4話 日読みの酉
章明23年 8月20日 佐波鈴北部 根倉素府下基地 周辺空域
『こちら根倉素府下空軍基地。南から北上してくる2機、応答せよ』
『こちら特設航空団飛行群、第401飛行隊、柚雅隊1番機の『礬床』だ』
「同じく柚雅隊2番機、『理沂』です」
『柚雅隊か。長旅お疲れ様だ。滑走路は見ての通り空いている。問題が無いなら誘導に従い、順に着陸してくれ。連絡機以外で着陸する機体は君らの部隊の機が初めてだ。長旅終わりにこんなことをいうのも何だが、滑走路に傷をつけないでくれよ』
機種転換を行い、転属、戦術名に「礬床」を名乗る嬉野 章治中尉隊長の隊、柚雅隊の2番機となった。それから分隊規模とはいえ編隊飛行ができるように息を合わせる訓練を行い、今朝、太陽の出ないまでも夜明けの光が空を照らし始めるころに出立した。燃料槽を懸吊できれば良かったのだが輸送用懸垂槽に自分の荷物を詰め込んでいるため航続距離が足りず、途中で空中給油を行ってこの地まで飛ぶことになった。
『柚雅隊1番機の着陸を確認。2番機、着陸してくれ』
「了解した。着陸する」
何度も訓練したときと同様の手順を以て、落ち着いて操作して機体を滑走路に接地させた。
『柚雅隊2番機の着陸を確認した。1番機と同じように格納庫前まで移動させてから降りてくれ』
着陸した後は基地管制に従ってその通りに機体を移してから機体を降りた。
根倉素府下空軍基地 庁舎
「特設航空団飛行群第401飛行隊、柚雅隊隊長嬉野中尉及び副隊長相坂少尉、ただいま到着いたしました」
「長旅ご苦労だった。私はこの特設航空団とこの基地の司令を兼ねて務めている松栄 八泰だ。階級は大佐だ。特設……臨時で且つ急な配置だったためかこの席に据えることのできる空軍少将を用意出来なかったらしくこの階級での航空団、基地司令となった。他も統制を取るために副司令や飛行群司令、基地業務群司令らは中佐たちが招集されて運営している。まあそれでも優秀な者たちが集まっていることは事実。安心して業務に集中してくれ」
基地司令の話を聞き、現在の状況とこれからについての確認などを行った。
「――と、この辺りが話しておくべきことだったかな。後は……他のところの挨拶周りはしておけ。この基地はそう広くないし、施設の確認でもしていたら全員と会えるだろう」
「「了解しました」」
「それでは、解散」
暫く隊長と2人で基地を周り、挨拶をしつつ基地内の配置、間取りなどを確認していった。
「あと見てないところは……」
「格納庫だな。緊急発進の任務はもう少し人数が揃ってからだが、どうあれ俺たち飛行機乗りなら見ておかないとな」
基地内を巡り、残ったのは格納庫だけとなっていた。……俺もそうだが、隊長も割と雑なとこがあるため重要な区画も後回しだったり遠回りの巡り方になったりしていた。
根倉素府下空軍基地 格納庫
「お疲れ様です」
「おう、見ねぇ顔だと思ったが、アンタらがコイツらに乗ってきてたってことか」
「はい。中尉の嬉野です。第401飛行隊、柚雅隊の隊長で、彼が……」
「少尉の相坂です。よろしくお願いします」
格納庫に来てみれば整備補給群の人たちがこの基地に始めて来た戦闘機に集まっていた。格納庫に入るとその中の1人がこちらに気付いたので挨拶をしてみるとこの反応だった。
「そう固くならなくていい。俺たちだってここに来て数週間と経ってない」
とのこと。建って間もない基地だし、そんなものなのだろう。
「挨拶はこれくらいで良いと思うが、アンタらは他に何か……知りたいこととかあるか? 俺たちもそれほど知らないが、格納庫周りなら程度、な」
「いえ。ただ……機体をもう少し見ておきたくて。降りた後にまだ一度も見てなくて。相坂も見ておくか?」
「ええ。自分も見ておきたいです」
隊長も自分も着陸で機体を壊したり、高い負荷を掛けたりはしていないから気にすることのほどのことでも無いが長距離移動もあり、そしてここが高緯度帯になって温度が低くなったのもあるため念のため機体を確認したくなった。
「そうかい。じゃ、存分に見てってくれ。俺たちは丁度見れるところは見終わったところだ。そっちが見終わったらこっちの誰かに声を掛けてくれ」
「了解した」
そういうことで、改めて自分たちの機体を見ることとなった。
「うーん……パッと見の問題はなさそうだな……」
自分たちが乗っていたい機体は凰奏乙型という。凰奏原型機は、発動機はソ型15号300式2基、速度制限マッハ 2.83(3,090km/h)、最大速度マッハ3.2(3,490km/h)、非武装時航続距離約2,570km、乗員1名。固定武装20mm機関砲×1門、2型空対空誘導噴進弾×2または2甲型空対空噴進弾×2、胴体下面中央に5,000リットル入りの外部燃料タンクを懸吊可能。その他、自分たちがここに来るまでに使った輸送用懸垂槽や空中給油装置が搭載可能。気化熱冷却用に穀物アルコールを一定量搭載した事から「酒を待ち続ける鳳凰」のように連想され、一部の関係者から「日読みの酉」という愛称が用いられている……らしい。
乙型の機体は単座型で対磁気嵐の装甲を持った機体だ。原型機もレーダー、通信、エンジン制御に真空管が使われているが、その真空管を磁気嵐などから守る設計となっている。高緯度帯でのオーロラ発生時でも電子装置がある程度動くように、また制御装置本体が壊れないようにするために考えられた機体とのこと。この装甲によって最高速度や航続距離が原型機からやや短くなっている。エンジンも高緯度帯に対応できるように調整されているのだが、その所為で本土の緯度帯だと原型機と比べて多少エンジンの調子が悪くなる……というか、整備性が少し難しくなるらしい。あくまで聞いた話だが。ただ、夏だというのにかなり涼しいこの場所だと、その調整が大変になるというのは何となく分かる気がする。
「時間が掛かったから匂いの違いとかも分からないな……」
結局のところ、見たところであまり異常は見当たらないということで、2人ともすぐに格納庫を後にすることとなったのだった。
数日後 根倉素府下空軍基地 庁舎
「さて、諸君らに空の仕事だ」
極北の基地に到着してから早数日。もう1分隊と予備搭乗員が後から到着し、自分たちにこの基地で初めての仕事が基地司令官から言い渡された




