悲しい日の飴玉
「ねえ、しぐれ」
ふいに、ひばりが温かい尾の隙間から小さな声を溢しました。
その視線は、虚空からひっきりなしに落ちてくる無数の雨粒に向けられていました。
「なに?」
「雨って、どういう味がするの? ぼくたち鳥にとっては、ただの冷たくて、ちょっと土の匂いがする水だけど……雨を食べるしぐれにとっては、特別な食べ物なんでしょう?」
しぐれは、すぐには答えませんでした。
切れ上がった金色の瞳を少しだけ動かし、睫毛に溜まった重い雫を、まばたきで静かに弾きます。
彼は、これまでに食べてきた無数の雨の味を思い出していました。
春の始まりを告げる雨は、芽吹き始めた若葉の初々しい苦みと大地の目覚めの味がしました。
夏の夕立は、焼け付いたアスファルトの激しい匂いと、川の荒々しさを孕んでいました。
秋の長雨は、枯れ葉の寂しさと、どこか遠くの果実が熟して落ちたような濃厚な香りがしました。
けれど、そのどれとも違う、彼が胸の奥深くに大切に仕舞い込んでいる、あの特別な感覚。
しぐれはゆっくりと、静かに言葉を紡ぎました。
「悲しい日の飴玉みたいな味」
「え?」
ひばりはきょとんとして、丸い頭を傾げました。
「冷たいけれど、ほんの少しだけ、泣きたくなるほど甘いんだ」
それは、おばあさんに拾われる前、まだ名もなき小さな白い塊だった頃の記憶でした。
凍えるような冬の雨の中、誰にも気づかれずに消えてしまいそうだったあの夜。
冷たさに身体が動かなくなり、絶望と一緒に口に含んだ雨粒は、なぜかほんのりと、優しく甘かったのです。
世界に拒絶されているようでいて、実はその世界に生かされているような、不思議な甘み。
ひばりはしばらくその言葉を頭の中で転がすようにして、それから、やっぱりくすくすと可笑しそうに笑いました。
「やっぱり、変なの。飴玉が冷たいなんて、そんなの聞いたことないや」
「そうかな」
「うん。でも、嫌いじゃないな。その味、ぼくもちょっとだけ食べてみたいかも。そしたら、雨の日がもう少しだけ好きになれるかもしれないし」
そのときでした。
世界が静まり返っていた雨の夜に、突如として異変が起こります。
ゴオゥッ、と大気を底から引き裂くような、禍々(まがまが)しい地鳴りが響いたかと思うと――
ぴしゃん!
鼓膜を直接突き破るような激しい爆音が、星屑堂の裏庭を震わせました。稲妻の鋭い白光が、闇に包まれていた世界を、一瞬だけ昼間よりも白く、残酷なほどの鮮明さで浮かび上がらせます。
ひばりは短い悲鳴をあげ、しぐれの白い毛並みの奥深くへと、狂ったようにしがみつきました。小さな身体が、落雷の衝撃波で激しく震えていました。




