3話 再編と機体
章明23年 7月15日 福茶飛行場基地
兄貴が意味深長なことを口走ってだいたい1週間が経ち、自分の所属する空軍基地内ではいつもと少しだけ違う雰囲気が漂っていた。
「相坂少尉、少し良いか?」
話しかけてきた上官も、いつもとは違う雰囲気を漂わせていた。
「なんでしょう?」
「君の勤務態度と部隊についての話だ」
……ますます兄貴が普段何して暮らしているのか気になってきたな。
「この話をする前に、空軍が新型機の制式採用を行ったという話は聞いているかね?」
「話くらいは。風音の次の主力戦闘機として期待され、水平飛行において機外搭載物のない状態時以外でも音速突破を可能として、尚且つマッハ2から3程度の最高速を目指した機体……ですよね?」
「流石にそれくらいは知っていたか」
「興味はあります。戦闘機乗りとしての性として、乗れるものなら乗りたい機体ではあります」
「ほう」
一応個人の評価だとか、ある種軍機に触れる話もあるからなのか会議室での話となり、その道中では他愛無いというか、これから話されることであろう内容に多少関する雑談をしながら歩みを進めた。
同基地庁舎 会議室
さて、会議室についた。
「楽にしてくれ。何、懲戒処分だとか取って食おうって訳じゃない。……愚痴は言うかも知れんが、正式な譴責じゃないから流してくれ」
「お言葉に甘えて、失礼いたします」
「単刀直入だが、君の処遇についてだ。君の所属している重功隊から新設される部隊へ異動してもらうことになった」
「……そうですか」
「配属してすぐだと思うが、驚きはしないんだな」
「なんとなくは察しがついていたもので」
主に兄貴が理由だが。
「新設される部隊は先にも言っていた新型機で編成される部隊だ。規模は分隊規模だな」
分隊、規模は陸海空でそれぞれ異なるが、航空機については基本的に2機で行動する部隊のことを言う。分隊となると下士官……軍曹や曹長といった階級の者が隊を率いることが多い。それでも士官、尉官以上の者が率いることもある。
自分は少尉だし……分隊長になるのだろうか?
「隊の詳細は如何様で?」
「まだ詰め切れては無いが……兎に角君は2番機ということになる」
「はぁ……」
少し意外だったが、そういうこともある。
「機種転換はここでやってもらうが、所属する基地も転属ということになる。転属先は確か……佐波鈴島、屋端地域周辺に新設される帝國空軍基地だ」
「お、屋端ですか?」
佐波鈴の屋端と言えば、帝國の北の最果て。場合によればオーロラすら発生し得る程度の低緯度帯。白夜、極夜が起こる訳では無いが、極端に昼と夜の時間が季節によって大きく異なるような地域だ。辛うじて海軍の泊地があったような気がするが、それ以外は思い出せない。というか、その地域に空軍基地が新設されるということは、旧陸軍の飛行場も無かったのだろうか。
またとんでもないところに飛ばされることになったな。
「機種転換をしてから向かってもらうため、おおよそ1か月後くらいになるが、盆の墓参りは済ませておいてくれ」
「了解しました」
「それで後は何を言う必要があったか……そうだ。君がここに向けられる理由についてだが」
上官殿はバツの悪そうな顔というか、多少の苦笑を浮かべながら話を続けた。
「時折、相坂少尉が命令外の行為をしているという話を聞いてな。命令無視や命令に背くことまではしていないらしいが……自由過ぎると」
「それで譴責を受けているという自覚はあります」
「そこでだ。上層部は君の“扱い”について考えて、現場の裁量に重きを置かれるような環境の方が良いだろうという判断をしたらしい」
「こんなことを自分が聞くのもどうかと思うんですが、何故そういう判断に? いっちゃあ何ですが、“降ろす”という判断もできたのでは?」
自分が佐波鈴は屋端に飛ばされる理由はある程度分かったが、何故辺境とはいえ上層部がそうしてまで俺に戦闘機に乗せ続けようと思ったのか、純粋に疑問に思った。
「あー……それかぁ……。うーん……」
暫く唸った上官は、言い難そうに口を開いた。
「まぁ、そうだな。それは君の戦闘機乗りとしての技能自体は目覚ましいものであると判断したから、というのが大きなところだ」
「そういった人間も、自分以外にいないわけでは無いのでは……?」
「だから君の次に所属することになる隊の隊長はある種、君に似たような人間が選ばれたのだが……。君は同年代の飛行機乗りの中でも最も操縦技能の高い内の1人と評された訳だ。『同年代の中で』、ということがミソだな」
「そういうこと……ですか」
「君の成長にも期待している、ということでもある。北の大地は確かに過酷な土地ではあるが、そこでは警戒配備や哨戒任務以外の重要な任務があると聞き及んでいる。その地での任務に全うし、更なる活躍を私自身期待している。頑張り給え」
「……了解しました」
そしてここから、新たな機体への機種転換が始まるのだった。




