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雷鳴の獣と約束の風

「こ、怖い……」

 しぐれの胸元に顔を深く埋めたまま、ひばりは小さなくちばしをガチガチと激しく震わせていました。

 その細い爪が、恐怖のあまりしぐれの皮膚をきつく掴んでいます。

 爪の先から伝わってくる小さな命の震えは、まるで激しく波打つ波紋のように、しぐれの身体へと伝播でんぱしていきました。


 しぐれは何も言わず、ただ黙ってくらい空を見上げました。

 黒雲の奥、はるか高い天の底で、青白い光の筋が血管のように不気味に、そして激しく脈打っています。

 それはまるで、肉眼では捉えきれない巨大な大気の獣が、世界を噛み砕こうと牙を剥き出しているかのようでした。

 直後、再び轟く重低音の地鳴り。

 落雷の衝撃で星屑堂の古い木造の格子戸がガタガタと悲鳴をあげ、激しい風がうなりをあげて吹き込んできます。

 激しい雨粒が縁側の木床を激しく叩きつけては、白い飛沫しぶきとなって二匹の足元まで容赦なく跳ねてきました。


「大丈夫だよ」

 しぐれは、静かに言いました。

 その声は不思議なほど落ち着いていて、激しい嵐のただ中にあっても、ひばりの耳の奥へ真っ直ぐに染み込んでいきました。

 それは、屋根を乱暴に叩く激しい雨の音ではなく、静かな夜にしとしとと降り積もる、あの優しい雨音によく似ていました。

「雨は、怖いだけじゃないから。世界を壊そうとしているわけじゃないんだ。ただ、たくさん溜まった涙を、吐き出しているだけなんだよ。空だって、ときどき大声で泣きたくなることがあるんだ」

 しぐれはそう言いながら、自分の長い尻尾をさらに引き寄せ、ひばりの背中を優しく包み込みました。

 外側から吹き付ける冷たい夜風を遮るように、自身の身体を盾にします。

 きつねの確かな体温と、柔らかく厚い毛並みが、恐怖で硬直していた雀の身体を、時間をかけてゆっくりと、優しくほぐしていきます。


 やがて、夜が深く更けるころ。

 あれほど世界を揺るがしていた地鳴りのような雷鳴は、光の残像だけを雲の奥に残して、次第に遠くの山背やませの向こうへと遠ざかっていきました。

 それとともに、狂ったように荒れ狂っていた雨脚も、一息ごとにその勢いを失っていきます。

 バラバラと騒がしかったトタン屋根の音は、いつしか、ぽつ、ぽつ、という穏やかなリズムへと変わっていました。

 庭を白く覆っていた水の煙が薄れていくと、重たい雲の隙間から、洗われたばかりの淡く清らかな月の光が、静かに地上へと差し込み始めたのでした。

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