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6話 密約と密命

章明23年 9月上旬 某日 ヴィトゥス海 上空


『参照点到達。これより、蕪良(かぶら)隊から柚雅隊への給油を行う。給油管は既に展開している。柚雅隊各機は給油位置へ移動してくれ』

『柚雅隊、了解』


 先日来たセミョン岬の辺りで空中給油を行う。本日3度目の空中給油だ。行き3度、帰り3度の空中給油が設定されており、行きはこれで最後。ここからは隊長と自分の2機のみでの行動となる。


『じゃあ、また後で』

『ああ、また後で』

『墜ちると風邪じゃあ済まなそうなところです。墜ちんでくださいよ』

『それは御免被りたい』


 雑音混じりの無線越しに軽く冗談の1つでも交わしてから、引き返す友軍機を見送った。


『さて、ここからが本番だな』

「燃料は……一応、大丈夫ですかね」

『予定より1秒でも長く居たら、帰りは泳ぎになりそうだな』


 軍務省特殊逓信部によって命が下され、開かれたこの特殊作戦、「離混作戦」。


 参加している自分自身、よく分かっていない作戦だ。ほぼ拒否権の無い、そして作戦の根幹さえ明かされていない作戦。あまりにも不明瞭なところが多い。


 そもそも軍務省特殊逓信部自体、よく分かっていない政府機関だ。軍務省はかなり前にあった陸軍省と海軍省が一体化した大浜綴帝國の軍政を管轄する機関であり、そこはまだ分かる。附属官庁に航空部、技術本部、兵器廠、造兵廠、科学研究所、被服廠、糧秣(りょうまつ)廠だったり、内局に大臣官房、人事局、軍務局、整備局、兵器局、経理局、医務局、法務局などがある。空軍が設立されるまでは陸海軍部などに分かれて存在し、空軍ができてからは空軍部が発足したり……軍事行政は現場よりは対立構造になってはいない。また外局もいくつかあるが、あまり覚えていない。その覚えていない外局の1つが特殊逓信部だ。


 特殊逓信部と言っても、どのように特殊な逓信を行っているのか分からない。そしていくら軍務省とはいえ何故俺たちに命令できる権限を有しているのかも分からない。


 先の作戦説明で分かったことと言えば、浜綴とメラシアである密約が交わされていたということだった。メラシア政府はこの作戦について理解しており、この作戦機が多少領空を侵していても目を瞑るということがその密約の内の1つということらしかった。


 ……いくら政治の話であろうこととは言え何故、実行部隊が分かってないのに、他国は知り得ているのだろうか。そして何故、実行部隊員に作戦内容は秘匿しているのに密約のことはバラすのだろうか。政治判断、複雑怪奇。


『参照点通過。もうすぐ……次の参照点でパーラメント連邦の領空域に入る。パーラメントのレーダー網に掛からないように、低空飛行へ移行するぞ』

「了解した」


 こちらのレーダーも対地、低空用のものに切り替える。


『さーて、“現地職員”との通信帯域は、っと……』


 離混作戦の主幹要素である「北極海からパーラメント連邦のある島……ノヴァヤ=セヴァルナヤ=ゼムリャ島の偵察、そして要請がある場合指定の箇所への攻撃」という任務。それにおける「要請」というのは、パーラメント連邦の島内に特殊逓信部の職員が行うらしい。


『あー……逓信部員は応答せよ、こちら帝國空軍、第401飛行隊、柚雅隊。繰り返す、こちら帝國空軍第401飛行隊、柚雅隊。逓信部は応答せよ』


 この作戦で自分たちと特殊逓信部を結ぶ通信は比較的広範囲での通信に適しているものを使っている。


『――ッッッ……こ-ら、軍務-特殊-信部の加納だ。帝-空軍の-雅隊、聞こえ-か?』

『ああ、聞こえている。こちらに何かすることはあるか?』


 先ほど以上の雑音で、声色で個人を認識できないくらいだが、それでも言葉の内容は理解できる程度には聞こえた。


『今は-だ良い。それま-はレーダー網-捕まらないように飛-でいてくれ』

『了解だ。しかしこちらも燃料がギリギリのところで飛んでいる。出来ることなら早めに頼む』

『……分-った』


 通信相手との距離が縮まってきたからか、少しずつ徐々に雑音が減っていった。


『こ-ら、特-逓信部の加-。柚雅隊、聞こ-るか?』

『こちら柚雅隊。どうした』


 飛び続けること数十秒、向こうからの通信が繋がった。


『15秒後-島南側の対-レーダーにわざと引っ掛かる様に飛-でくれ。警報を鳴らしてくれたら-れでいい』

『了解した。『理沂』、行くぞ。引っ掛かりやすくするために速度も落とす』

「了解」


 よく分からない命令だが、それに従う。


『解決し-。礼を言う』

『そりゃ良かったが、こちらもそろそろ引き上げないと、泳いで帰ることになりそうだ』


 命令に従い数秒と経たない内に、“コト”は解決したらしい。


『勿論理解して-る。それなら……クソッ、こちら加納! 応答せよ! チッ……緊急用の-避路は残しておい-がその所為で警備兵に知ら-たか……』


 何やらブツブツ言っているが、どうやら下手を打ったらしい。


『唐突です-ないが、そちらの誘-弾は使えるか? 対地-撃を要請したい』


 そしてその尻拭いは、こちらで解決することになってしまったようだった。

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