7話 尻切れトンボ
章明23年 9月上旬 某日 北極海 上空
『唐突です-ないが、そちらの誘-弾は使えるか? 対地-撃を要請したい』
下にいる特殊逓信部員から何らかの尻拭いを頼まれてしまった。だが、それには1つ問題があった。
『こちらに搭載している誘導弾は全て対空誘導弾だ。対地誘導弾じゃない。威力が無いので指定する目標の破壊には至らない可能性は高い』
凰奏は対地誘導弾を搭載可能で自分たちの搭乗する乙型も例外ではないのだが、現在柚雅隊の2機に搭載されているのは自衛用の対空誘導弾各2発ずつ、それだけだった。
この作戦の真の目的とやらは分かっていないが、取り敢えず自衛用に対空誘導弾は残しておきたい、対地誘導弾を搭載すること自体は可能。だが、そうすると航続距離に不安が出てくる、という話だったような気がする。
『別に-れでも良い。連中を怯ま-ることができたらそれで構-ない』
目的は攪乱らしい。なるほどそれなら攻撃を仕向けるだけでいいはずだ。だが――。
『これ、戦争になったりしないか? 彼らにとっても辺境ではあるだろうが、他国の戦闘機が自国に向けて弾を撃ったら大事だろう』
隊長が自分の思考を遮って無線で下に投げかけたのは、当然の疑問だった。
『これは君らには分から-だろうが……この島にはパーラメント連-の重要な軍事機密の隠されている実験場-な、多少の攻撃を受けたと-ろで我が国に向けて攻撃は出来ない。その機密を他国にバラすことになるし、機密を守っ-いた人間は内部で干される可能性が出てくる-らな。どうしても事故に見せかけるだ-うさ。そ-に……パーラメント連邦はまた別の国に戦争を仕掛けようと-ているらしい。その忙しさもあるが……。兎に角、対地攻撃-してもらえないか?』
『……分かった。目標を指示してくれ』
こんなところに呼ばれて来ている時点でなんだが、自分たちは思ったよりも政治のとんでもないことに巻き込まれてしまっているらしい。
それはそうとして、“仕事”をすることが是となった。
『島南東部に大きな鉄-櫓みたいなレー-ー装置が2つあるが、片方には近-に宿舎みたいな建物があるはず-。第一目標としてその建物、第二目標-して鉄の櫓のレーダー装置の破壊を頼-たい。鉄の櫓は最悪当たらなくても良いが、宿舎みたいな建物の方については当て-くれ』
『了解した。『礬床』から『理沂』、行くぞ』
「『理沂』了解。どっちがどっち撃ちます?」
『うむ……建物の方を頼む。こちらは離れているレーダーを攻撃する。そちらが外せばこちらがもう1発ぶち込む』
誘導弾を撃つだけとはいえ、外せない緊張を感じながら操縦桿を握りしめた。
『そろそろだな』
「発射準備を開始します」
『そっちは頼んだぞ。こちらは向こう側に行く』
そうこうしている間に件のレーダー施設が見えて来た。“そのとき”が来た。
「弾頭誘導装置の冷却……確認。誘導装置……確認。発射準備……良し。誘導照準装置展開、誘導開始」
ピ……、ピ……、ピ……、ピ……、ピ…、ピ…、ピ…――
「……っ!」
誘導装置の音に思わず、喉が鳴る。
ピ…、ピ…、ピ、ピ、ピ、ピ、ピピピピピ――
誘導装置の音が、照準が合いつつあることを告げる。
そして目視に於いても誘導弾が向かうであろうことを確認し、身体全体の感覚を研ぎ澄ませた。
「柚雅隊2番機、誘導弾発射、発射」
翼に取り付けられた誘導弾は轟音を立てて勢いよく射出され、レーダー施設へ向けて飛翔していった。
その後、間髪を入れずに閃光、爆炎、衝撃。
「『理沂』発射弾、弾着」
『『礬床』発射弾、鉄塔に命中、崩れていく。……『理沂』の方も命中しているな。施設から煙と炎が出ているのが見える。鉄塔型のレーダーも折れているのが分かる。やったな』
「ありがとうございます」
『特殊逓信部の加納さんとやら、これで良いな?』
『加納から柚雅隊へ。ありが-う、助かった』
何の仕事をしているのかは分からないが、取り敢えずは助けることが出来たらしい。
『そろそろ帰って良いか? 燃料が心許なくてな』
通信越しのその声を聞いて燃料残量計に目を向けたが、そこまで変わっていないように感じた。だが、微かに変わっているほんの0.5度が自分たちの生死に関わっているのは事実。
『ああ、こち-もやるべき仕事はし終え……ん?』
『どうした?』
通信が途絶えたのかと思ったが、どうやら少し黙っていただけだったようだ。
『こちら-ウゴ、応答せよキ-! 繰り返す、-ウゴからキシ、応答-よ!』
『こちら帝國空軍柚雅隊『礬床』。特殊逓信部へ、何があった?』
「礬床」こと嬉野隊長も動揺しているのが通信越しに分かる。想定外らしいことは自分でも分かるが、それ以外は分からない。
『……こちら特-逓信部の加納。問題が発-した』
『柚雅隊から特殊逓信部へ、俺たちに出来ることはあるか?』
問題が発生したが、全員冷静さを取り戻して
『いや、君た-は兎に角逃げてくれ。君たちに今、出来るこ-は無い。“生きてたら”また会おう』
加納という男はその言葉を最後に通信を切ったようだ。
『分からんが、取り敢えず帰投する。方位を次の参照点に向け……何だアレは?』
「アレとは何です?」
『島の……少し北のあたりの地面に煙……なのか?』
言われた位置を見ると、一部に煙と微かな光が見えた。
「加納殿は『逃げろ』と言ってました。速度を上げてとっととここから離脱しましょう」
『そうだな』
機体を傾けつつ、帰る方向へと機首の方向を変えていた最中だった。
『アレは……大型ロケットの一種なのか?』
旋回しつつ先ほどの位置を見直すと、その光の元から煙を上げつつ“それ”が天へと加速していった。
「パーラメント連邦の軍事機密」とはこのことだったのか? そんなことを考えて加速するロケットを眺めていた時だった。
カ――――――――――ッッッ!!!!!!
目の前に、もう1つの太陽が現れた。




