はどう見ても第三王子派だしね。

いや待て! 俺の正体、バレてる前提で考えてたわ。

バレてないんだから… どっちだって構わないか。

「おかしいとは思いますが、あの方もだいぶ変わった方ですからねぇ」

「ぷっ! 良いのか? お主、王の依頼で来たのではないのか?」

おっと、そうだったわ、すっかり忘れてたわ。

「そうでしたね、忘れてました。でも今は現王直属ですので王子は関係ないですね」

爺さん、目を見開いて俺を凝視している。

「…とはいえ現王は第一王子を次期王にとしておるぞ」

「まぁ、そうなったらそん時に考えますよ」

「ふん、貴族っぽい答えではないな、お主、何者だ?」

「私は治癒師です。謎の」

俺がそう言うと

「ぷ、ガッハッハ!」

と豪快に笑い

「そうであったな! 謎の治癒師であったわ! すまんすまん、余計なことを言ったわ、許せ」

そう言ってまた俺の肩をバンバン叩き始めた。

そしてその勢いのまま俺の肩を抱き

「ところで、だ。今回の…その…カネの件…だが…」

と耳元でそっと呟いてきた。

俺は爺さんの顔を見ないで

「治癒の料金は心配しないで大丈夫ですよ。王様直々の依頼ですので王様からしっかり頂くつもりですので」

と言った。

途端に爺さんの動きが止まり、俺の肩を掴む手にさらに力がこもった。

「……」

「まぁ、王様直々に、この私に、依頼してくるってことは、公にはしたくないってことでしょうしね」

俺がそう言った途端、爺さんの力がスッと抜けた。

「…わかった。お主の言葉、信じよう」

そう言って俺の肩をバンと一回叩き

「もし、何かあったらワシを頼れ。できるだけの事はしよう」

と言ってくるりを背を向け階段を上がっていった。

…あれ? 裏口までって… てのは方便でお金のことが聞きたかっただけなのね。

いや、やっぱり孫が心配なんだろうね。

ふふ、正直すぎて怒れないわ。

気づくと例の執事が俺の横に来ており、どうぞと言わんばかりに軽く腰を折った状態で右手で行く手を差し示していた。

俺はゆっくりとさっき入ってきた裏口へと歩き出した。


さて…王様からいくらふんだくってやろうか…


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